第100話 vsミノタウロス ④完全解体(パーフェクトイレイサー)


(三人称視点)



「それが貴様の最後の切り札か?」


 ミノタウロスは、シテンの纏う気配が変わったのを感じ取っていた。

 シテンの見掛けに変化はない。

 だがあのギラギラと、肌を刺してくるような眼差し。

 あの眼差しを、彼はつい先ほども目にした覚えがある。


(命を賭して、役目を果たそうとする者の眼だ。勇者の攻撃を届かせるために、時間稼ぎに命を懸けた、名も知らぬ冒険者達と同じ眼差し)


「決死の覚悟ということか……受けて立つ!!」


「――ッ!!」


 その宣言を皮切りに、爆発的な初速でシテンが詰め寄る。

 重傷を負っているにもかかわらず、その速度はミノタウロスの想定を超えていた。


(【迷宮改変ダンジョンマスター】が間に合わない! 近接戦に持ち込む気か!)


 溜め動作を必要とする迷宮改変が間に合わないと悟ると、ミノタウロスは回避の構えを見せた。


(俺にはあらゆる攻撃が通用しない。……が、あのシテンがここまで温存していた切札。その正体が分かるまでは、一度様子見に徹するべきか)



 瞬く間に両者の距離は零に近づく。

 シテンの右手が、ミノタウロスの身体に触れようとする。


(あの手に触れられるのは不味い!)


 獣の本能、と呼ぶべきか。

 理屈では分からない衝動に、しかしミノタウロスは迷うことなく従った。


 巨体にそぐわぬ俊敏な動きで、後ろに飛びのいて攻撃を躱す。

 間髪容れずに追撃するシテン。だがここまでは、ミノタウロスの作戦通りだった。


(掛かった!)


 ミノタウロスが回避した先、そこには彼の武器である巨斧が、地面に突き刺さっていたのだ。


 数十トンはあるそれを片腕で引き抜くと、即座にシテン目掛けて振りかぶる。

 狙いは左半身。左手が動かない今のシテンにとっての弱点ウィークポイント


(今! このタイミング! 奴は攻撃動作の最中、回避はできない!)



 シテンがミノタウロスに触れるより一瞬早く、彼の身体に巨斧が食い込む。

 会心のタイミングでカウンターが入り、ミノタウロスは勝利を確信していた。





 だが。


ぬるい・・・



 突如として・・・・・巨斧が消失した・・・・・・・




「な、」


(何が起こった!? 今のは――)


 確かにシテンに触れた筈の両刃斧。

 その刃が、ごっそりと削り取られていた。まるで巨大な怪物の牙に、食い千切られたかのように。


 そしてミノタウロスの驚愕をよそに、今度はシテンの攻撃が命中する。

 クロスカウンター。ミノタウロスに回避の余地はない。



「【完全解体パーフェクトイレイサー】」



 ばくり。

 と、咀嚼音が聞こえた気がした。

 シテンに触れられたミノタウロスの片腕は、肘から先が消滅していた。



 遅れて、断面から血が噴き出る。



「うおおおおおっ!!!?」



 全力で飛びのいて、さらなる追撃を回避するミノタウロス。

 自身の身に起きた現象に、動揺を隠し切れていなかった。



(何が起きた!? 奴に触れた部分が、跡形もなく消滅した! さっきまでの『切断する』解体とは違う、完全なる消失!)



 傷口からは未だに血が零れ続けている。

 そして気づく。傷ついた腕が、再生していない事に。


「馬鹿な」


(【進化細胞エボリューションセル】による超再生が、機能していない!? 細胞レベルで完全に解体したというのか!!)



 ミノタウロスを不死身たらしめるギミック、進化細胞。

 細胞が一片でも残っていれば、そこから肉体を超再生する事ができる。

 【爆破解体ブラストデモリッション】でも完全には消し去れなかったミノタウロスの細胞が、完全に消滅していた。



(先ほどまでの解体スキルとは、比べ物にならない攻撃力!! これが貴様の隠し持っていた、最後の切り札というわけか!)



「そのよわいでこの力。称賛に値する!!」


 ミノタウロスから発せられたのは、罵倒ではなく賛美の言葉だった。

 彼は今、感動していた。たった一人の人間が、魔王の使徒という絶大な存在に恐れず立ち向かい、こうして消えない傷をつけたのだ。



「これだから戦いは面白い!! だが最後に勝つのは俺だっ!」



 後方に跳躍し、距離を取ったミノタウロスは、その勢いのまま地面を踏みぬいた。

 地震のような震動が響き、ボロボロになっていた20階層の床が再びめくれ上がる。



(あの完全解体の攻撃力は脅威だが、弱点も存在する。それは射程!)



 シテンの行く手を、巻き上げられた大量の瓦礫が阻む。

 その隙にミノタウロスは移動し、迷宮改変のスキルを発動させようとする。


(奴は直接俺の手に触れた。つまり、接触しなければ・・・・・・・消失できなかった・・・・・・・・のだ。距離を取り続ければ、あの埒外の攻撃が足ることは無い。唯一見せた遠距離攻撃も、あの腕では【遠隔解体カットアウト】のコースも限られる。この位置と距離ならば十分回避可能! 迷宮改変が発動すれば、二度と奴は俺に近づけない!)





 その思惑を、解体スキルは凌駕する。


「ようやく、この力の制御にも慣れてきた――」


 シテンはその場に立ち止まり、手のひらをミノタウロスに向けた。


「決着をつけよう」



 解体スキルには、物質を伝達するという性質がある。

 本来このスキルは、対象に直接触れて発動するものだ。

 しかし実践において、相手に直接触れるのというのはリスクが高い。

 なのでシテンは普段、短剣に解体スキルを伝達させて、短剣に触れた対象を解体する、という技術を使っている。

 足元から地面を解体し、アリ地獄の様にして絡めとった相手を解体するのも同じ原理だ。伝達先が短剣から地面に変わっただけ。

 直接接触と比べると威力は落ちるが、元々凄まじい攻撃力を持つ解体スキルにとって、このデメリットはあって無いようなものだった。




 そして、伝達させる対象は、何も固体物とは限らない。



 シテンの手の平が、空気を捉える。


(飛べ、僕のスキル――)


 大気が震える。

 空気を伝って、シテンの解体スキルが飛ぶ・・

 完全解体使用中にのみ許される、防御不可能、回避不可能の一撃。


「完全解体――【空 気 伝 達エアロバイパス】」


 解体スキルの力によって大気が、全てを喰らい尽くす暴獣の牙と化す。

 悪魔の如きその一撃は、射線上の瓦礫ごと、ミノタウロスの肉体を喰らい尽くした。



◆◆◆

百話突破!!!

執筆未経験の作者がここまで継続できたのは、ひとえに読者の皆様の応援のお陰です!

本当にありがとうございます!



カッコ内のセリフがついつい長くなってしまう……

カッコ内で改行、使った方がいいですかね?

台詞が長すぎて見づらくなっていませんでしょうか?皆様のご意見を頂戴したいです。


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