第99話 vsミノタウロス ③三重解体
(三人称視点)
「影に潜る力か……その防具の能力か? 厄介だな」
必殺の攻撃を二度、シテンに回避されたミノタウロスは、その原因を冷静に分析していた。
「だが、お前の魔力も体力も、無限ではない。いずれ限界が来るだろう。ならば俺は、お前が死ぬまで攻め続けるのみ」
ミノタウロスが出した結論は、奇しくもシテンと同じく、相手が死ぬまで攻め続ける、というものだった。
そして、両者が同じ思惑で動きだす。
先手を取ったのはミノタウロスだった。
「【
迷宮改変スキルの行使には、一瞬の溜めを必要とする。
ミノタウロスもそれを理解しているので、シテンに妨害されない距離を保って発動していた。
しかし、シテンはその思考の上をいく。
「三度目はない!」
「クッ!?」
突如、ミノタウロスの足元から、血でできた刃が飛び出した。
降り注ぐ毒液と瓦礫の雨に紛れて、自らの血液を操作しミノタウロスの下まで細く伸ばしていたのだ。
スキルの使用を中断し身を捻るミノタウロスだったが、間に合わず片足を斬り飛ばされた。
(血液操作の射程ギリギリ……! 精度は甘いけど、その分手数で攻める!)
伸ばしていた血の刃は一本だけではない。
四方を囲むように、あらゆる角度から必殺の刃がミノタウロスに襲い掛かる。
「
足を瞬時に再生させたミノタウロスは、血の刃の攻撃を気にも留めず、一直線にシテンに迫る。
「俺には貴様のスキルは通用せん!! 術者を潰せば終わりだ!!」
「
シテンの意味深長な返答を聞いた瞬間、ミノタウロスはシテンの術中に嵌まったことを悟った。
シテンとミノタウロスを結ぶ直線。
そこにミノタウロスが踏み込んだ瞬間、足元が砂となって崩れたのだ。
(進行ルート上に、予め罠を……シテンめ、俺の思考を読んだとでもいうのか!?)
(ミノタウロスの行動はインパクトこそあるけど、動き自体は直線的で分かりやすい。だったら、
砂に足を取られ、ミノタウロスは体勢を崩した。
その姿を嘲笑うかのように、岩盤がめくれ上がりヒビだらけの地面から、シテンの血の刃が何本も顔を出す。
「今度の攻撃はどうかな? ――【
ボンッッッッ!!!
と勢いよく爆発音を立てて、ミノタウロスの身体が爆破四散する。
飛び散ったミノタウロスの破片は既に再生を始めているが、傷口が焼け焦げているせいだろう、明らかに速度が遅い。
(まだだ!)
間髪いれず、シテンは【
バラバラの肉片になったミノタウロスが凍り付く。だが、再生を止めることはできない。
「――――」
続けてシテンは、氷漬けのミノタウロスを近くの毒沼の中に蹴り落とした。
そして、容赦なく刃を突き立てる。
「喰らえ――【
再び、大きな爆発音がこだまする。
それも一度ではない。二度、三度と、立て続けに爆発が起きる。
ミノタウロスは今、毒沼の中で全身を切り刻まれ、爆殺され続けているのだ。
(毒殺、斬殺、爆殺の
シテンは毒沼に手を突っ込みながら、休みなく解体を続ける。
身体を侵す毒は回復ポーションと、解体スキルによる毒分解で無効化する。
それがおよそ一分、続いただろうか。
やがて爆発が止み、20階層には静寂が訪れる。
十数回に渡る、
その代償は安くはなかった。今の攻撃でシテンは、殆どの魔力を使い果たしてしまった。
ぜぇぜぇと、荒い息を吐きながら、新たな回復ポーションをシテンは無理やり口に含む。
(……魔力量的に、これ以上三獄堅手の魔法は使えない。これでも殺しきれないなら、もう――)
「それで終わりか? シテン」
「ッ!!???」
直後、
たった今シテンが居た場所の背後には、ミノタウロスが拳を振り抜いた姿勢で立っていた。
「……これも凌ぐか。流石だな。だがもう限界だろう」
ミノタウロスの拳は、半分ほどが
拳がシテンに当たる直前、咄嗟にタイミングを合わせて解体スキルを発動し、カウンターでミノタウロスの拳を削り取って勢いを殺したのだ。
……だが、全ての衝撃を殺し切ったわけではなかった。
「ハァ、ハァ……」
よろよろと、体を揺らしながらも立ち上がるシテン。
その左手は、あらぬ方向に折れ曲がっていた。
(クソッ、何だ今の!? 毒沼に沈めた状態から、どうやって僕の背後を取った!?)
「……。これで最後だ、シテン。大人しく俺に従え。そうすれば貴様の命だけは助けてやる。……これは嘘ではない。
勝負がついたと判断したミノタウロスが、最終通告を言い渡す。
事実、あれほど完璧にミノタウロスを罠に嵌めて、数百単位で殺したにもかかわらず、ミノタウロスは無傷の状態で地面に足をつけている。
対して、シテンは満身創痍の状態だ。左手は折れ、魔力も尽きた状態。今の攻撃で、他にも細かな打撲や擦り傷があちこちについている。
――それでもシテンの眼差しからは、未だ闘志は消えていない。
「――いいだろう。ならば俺が直接、引導を渡してやろう」
その眼差しを返答を受け取ったミノタウロスが、再び構える。
そしてシテンは、
「舐めるなよ、ミノタウロス――僕はまだ、手札を出し切ったわけじゃない」
最後の切り札を使う事を、決断した。
(……僕の三つ目の派生スキル。最強にして最後の手段)
「【解体】――【
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