第94話 勇者パーティー、解体


「お……俺の聖剣が!?」


 真っ二つに切断された聖剣ダーインスレイヴが地面に転がる。

 これでイカロスは武器を失った。


「舐めんな……! まだ【勇者】のユニークスキルは残ってる! てめぇを殴り飛ばすくらいは――」


「いけません! 勇者様っ!」


 馬鹿正直に真正面から、超速で殴りかかってくるイカロス。

 けれど、その速度にはもう慣れた・・・・・。今の僕の動体視力なら、十分に対応できる。


「お前が単細胞で助かったよ――【解体】、解除・・


 次の瞬間、勇者の身に付けていた装備がバラバラに砕け散った。

 高速移動していたイカロスはその衝撃でバランスを崩し、僕ではなく迷宮の壁に勢いよく激突する。


「グエッ、なんだ、装備が急に……!」


「その装備、僕が集めた素材で作った装備だろ?」


 僕は身動きの取れないイカロスに、ゆっくりと近づきながら語り掛ける。


「その素材は、僕が解体スキルで維持していたんだ。それを解除すれば当然素材は消滅する。モンスターの死体と同じようにね。当然、装備は壊れて機能不全をおこす。――解体スキルで生み出した装備は、僕がいつでも壊すことができるんだよ」


 装備品が冒険者に与える影響は大きい。

 聖剣含め、ほぼ全ての装備を失ったイカロスはもう、さっきみたいなスピードは出せないだろう。


 つまり、この攻撃を避ける事は不可能。


「【遠隔解体カットアウト】――五連斬」



 右手、右足、左手、左足、首。

 放たれた五つの斬撃は、イカロスの四肢をバラバラに引き裂いた。



「え……う、ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!?????」



 頭だけになってしまったイカロスが、耳障りな叫び声を上げる。

臨死解体ニアデッド】を使っているから、首を切断しても死にはしない。

 証拠に、断面からは一切出血がなく、代わりに絵の具で塗りつぶしたように真っ黒になっていた。

 臨死解体で物体を切断すると、断面がこうなる。



「ア”ア”ア”ア”!!! 斬られた! 斬られたアアァァァ!!!」


「ギャーギャーうるさいな。バラバラにしただけでしょ――っと」


 イカロスの喚き声に紛れて何かをしようとしていたルチアに、遠隔解体を飛ばす。


「ッ!?」


 咄嗟に結界を張ったみたいだけど、そんな即席の防御じゃ防げない。

 解体スキルは、最強の攻撃力を持つスキルなんだから。

 遠隔解体の斬撃は結界を紙きれのように切断し、そのままルチアの身体を上下二つにする。


「う、くっ……」


 仕上げにルチアの首を斬り落として、首から下を動かないようにしておく。

 これで決着はついた。

 【暁の翼】の面々は皆地面に転がり、僕は無傷で立っている。

 それが僕と彼らの実力差だった。


「あ、ありえねえ……俺たちが負けた? そんな筈はない、何かのイカサマに違いない……」


 ルチアがやられた途端、騒いでいたイカロスは一転してぶつぶつと何かを呟き始めた。

 どうも精神が不安定のようだ。


「……私達を、殺すつもりですか。勇者と聖女を殺したとなれば、あなたは人類救済を阻む大敵として、世界中から狙われることになりますよ」



上等だよ・・・・。もう覚悟は決まった。僕とその周りの人達を害する奴らには、僕も容赦はしない。聖教会だろうが、世界の誰であろうと」


 そんな脅し程度では、今の僕を止めることはできない。

 それにね、と赤子に言い聞かせるように、敢えてゆっくりと続ける。


「僕が手を下したとバレなきゃいい。君たち四人を粉末状になるまでバラバラに解体して、迷宮の壁にでも混ぜ込んでおけば、誰も気づかない。世間には『ミノタウロスとの決死の戦いの末戦死した』って事になるんじゃないかな?」



 ここまで言って、ようやく僕が本気であると悟ったのだろう。イカロスとチタが青ざめた顔で、無様に命乞いを始めた。



「待て! 悪かった、俺が悪かった!! だからシテン、落ち着くんだ! お前は今取り返しのつかないことをしでかそうとしているぞ!?」


「い、命だけは助けてくれニャ! どんな事でもするニャ、何でも言う事聞くニャ! 今までヒドい事言ったのも謝るニャ! だから殺さないではしいニャぁ!?」




 ルチアもイカロスも身体を解体されて生き残っているのは、【臨死解体ニアデッド】のお陰だ。

 僕はいつでも臨死解体を解除して、本当に彼らをバラバラ死体にする事ができる。

 勇者パーティー【暁の翼】の生殺与奪は、僕の手にある。


 シアを見殺しにしたこいつらは、絶対に許せない。

 今すぐにでも臨死解体を解除して、生ゴミのようにバラバラにしてやりたい。

けれど。


「最後の機会だ。もう一度聞く……シアは今、何処に居る」


 シアを探す手がかりは、こいつらが握っている。

 生きているかどうかは分からない。例え手遅れだったとしても、せめて亡骸は弔ってあげたい。

 僕の中にに残されたわずかな理性が、僕に冷静さを取り戻させていた。


「ルチア。お前の【心眼】なら、シアの居場所が分かるだろう。大人しく道案内をすれば、命だけは・・・・助けてあげてもいい」


「--ッ」


 今度は、僕の要求を拒むことはできない。それ以外に道はないのだ。

 水面の餌に食いつく魚の様に、勇者達はパクパクと、了承の言葉を口にした。






 ちなみに、バラバラになった身体を戻すつもりはない。

 こいつらは今後一生、首だけの状態で生き続けるのだ。

 そして今回の悪行を世に知らしめれば、勇者と聖女の名声は今度こそ地に落ちるだろう。

 命だけは・・・・とは言ったので、嘘はついていない。


 元より、僕はこいつらを簡単に殺すつもりは無かった。

 感情のままに殺せば一時は気分が晴れるかもしれないが……それよりも敢えて生かす事で、社会的に殺した方がいい・・と思ったからだ

 こいつらには、きちんと罪を償ってもらおう。


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