第93話 シテンvs勇者パーティー


(一人称視点)


「はあ?」


 目の前のイカロスが、馬鹿にしたように僕を笑った。


「今なんて言った? 俺の聞き間違いか? 『お前たちを殺す』? ――ギャハハハハハハ!!」


 腹を抱えて大笑いを始めたイカロスに釣られて、ヴィルダとチタも笑いだす。


「プッ」


「ニャハハ! 何様のつもりニャ!?」


「殺すぅ? あのゴミ漁りのシテンがぁ? 何言っちゃってるんだろうなあ? なあシテン、お前が俺の寄生虫でしかないって事、忘れて――」



「【遠隔解体カットアウト】」



 ヴィルダの首が、地面に転がる。

 何の反応もできず、断末魔の悲鳴も上げられない。あっけない最後だった。


 イカロス達の表情が固まる。


「僕、言ったよね。答えなきゃ殺すって」


 僕の心には、何のさざめきも無い。

 かつての仲間の首を斬り落としても、全く問題はない。


「よくの前で、隙だらけで笑ってられたよね。――さっさと答えろよ。時間が無いんだ」


 僕はイカロスらとの距離をゆっくり詰める。

 一番面倒な後衛火力ヴィルダは潰した。残りは三人。



「な――舐めるんじゃねーニャ!!」



 真っ先に反応したのは、斥候のチタだった。

 猫獣人らしく、驚異的な身体能力で僕に飛び掛かってくる。


何をしたのかは・・・・・・・知らニャイ・・・・・けど、不意を突いただけで調子乗ってんじゃねーニャ!? アタシらはAランクで、お前はCランク! どう考えても勝てる訳ないニャ!!」


 一直線に向かってくると思いきや、直前で方向転換し、彼女は周囲の壁や天井を足場にして、ゴムボールのように飛び跳ね始めたのだ。


「アタシのスキルを忘れたかニャ!? アタシのスキルは【反射リフレクト】! どんな物理攻撃も跳ね返せる無敵のスキルニャ! お前の解体スキルじゃ天地がひっくり返ってもアタシには届かないニャ!」



 うん、そのスキルはよく知っている。

 手足に反射スキルを掛けて、壁や床を反射して四方に飛び回るのがチタの戦闘スタイルだ。



「質問に答える気は無さそうだね」


「ヴィルダの仇っ! お前の内臓を撒き散らしてやるニャ!!」


 物理反射?

 何も問題ない。クリオプレケスみたいに、物理攻撃を無効化する輩はごまんと居る。

 僕はそいつらへの対抗策もちゃんと編み出している。


「解体――【臨死解体ニアアデッド】」


 僕の腸を抉り出そうとしたのだろう。

 飛び込んできたチタの攻撃を籠手で受け、返しに短剣でチタの首を撫でる。


「馬鹿かニャ? そんなの効かニャイ――」


 余裕の表情で僕の攻撃を反射しようとしたチタは、何も反射できず首を切断された。

 臨死解体は物理的な切断ではなく、概念的に切断する派生スキル。

 物理攻撃しか・・跳ね返せない反射スキルでは、この攻撃は防げない。

 驚愕の表情を浮かべたチタの首が、地面に転がる。


「にゃ、にゃんで……」


「お前らの戦い方はよーく知ってるよ。ずっと後ろで見てた・・・・・・・・・からね」



 僕がただ黙って、勇者パーティーの見張り番をしてただけと思ってたのか?

 こいつら、本当に僕の事を見てなかったんだな。


 【暁の翼】に居る間、僕はずっとイカロス達の戦い方を観察していた。

 性格は終わっているが、彼らの戦闘センスは本物だ。僕は間近でそれを観察し、自分の戦闘スタイルに取り込んで、解体スキルを昇華させてきた。


 当時からさらに研鑽を重ねた僕と、大して代わり映えもしない勇者達。

 その結果が今、目の前に現れていた。


「あと二人。――【勇者】、【聖女】。後はお前らだけだ」


 今のところ何もしてこないイカロスに視線を向けると、ルチアから回復術を施されているところだった。

 ミノタウロスの戦闘で傷ついたであろう身体が、完治していく。



「テメエ……俺に実力を隠してやがったな!? 解体スキルにそんな力があるなんて聞いてねぇぞ!!」


「僕は何度もこの力を紹介したつもりだよ。お前らが話を聞いてなかったんだろ」


「嘘をつくな!! クソが、なんで【勇者】の俺がこんな目に遭って、たまたま・・・・ユニークスキルを得ただけのお前が、周りに持ち上げられてるんだ!?」


「お前の性格がクソだからだよ。クソ勇者」


 完治したイカロスが、こめかみに青筋を立てる。


「聞いたよ。迷宮で遭難してクソ漏らしたんだってね? 冒険者の間でクソ勇者って噂されてたよ。……まあ、お前のクソみたいな性格にはお似合いの末路だよクソ勇者」


「ッッッ!! クソクソクソがあああぁぁぁ!! 調子乗ってんじゃねぇぞテメェ!!」


「クソクソうるさいよ。自己紹介か?」


「――殺す!!」


 僕の挑発に乗って、激情したイカロスが突っ込んでくる。

 こいつの勇者スキルによる身体能力向上は厄介だが、こうも直線的な動きになれば余裕で対応できる。


「いけません勇者様っ! 落ち着いてください!」


「黙れルチア! お前もシテンに味方するのか!!?? 黙って見てないで俺を助けろ!!」


「……っ。シテン、これまでの行いは謝罪いたします。ですからどうか、刃を収めてください! 今ならまだ話し合えば……」


「何寝ぼけたこと言ってるの? 対話で解決する段階はとっくに過ぎてるよ。――お前らはシアを見捨てて逃げ出した。その時点でもう、何もかもが手遅れだ」


 聖剣と勇者スキルの力でごり押ししてくるイカロスの攻撃を、レッサーヴァンパイアの防具の力で、影に潜ってやり過ごす。

 イカロスの戦闘能力もよく知っている。

 あいつは実体を持たない相手に対し、単独で有効な攻撃手段を持ち合わせていない。


「――【聖鎖】」


 影から奇襲攻撃を目論んだ僕を、輝く鎖が捕らえようとしてくる。

 ああ、ルチアの【心眼】スキルで、僕の攻撃タイミングを見切ったのか。

 じゃあ、新装備・・・の力を使うとしよう。


「【三獄堅手さんごくけんじゅ】――【獄炎】」


 クリオプレケスとの戦いで得た、ケルベロスの死骸。

 それを解体スキルで保存し、素材として生み出した装備がこの【三獄堅手】だ。

 レッサーヴァンパイアの防具同様、特殊な能力を兼ね備えている。

 そのうちの一つが、炎、氷、雷。三種の属性魔法の発動だ。



 僕の両手に付けた籠手から炎が生じ、こちらに伸びてきた鎖を焼き払う。



「くっ――」


「クソが! ちょこまかと!!」


「――年貢の納め時だ、イカロス」



 今度こそ、僕の攻撃を止める術はない。

 タイミングを見計らって、イカロスの聖剣に僕の短剣を当てる。


「【解体】――【臨死解体ニアデッド】」


 防御力を無視した、概念的解体。

 絶対に壊れないとされていた聖剣ダーインスレイヴが、真っ二つに切断された。


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