第87話 再び、迷宮へ


 約束の日時を過ぎても、シアが現れない。

 つまり、シアの身に何かが起きた可能性が高い。


「クソッ……!」


 僕が真っ先に訪れたのは、冒険者ギルドの西支部だった。

 シアに危害を加える可能性があるとしたら、真っ先に候補に挙がるのはアドレークだ。


 だがそこで得られた情報は、思いもよらないものだった。



「イカロスが、シアを連れて迷宮へ……!?」


「凄い大騒ぎでしたよ。新しい八人目の聖女が見つかって、その子と協力してミノタウロスを討伐しに行くのだとか。その聖女さんは、確かにシアって名前の子でしたね」


 お世話になってる受付嬢のツバキさんが、当時の状況を詳しく教えてくれた。


 僕らが迷宮で隠れ家を作っている間、勇者一行が突如ここに現れて、聖戦の開幕を宣言したらしい。

 ミノタウロスは魔王の配下であり、魔王討伐には避けて通れない敵なのだと。

 新たな聖女と熾天使を復活させ、その力でミノタウロスを今度こそ討滅するのだと。


 そして共に聖戦を戦う冒険者を募り、多くの冒険者が名乗りを上げたのだとか。

 その時ギルドにはアドレークも居て、勇者一行への手厚いサポートを約束したのだとか。


「ミノタウロスは迷宮都市における目下最大の障害……それを勇者と共に排除する事で、自らの不祥事を有耶無耶にするつもりなのか!?」


 勇者が言っている事が本当なら、聖戦に協力したアドレークは聖教会にとっても重要なサポーターとなるだろう。

 バックに聖教会がついたとなれば、ギルドから過去の悪事を弾劾されても、身を守ってもらえるかもしれないと考えたのか。


 いや、そんな事はどうでもいい。

 シアがひとまず無事である事は分かった。問題はその後だ。


「シアが聖女? 意味が分からない……! あの子は普通の女の子だ! 聖女ならステータスにそう書いてあるだろ!」


「シテンさんは、シアさんとお知り合いだったんですか? でも、私もシアさんのステータスを見ましたが、ちゃんと【聖女】って書いてましたよ?」



▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼

【シア】 レベル:5

性別:メス 種族:人間


【スキル】

〇鑑定……視界に捉えた対象の、任意の情報を読み取る。習熟により、読み取れる情報の量と種類が追加される。


【備考】

〇聖女……生まれながらに天に祝福された、特別な存在。自身のスキルの性能を限界以上に引き出し、周囲の人間のスキル性能を向上させる。

▲△▲△▲△▲△▲△



 本当に、どういう状況なんだ?

 ツバキさんが嘘をついているようには見えない。第一その場には多くの冒険者が居た筈だ。彼らに尋ねれば聖女の真偽などすぐに分かる。


 けれど、僕はシアの事を幼い頃からよく知っている。もちろんステータスもだ。

 そこには備考欄に【聖女】なんて記載は確かになかった。

 ……ステータスを偽装してた? いや、ステータスを隠す・・ならばともかく、偽装するなんて話は聞いたことが無い。

 そんな事ができるなら、本人証明にもなっていたステータスの価値がひっくり返る。歴史に残る大事件だ。


 ……いや、それができるからこその、【聖女】なのか?

 シアは自身が聖女である事を隠して、孤児院の一員として過ごしていたのか?

 なぜ今になって、身分を明かして勇者と同行する事になったんだ?


「…………」


「勇者様一行は、既に迷宮へ向かいました。同行する事になった冒険者は、百人近くです。Sランクは居ませんが、Aランク冒険者も多数同行しています。今度こそ、ミノタウロスを討伐できるといいのですが……」


「…………。情報ありがとう、ツバキさん」


 これ以上はギルドに居ても意味がないだろう。

 もしかしたらアドレークがここに居るかもしれないが、今は他にやるべきことがある。


「シテンさん? どこに向かうんですか?」


「【魔王の墳墓】へ。シアに、直接聞きたい事ができたので」



 きっと、全ての答えは其処そこにある。

 全ての準備と覚悟を決めて、僕は迷宮へ潜る。

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