第79話 リリスとお茶会
(一人称視点)
「シテンさ~ん! 会いたかったですっ!」
迷宮、第3階層。
無事に釈放された僕はソフィアと共に、リリスの下を訪れた。
そこでリリスから出合い頭に、猛烈な
「わっ、びっくりした。急にどうしたのリリス?」
「だってシテンさんと会うのは久しぶりで、つい嬉しくって!」
密着体勢から何故か頬ずりまで始めたリリス。
確かにリリスと会うのは久しぶりかもしれない。石化事件を解決した後は色々後処理に追われて、迷宮に潜れていなかったし。
……とはいえ、ちょっと距離が近すぎる気がする!
サキュバスの種族柄なのか、普段から露出度の高い薄手の衣装を着ているせいで、ダイレクトにリリスの感触が伝わってくるのだ。
身体に押し付けられる胸元の慎ましやかな感触まで伝わってきて、心拍数が上昇するのを自覚する。こ、これがサキュバス流の挨拶なんだろうか?
「ん、んんっ!」
「あ……そ、そうだリリス、お土産があるんだ!」
ソフィアの咳払いで理性を取り戻した僕は、誤魔化すように、マジックバッグからお土産を取り出した。
昨夜、酒場で調査隊のみんなから預かったリリスへのプレゼントだ。
「わあっ、こんなに沢山!? これ、調査隊の皆さんからですか!?」
「打ち上げに参加できなかったリリスの分までって、みんな張り切ってプレゼントを用意してたわよ」
ソフィアの言う通り、リリスは先日の戦いにおいて大活躍してくれた。
そのお礼も兼ねてのプレゼントなのだ。アクセサリー、本、食べ物、護身用の装備、想いの籠った様々な品物がリリスの前に並ぶ。
「あ、ありがとうございますっ! 私、こんなに沢山プレゼントをもらうなんて初めてで……! 皆さんにもお礼を伝えておいてほしいです!」
目を輝かせながら沢山の贈り物を物色するリリスは、年相応の普通の女の子に見えた。
……魔物かどうかなんて、やっぱり大きな問題じゃないんだな。リリスはこうやって沢山の人達から認められた、心優しい普通の女の子だ。
「うん、ちゃんと伝えておくよ……それで、今日リリスに会いに来た目的なんだけど、プレゼントを渡すだけが目的じゃないんだ」
「えっ、そうなんですか?」
「シテン、その辺りの背景、もう一度詳しく教えてもらえる? シアとも何か話してたみたいだし、情報共有をしておきたいの」
ソフィアの指摘通り、この辺りで僕から全員に、詳しい状況を説明する必要があるだろう。
シアが調べてくれた情報で、進展もあったことだしね。
◆
「えっ……シテンさん、襲われちゃったんですか!?」
「うん、なんとか撃退できたから良かったけど、問題はその後なんだ。誰が何の目的で襲ってきたのか、それを調査する必要ができた」
「犯人の目的が私達の身柄や命が目的なら、今後も襲撃が続く可能性もあるわね」
「だから、向こうの目的がハッキリするまで、ソフィアには身を隠してもらう事にしたんだ。具体的には、迷宮の中でしばらく隠れ住む」
「迷宮に……? 地上よりも、迷宮の方が安全なんですか?」
「迷宮はとにかく広いからね。なんの手がかりもなしに見つけ出すのは困難だ。それに地上で身を隠す手段やノウハウが無かったっていうのもある。それに迷宮にはリリス、君が居る」
「へ? 私がどうかしたんですか?」
「今回の襲撃は、確実に人間側の手によるものだ。なら、人間と殆ど接点を持たない魔物であるリリスは、逆に言うと敵の手先ではない。信頼できる存在だって判断できる。……あ、リリスを疑ってるわけじゃないよ?」
「迷宮で隠遁生活を送るにしても、私みたいな後衛一人じゃ、迷宮でアクシデントが起きたら対応できないかもしれないわ。だから、リリスちゃんを頼る事にしたの」
「他にも贈り物の件とか、リリスの住まいの問題とかもあったから、それも兼ねてリリスに会いに行こうって話になったんだ」
「ふむふむ、なるほどです。私にできる事なら、喜んでお手伝いしますよ!」
迷宮内のセーフゾーンで、これまでの出来事を要約しながら、三人でお茶をする。
紅茶もお菓子もリリスへのお土産の中にあったものだ。華やかな見た目と甘い香りは、いかにも女性が好みそうな物だった。
「ありがとうリリス。それじゃあ、今度はシアから貰った情報を話そうか」
「シアさん……さっきも聞いた名前ですが、お二人のお知り合いですか?」
「僕の妹分みたいなものかな? 地上で鑑定屋をやってるんだ。【鑑定】スキルを持っていて、僕の知る限り最も優れた鑑定士でもある。僕は彼女に、今回の襲撃事件の調査を依頼したんだ」
紅茶を
……いつかシアの事を、ちゃんとリリスに紹介してあげたいな。
「……私が面会しに来た時、シアを連れてきてって頼んだのは、もしかしてこのため?」
「うん。本来シアはあくまで鑑定屋であって、情報屋みたいな調査の仕事はやってないんだけど……今回は無理を言って僕の方から頼み込んだんだ。少し嫌な予感がしたから」
嫌な予感というのは、襲撃者たちが僕とソフィアの居場所と情報を正確に把握していた事がきっかけだ。
居場所はともかく、相手は僕の解体スキルの情報と、更に派生スキルの情報まで知っている素振りがあった。
僕のユニークスキルは色々な意味で有名だから、名前くらいは知られていてもおかしくない。だが解体スキルの有効射程や発動条件、派生スキルまでとなると、相当に僕の事を調べつくしたに違いない。
そして僕には、つい最近自身の情報を事細かに話した心当たりがあった。
「先日、石化事件の件で、現場で何が起こったのかをギルドに事細かに報告させられたんだ。その時に僕の解体スキルの情報や、派生スキルの事も話した。クリオプレケスを生け捕りにできた理由を説明するには、そうするしかなかったんだ」
乾いた喉を、紅茶を流し込み潤す。
カップの中身はあっという間に空になった。
「……そして襲撃者は、僕の解体スキルの事を、あまりに知りすぎていた。あまりにもタイミングが一致していて、嫌な予感がしたんだ。そしてシアからの情報で、それは確信に変わった」
「……え!? それってシテン、まさか」
察しの良いソフィアは、今回の黒幕の正体に感づいたようだ。
「僕らの敵は、冒険者ギルドの支部長、アドレークだ。奴は僕とソフィアの事を殺そうとしている。そしてその裏にはまだ、アドレークを
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