第77話 聖女邂逅
(一人称視点)
ソフィアとシアが面会に来てくれたが、一旦解散の運びとなった。
ソフィアは一度身を隠すための身支度を整えてくるとのこと。
シアには別の頼みごとをしているので、今は別行動中だ。
……そろそろ出してもらえないかなー。いい加減この留置所の部屋も見飽きてきた。
襲撃者たちの組み立ても終わったし、もう僕に用事はないと思うんだけど……
なんて考えてたら、ギルドの職員の人が来た。
特別隊に属していることを示す、真っ黒な制服を着た男性だ。
ようやく釈放かな?
「シテン。またお前に面会を希望する者が来た」
「へ? 誰ですか?」
釈放じゃなくて面会? 誰だろう、ソフィアがまた来たのかな?
「勇者パーティーの【聖女】、ルチア様だ」
……全く予想だにしない人物との、予期せぬ邂逅の時だった。
◆
腰まで届くくらいの白髪と、薄紅色の瞳。
いつも無表情で自分の意見を出さず、勇者に付き従っている少女。
勇者パーティー【暁の翼】、回復および後方支援担当。聖教会が誇る七聖女の一人。
それが【聖女】ルチアに対して、僕が抱いている印象だった。
そしてそれは、現在でも変わることは無い。
有名な絵画から切り取ってきたかのような、浮世離れした美貌の少女が僕の目の前に座っている。
「久しぶりですね、シテン」
「……何の用ですか」
彼女との関係は既に終わっている。
僕は【暁の翼】から追放され、ルチアもそれに賛同していた。
今の僕は勇者パーティーとは何の関係もない、只の一般人だ。
なのに今更僕に会いに来た理由がわからない。
「幾つか気になる点がありまして。それを確認しにきました」
「こっちも予定が詰まってるので、手短にお願いします」
さっさと面会を終わらせるためにルチアを急かす。
相変わらず人形のように無表情なので、何を考えているのか分からない。
彼女の事について知らないことも多い。
ただなんとなく、人間味が薄すぎて苦手なタイプだった。
「……では一点目。なぜ捕まっているのですか?」
「知らないよ」
……いきなり面倒な事を聞かれたので、適当に流すことにした。
「襲撃されたと聞きましたが、何か恨みを買うような真似でも?」
「僕が聞きたいくらいだよ。僕が捕まったのは、ちょっとした手違いがあっただけ。これ以上話すことは無いよ」
「……そうですか」
聖女ルチアが何かを考えこむかのように、片手で口を覆う。
……見た限り、僕が襲撃された事は本当に知らなさそうだった。
「では、二点目の確認です。【暁の翼】を追放された時、あなたはパーティーの資金を盗んでいきましたか?」
「はぁ?」
次の質問の内容は、あまりにも意味不明だったので逆に聞き返してしまった。
「勇者様が、シテンにパーティーの資金を盗まれたと仰られているのです。私も先ほど確認しましたが、事実【暁の翼】は、深刻な資金難に陥っていました」
「いや、それはあなた達の自業自得でしょ」
……ようやく理解できた。恐らく勇者パーティーは、僕を追放して財政管理をする者が居なくなったから、あっという間に首が回らなくなってしまったのだ。
そりゃ、今まで通りの出費を続けていれば、そうなるよね。
「僕が資金を盗んだ事実はないし、そもそも追放された後は拠点にも近づいていない。ヴィルダに脅されるようにして、着の身着のままで追い出されたんだ。何かを盗むタイミングなんてなかったよ。ルチア、その時君も現場に居ただろう」
「……そうですね。ではこれに関しては、勇者様の勘違いだったという事にしましょう」
そう言うと、ルチアはあっさりと引き下がった。
僕が盗んだという話は、多分イカロスが適当に吹き込んだ嘘だろう。
この様子だとルチアも、元々鵜呑みにしていた訳ではなさそうだ。
「……では、三点目の確認です。貴方が先日捕らえたという、連続石化事件の犯人について」
そして、次の質問に移るルチア。恐らく、これが今回の本題だろう。
「ギルドにも裏を取りましたが、念のため張本人である貴方に確認します。……本当に、Aランクモンスターであるアークリッチを倒したのですか?」
「…………。事実だよ」
隠すことでもないので、素直に僕は肯定した。
「やはり、そうでしたか」
僕の返事を聞いても、ルチアは眉一つ動かさない。しかしその声色には、若干の驚きが含まれているような気がした。
「私の知る限り、貴方にそれ程の実力は無かったように見えましたが。実力を隠していたのですか?」
「……………………」
どこか咎めるような口ぶり。
コイツ、まさか僕がわざと実力を隠してたとでも思ってるのか?
「僕は。勇者パーティーの一員としての役割を全うしたつもりだよ。……僕が自分の戦闘技術を見せた時、不要と判断したのはあなたたちの方だ」
……なるべく自分の感情が乗らないように、平坦なトーンで話したつもりだ。
けれど、腹の中ではコイツらへの黒い感情がふつふつと湧き立ってきている。
どうやら僕は自分で思っていたよりも、勇者達のことが嫌いらしい。
「……勘違いされているようなので訂正しておきます。確かに貴方はかつて、自らの実力をアピールした事が何度かありましたね。しかしそれを拒絶したのは私ではなく、勇者様とヴィルダ、チタの三人です」
「そうだね。でも黙って静観しているだけだった。僕から見ればイカロス達と同じような立場に見えたけど」
「そうですか。では、四点目の確認です」
聖女は何でもないかのように会話を打ち切って、次の話題に移った。
いい加減相手をするのも面倒になってきた。この質問で最後にしよう。
「クリオプレケスといいましたか、主犯のアークリッチを生け捕りにして、この特別隊に身柄を明け渡したのだとか。……通常魔物は、迷宮の外では肉体を維持できず崩壊します。どうやって生け捕りにしたのですか?」
「答える義理はない」
……僕はかつて、ユニークスキル【解体】の派生スキル、【
だが派生スキルというのは本来公にする技術ではない。
戦闘では、互いが互いのステータスを見て、相手のスキルを確認する事ができる。
そしてある程度の実力者は、相手のスキルが分かればおおよその戦法や対策も掴めてしまう。
その対策として生み出されたのが『派生スキル』だ。
個人の持つ技術、知識によってスキルの新たな力を目覚めさせることで、同じスキルであっても様々な種類の派生スキルが生まれる。
派生スキルはステータスには表示されないので、相手にも気づかれない。戦闘において有利に働くのだ。
僕も勇者パーティーに居た頃、三つの派生スキルを編み出した。
【
……ちなみに最後の一つはまだ誰にも見せていない。あれは使い勝手が悪すぎる欠陥スキルなのだ。
ともかく、冒険者にとって生命線とも言える派生スキルの情報を、勇者の仲間に教える必要はないだろう。
「……そういえばいつだったか、私達に解体の派生スキルのようなものを見せてくれたことがありましたね。あまり興味もなかったので忘れていましたが、あれはどのような派生スキルですか?」
「しつこいよ。教えて何になるの? そろそろ僕帰りたいんだけど」
時間の無駄だな。
いい加減にこのやり取りを終わらせようと僕が口を開いた時、ルチアがとんでもないことを口にした。
「シテン、暁の翼に戻る気はありませんか?」
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