第73話 バラバラ殺人事件


(三人称視点)


「な、何故だ!?」


 襲撃者の内、最後の一人――リーダー格の男は、バラバラになった仲間の姿を見て思わず叫んだ。


「……あと一人」


 シテンはただ冷徹に、残酷に現実を突きつける。四人いたはずの襲撃者も、あと一人しか残っていない。


 ……解体スキルの発動条件は、『自身が対象に接触している事』である。

 最初の襲撃者を解体した様な、地面や武器からスキルを伝播させ、対象を解体する、という応用技はあるが、それも地面を介して相手に接触している事が条件だ。


 但し、この『自身』というのには、発動者の血液も含まれる。

 シテンを斬った襲撃者には、シテンの返り血が付着していた。

 それを媒介にしてシテンは解体スキルを発動させ、本人は対象に触れないままバラバラにしたのだ。


 自動追尾で飛来するダガーを解体しながら、ゆっくりと距離を詰めてくるシテン。

 側から見れば、襲撃者にとって絶望的な状況。しかしリーダー格の男は、勝利を確信して笑みを浮かべた。


「……ッ!?」


 突如、シテンの体がぐらりと傾く。

 脳震盪でも起こしたかのように、シテンはその場に片膝を突いた。


「ク……クククク。ようやく毒が回ってきたか」


「さっきの、ダガーか……!」


 苦しげな声を出すシテンに、襲撃者の男は勝ち誇るかのように宣言する。


「即効性の麻痺毒だ。口さえ封じれば、能動アクティブスキルは発動できないからな……対人戦にはもってこいの毒さ。そろそろ喋れなくなる頃だろう?」


「――――」


 シテンからの返答はない。いやできない。

 姿勢を保っていられず蹲るうずくまシテンに、とどめを刺さんと男は近づいた。


「散々手こずらせやがって……だが、これで終わりだ!」










「お前がな」







 男の持つダガーがシテンの首を斬り落とす寸前。

 苦しむ演技・・・・・を止めたシテンが、足元を基点にし解体スキルを発動した。


 蟻地獄が、襲撃者の男を飲み込む。


「は、」


「悪いけど、僕に毒の類は効かないんだ――【臨死解体ニアデッド】」



 理解できない、そう言いたげな表情を浮かべた男の顔が、バラバラになって蟻地獄に飲み込まれていった。




(一人称視点)


「結構強かったな……冒険者でいったら、BかAランクくらいの強さはあったかな?」


 さっきまで僕をつけまわしていたダガーが次々と地面に転がる。

 襲撃者の持っていたスキル、【武器操作】の効果が切れたのだろう。


 毒を仕込まれたと気づいたとき、僕は密かにスキル名を呟き、解体スキルを発動していた。

 体内・・で発動した解体スキルは、全身を巡る毒をバラバラに分解して無効化していたのだ。

 一歩間違えれば自身を傷つける事になるから、精密な操作が必要な分、動きを止める必要があったり、他者には使えないっていう欠点はあるけれど、スキルが発動できる限り僕に毒の類は通用しないのだ。


 ちなみに、さっきの宴会で体に回った酒精アルコールを抜くために、戦闘前にこの技を使っていたりする。

 そこを見抜かれてたらちょっと危なかったかもしれない。



「さて、どうしようかなーコイツら」


 バラバラになって転がる四人の襲撃者。

 しかし死んではいない。僕が【臨死解体ニアデッド】を使って、バラバラにしたまま生かしている状態だ。

 コイツらの正体も目的も不明だし、喋ってもらうまでは死なれると困る。



「――さっきの物音、確かこの辺りから……」


 と、襲撃者の処遇を考えていると、人が近づいてくる気配を感じた。

 いかにも仕事帰りという風体の女性だ。騒ぎを聞きつけてここにやって来たらしい。

 もっとも、騒ぎを起こして攪乱するためにワザと街灯を倒したり派手な戦い方をしたから、誰かが来ても不思議ではないけど。



「あ、そこの通りすがりの方、丁度良かった守衛の人を――」


「――い、イヤアアァァァァ!! バラバラ殺人!!?? 誰か、誰か来てえええェェェ!!」


「えっ」



 予想外の展開に呆気に取られてしまったが、遅れて気づく。

 その辺に四散した人間っぽい肉片、(自分の)血を浴びて真っ赤な僕。



 あっこれバラバラ殺人犯と勘違いされてる?



「待ってください、誤解です。僕はむしろ被害者で――」


「誰か来て! 助けて、誰かー!!」



 パニック状態になっているのか、全く僕の話を聞いてもらえない。

 そうこうしている内にわらわらと人が集まってきた。女性の叫び声というのはこうも注目を浴びるものなのか。


「え、あそこに転がってるのって……もしかして人間?」

「装備とかも転がってるし人っぽいよな」

「うわぁ、ミンチより酷ぇや」

「あの青年がやったのか? 鬼畜の所業だぜ」


「え、えぇ……」


 ……解体スキルを使っていると感覚が麻痺しがちだが、どうも一般人にとっては刺激の強すぎる光景だったらしい。

 こうなってしまってはもう止められない。真偽を問わず、悪い噂はすぐ広まる。


「そこの君、一緒に来てもらおうか」

「抵抗するなよ? 俺たちもBランク冒険者程度の力はあるんだ、刃向かうなんて考えずに大人しくしとけ」


 あっという間に駆けつけたギルド直属の守衛が僕を取り囲む。

 抵抗しようと思えばできるだろうが、そんな事をしても逆効果なのは分かりきっている。

 今の僕にできるのは、両手を上げて大人しく指示に従う事だけだった。


「誤解です」


 今日は、もう寝かせてもらえないかもしれない……


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