第72話 vsAランク冒険者
(前回までのあらすじ)
迷宮都市にて連続石化事件を引き起こしていた犯人を捕まえた主人公、シテンは打ち上げパーティーを行っていた。帰り道に魔女ソフィアを自宅まで送った後、何者かが襲い掛かって来て……?
■■■■
(三人称視点)
簡単な仕事のはずだった。
Cランクに成り立ての冒険者と、堂々と魔女を名乗る不届き者を、夜闇に乗じて攫う。
標的の片方、シテンに襲撃を察知されるというミスはあったが、それでも襲撃者たちにとって達成は難しい事ではなかった。
そのはずだった。
(クソッ……甘く見ていた。まさかこうも容易く、一人やられるとは)
襲撃者の内、リーダー格の男は内心舌打ちをした。
シテンが見立てた通り、襲撃者ら四人はいずれもBランク以上の冒険者である。
中でもリーダー格の男は、Aランク冒険者の資格を持っていた。
その内の一人が、何もできずに瞬殺された。
シテンの足元には、仲間の一人がバラバラになって転がっている。
地面に広がった亀裂から伝播した、【解体】スキルを食らってしまったのだ。
残りの襲撃者たちも空中への回避が遅れていれば、ああなっていただろう。
(
生き残った三人は、Cランクに成りたての冒険者というシテンに対する事前評価を、既に改めている。
彼らの正体は、アドレーク子飼いの冒険者達だ。
強盗、暗殺、誘拐。アドレークの指示に忠実に従い、犯罪行為ですら平気で行うアドレークの手駒。
数多のライバルを蹴落とし、アドレークがギルド西支部長の座に上り詰めたのは、彼らの暗躍があったからだ。
シテンの周囲を囲むように、合図なしで三人が動き出す。
その表情にはもはや、油断など一切含まれていない。
だが、判断が遅かった。仲間が目の前でバラバラにされた衝撃のせいだろうか、動き出すまでに僅かな隙があった。
シテンはそれを見逃さない。
リーダー格の男に狙いを定め、ステータスを確認する。
「ッ!」
向こうもステータスを見られたことに気づいたのだろうが、もう遅い。
既にシテンは男の名前とスキルを把握してしまった。
(ステータスは覚えた。もしこの場から逃げられても、名前とスキルが分かれば後でいくらでも探せる。偽名を使っていてもステータスの情報は誤魔化せない)
シテンは内心でそう企んでいた。
一度自分とソフィアを狙った敵を、シテンは許すつもりはなかった。
仮に逃げられたとしても、あらゆる手を尽くして徹底的に敵を追い詰めるだろう。そして襲撃者達もそれには勘付いていた。
(撤退すれば後がない。ここでやるしかない)
これまでに無いほどの大失態。襲撃者達は覚悟を決めるしかなかった。
だがその覚悟を置き去りにするように、シテンは凄まじい速度で、三人のうち一人に真正面から突っ込んだ。
地面を蹴る衝撃で、石畳に亀裂が入る。レベルアップにより肉体が強化されている証拠だ。
シテンに迫られた刺客は、近接戦闘を得意とする大柄な男だった。
だがその体格が災いしてか、予想以上の速度で迫るシテンからの回避が間に合わない。
大男はやむを得ず、回避ではなく迎撃の構えを見せる。
だが、それこそがシテンの狙いだった。
「待てッ!」
リーダーの男が大男を制止するが、間に合わない。
大男の持つ大鉈とシテンの腕が接触する寸前で、
「【解体】」
とスキルが放たれる。
大鉈はシテンの腕を切断する前に粉々に破壊される。
とっさに防御のために間に入れた小盾や、身に纏う革鎧も何もかもを解体して、シテンは大男の肉体に接触した。
瞬間、バラバラになって散らばる大男。
四人いた筈の襲撃者は、あっという間に半分になった。
「クソっ、近接戦闘は避けろ! 距離を取って隙をつけ!」
残る仲間に遅すぎる注意を促しながら、リーダーの男は冷静にシテンを観察しようとする。
(落ち着け。まだ挽回はできる。奴は決して無敵じゃない、戦い方、体捌き、スキルの性質、それらを見極めれば反撃の余地はある筈だ)
「…………」
二人をバラバラにしたシテンも、流石に今度は正面から突っ込んでくる真似はしてこない。距離を取って様子を窺っている。
同じ手は二度通じないと考えたのか、それともリーダーの男の
(……今の正面接触。瞬発力こそあったが、身体能力や体捌きは特筆する程では無かった。奴のスキルは脅威だが、それだけだ)
自分に言い聞かせるように、リーダーの男は分析を続ける。
(事前情報によれば、奴の持つ派生スキルは二種類。遠距離攻撃の【
そこまで考えて気が付く。地面に転がった仲間の残骸から、血が零れていない事に。
(【
「……そこに転がっている二人は、まだ生きています」
男の思考を見透かしたかのように、シテンが語る。
「ただし、僕が意識を失った瞬間に、スキルが解除されて本当にバラバラ死体になるように
つまりは、人質。
シテンの身に何かあれば、床に転がった二人は即座に死ぬ。
「……舐めるなよ」
男が返した返事には、殺意が籠っていた。
ここで退いても待つのは破滅だ。シテンを倒す以外、活路はない。
元より期待はしていなかったのだろう、シテンに驚く様子は見られなかった。
「……なぜそこまでして、僕らを狙うんですか? ただの強盗って訳じゃなさそうですけど」
シテンの問いかけに、リーダー格の男はダガーの投擲で答えた。
上半身を捻って躱すシテンだが、その隙にもう一人の襲撃者が回り込む。
「【解体】」
それを察知したシテンは、足元で解体スキルを発動。
地面を伝ってスキルの効果が
しかし、流石に同じ手は通じなかった。
襲撃者は飛び上がって回避すると、シテン目掛けてダガーをさらに数本、投擲する。
「【解体】」
避けきれないと判断したシテンは、今度は体表面に解体スキルを発動。
ダガーがシテンに接触する寸前、粉々に解体することで攻撃を防いだ。
残りのダガーはシテンに直撃するコースから外れ、砂漠化していない地面へと突き刺さった。
「――【武器操作】」
リーダー格の男がそう呟いた瞬間、地面に刺さったダガーが発光し始める。
すると地面に刺さっていたはずのダガーが一人でに動き出し、シテンに向かって飛来した。
(さっき見たあの男のスキルか! 数が多すぎる、解体スキルじゃ捌ききれない!)
先ほど行なってみせた、体表面に解体スキルを発動し防御する技術は、相手の攻撃にタイミングを合わせて発動する必要がある。
今のように複数個所から、連続で畳みかけられる攻撃に対しては、防御に失敗する可能性があるのだ。
襲撃者たちへの攻撃を一旦諦め、シテンは攻撃の回避に専念する。
だが襲撃者たちがその隙を黙って見ている訳が無い。態勢を整え、今度こそ仕留めようと連携攻撃を仕掛けてくる。
(飛んでくるダガーを避けても、すぐに向かってくる。標的を自動追尾する魔法陣か何かが組み込まれているんだ)
襲撃者がシテンの首筋目掛けてダガーを振るう。
返り血が襲撃者の顔に付着する。
ようやくダメージを与えられた事に歓喜したのか、襲撃者は獰猛な笑みを浮かべて、更なる追撃を加えようとして――
「【
――その場にバラバラになって崩れ落ちた。
■■■■
大変お待たせいたしました。
お久しぶりです。更新再開します!
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