第71話 招かれざる客


 ソフィアが寝落ちしたのと丁度同じタイミングで、ソフィアの工房に近づく気配には気づいていた。

 こんな時間帯に、それも複数人で店に来る人達なんて、悪い予感しかしない。


 闇の中から、複数の人影が姿を現す。

 同時に、胸の奥をくすぐられるような感覚。ステータスを見られている。


「挨拶もなしにステータスを見るなんて、流石に失礼が過ぎるのでは?」


 人影は四人。フードを深く被っており、その顔立ちはここからは窺えない。

 だが三人はひそひそと、何か打ち合わせをしているようだった。


「……想定外だ、どうする?」

「今さら後には引けない。敵に見つかったから、なんだ? 口を封じれば問題ないだろ」

「我らは与えられた仕事を全うするのみ」

「よし、やるぞ」


 そして四人は案の定というべきか、武器を取り出して僕を取り囲むように動き出した。

 ステータスを無断で見られた時点で、友好的な相手ではないことは分かっていたけど。

 まさか、こんな街中で堂々と武器を出すなんて。


「抵抗はするな。大人しくしていれば、命までは取らない」


「……一応聞きたいんですが、貴方たちの目的は何ですか? どうして僕を狙ってるんです?」


 ……打ち上げに行った帰り道という状況。僕は今、装備を身に着けていない。

 ケルベロスの装備も完成していないし、防具も無いから血を操ったり影に干渉したりすることもできない。

 対して目の前の三人は完全武装の上、その体捌きは手練れのものだ。

 戦闘を生業とする者、やはり冒険者か。だとすると最低Bランク以上はありそうだ。


「お前は何も知る必要はない」


「そうですか」


 まぁ、最初から期待はしてないよ。


 でもこの場所、このタイミングで襲撃するって事は、ソフィアもろとも狙ったって事だよね?

 そういう解釈でいいよね、もう。


「【解体】」


 足元を基点にスキルを発動。イメージするのは砂漠。

 敷石の敷き詰められた道路が、砂状になるまで解体される。

 それは蟻地獄の様に広がっていき、僕を中心に半径数メートルほどが砂漠と化す。


 一連の動作が、一秒足らずで行われた。


「ッ!? 跳べ!!」


 反応の良い、三人は、素早く跳びのいて僕の蟻地獄から逃れる。

 だが、残りの一人は間に合わない。


「あぁ――――!?」


 声からして恐らく男だったろうその人物は、砂漠に触れた足元から、ブロック状にバラバラになって崩れ落ちた。

 男の残骸が、蟻地獄を転がり落ちていく。


 攻撃の余波で街灯が地面に倒れ、辺りは暗闇に包まれる。

 だけどクリオプレケスとの戦いを経てレベルアップした僕の視力は、恐怖がこびりついた相手の表情がよく見えた。


「仲間に手を出す奴ら相手に、手加減とかしないから」


 残りは、三人。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る