第66話 Cランク冒険者、シテン

(一人称視点)


 迷宮、44階層。

 この場所には、『龍』が君臨している。


「グオオォォォォォォ!!!!」


 スチーム・フォートレスドラゴン。

 名前の通りその外殻の穴から数百度の高熱蒸気を放ち、接近するだけでも命懸け。

 おまけにその高温多湿環境においてもミスリルの硬度を上回る程の、堅牢な外殻。

 この階層に生息する魔物の中でも頭一つ抜けた強さを誇るこの魔物は、ギルドからはBランクボスモンスターと認定されている。

 Bランク冒険者が複数人で倒すことを推奨される強さ。

 こいつを倒せるかどうかが、Aランク冒険者に昇格するための関門だと言われている。


 僕はそんな魔物に対し、たった一人で立ち向かっていた。


「ゴアアァァァッッッ!!!」


 僕の事を住処を荒らす侵入者と認識したのか、一直線にこちらに向かってくるスチーム・フォートレスドラゴン。

 数十メートルはあろうかという巨体に違わず、動きは鈍重だ。

 だがそれを補うかのように、周囲に漂う蒸気がスチーム・フォートレスドラゴンの意のままに動き出す。

 魔法の力だろうか、いっこうに凝結する様子もなく高温を維持したまま僕に迫る蒸気。このまま包まれてしまえば、僕は蒸し焼きになってしまうだろう。

 もちろん、そんな事にはならないけれど。


「――【遠隔解体カットアウト】」


 迫るスチーム・フォートレスドラゴンに向けて、刃を振るう。

 放たれた不可視の刃は蒸気を切り裂き、あっという間に奴の脳天へ。


 すぱっ、という間の抜けた音がして、スチーム・フォートレスドラゴンの身体が左右真っ二つに切断された。

 遅れて切断面から血が噴きだし、蒸気と混じりあって辺りを深紅に染めていく。

 いくら魔物の中で最強種と謳われるドラゴンであっても、頭から真っ二つにされれば生きているはずがない。


 スチーム・フォートレスドラゴンの弱点は、その巨大な図体と動きの鈍さだ。

奴の外殻を貫けるほどの遠距離高火力を持っていれば、攻撃を受ける前に倒すことも不可能ではない。

 僕は事前にその情報を入手した上で、戦いを挑んだ。つまり最初から勝負はほぼついていたのだ。


 こうして、あっけなく僕とスチーム・フォートレスドラゴンの戦いは終わった。



「Cランク冒険者、シテンです。クエストの依頼品を納品しにきました」


 スチーム・フォートレスドラゴンを倒したあと、僕は地上に帰還していた。


 もちろん、死体を解体することも忘れていない。

 ドラゴンと名のつくだけあって、その死体は全身くまなく高価な素材になりうるので、残さず回収しておいた。

 石化事件が解決した以上、石化解除薬の需要は下がりつつある。もう以前のように狂精霊の核でお金稼ぎをすることはできないので、代わりの金策として龍狩りを始めた、という所だ。


「お疲れ様ですシテンさん。えーと、今回受注してくださったのは、『スチーム・フォートレスドラゴンの外殻』の納品依頼ですね! 最低ノルマが五個で、それ以上は数に応じて追加ボーナスが支払われます!」


 いつものようにギルドの西支部に赴くと、たまたま勤務中だったのかツバキさんが出迎えてくれた。

 というか、最近ツバキさんが担当してくれる頻度が多い気がする。


「スチーム・フォートレスドラゴンの討伐推奨ランクはB、それに伴い本依頼の推奨ランクもBとなりますが……アークリッチを倒したシテンさんですし、余裕だったみたいですね」


「まあ、事前に調査もしたので」


「なるほど……ところで、納品物はどちらに? もう鑑定所に持って行っちゃいましたか? まさか、また丸ごと持ってきて……?」


 ……この間の、吸血鬼丸ごと納品事件の事か。

 小耳に挟んだのだけれど、あの事件以来僕の事はギルド中でしばらく噂になっていたらしい。

 確かにいきなり吸血の死体がまるごと登場したらびっくりするよね。少しやりすぎだったかもしれない。


「さすがにあれだけの巨体、鑑定所にも入りきらないのでバラバラにしています。死体は納品物と一緒に、この中に」


 そう言って僕は、一抱え程の大きさの鞄を取り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る