第67話 ねんがんの まじっくばっぐを てにいれた!
「あ、マジックバッグ。シテンさん遂に購入されたんですね!」
「かなり高かったですけど、こないだの事件の時の報酬で買っちゃいました」
そう、以前から欲しいと思っていた、マジックバッグを遂に購入してしまったのだ。
一見すると普通の鞄だが、内部に仕込まれた空間魔術によって、見た目以上に大きな物質も収納する事ができるのだ。
今回みたいに納品物が巨大だったり、量が多かったりすると僕一人だけでは運びきれないので、冒険者を続けるならいずれは購入するつもりだった。
ちなみにお値段は金貨二千枚。シリアルナンバー付き。
「マジックバッグを手に入れるのは、多くの冒険者にとって憧れですからねー。実際すごく便利ですし、買って正解だったと思いますよ。じゃあ、早速中身を改めさせて頂きますね! マジックバッグをこちらにお願いします」
拒絶する理由もないので、僕はツバキさんにマジックバッグを手渡す。
マジックバッグは迷宮の外での開封を禁じられている。空間魔術を利用した道具は悪用を防ぐために厳しく規制がされているのだ。
なので納品物をマジックバッグに入れた場合は、迷宮を出る直前に中身を取り出すか、ギルドの専属鑑定士のような特別にマジックバッグを開ける許可を得た人に渡すしかないのだ。
そして待つこと数十分。ギルド内で時間を潰していた僕は、ツバキさんから鑑定が終わったとの呼び出しを受けた。
「お待たせいたしました! 中身は、えーと、スチーム・フォートレスドラゴンが丸ごと一匹分、素材毎に分けられていて……外殻だけで六十六個になりますね!」
「全部納品でお願いします」
ざわっ……とギルド内がざわめくのを感じた。
ツバキさんの声が聞こえてしまったのだろうか。というか前もこんな光景あった気がする。
「スチーム・フォートレスドラゴンの外殻が、六十六個……!?」
「確かBランクのボスモンスターだよな、一体倒して五、六個くらいしかドロップしないって聞いたことあるぞ」
「単純計算で十一匹近く倒したって事か? ありえないだろ」
「いや、なんでも『ゴミ漁り』のシテンは、Aランクのケルベロスを倒したこともあるらしい……Bランクの魔物程度、余裕なんじゃないか?」
「なんかあいつのユニークスキル、【解体】だっけ? あれの不思議な力で、死体を全部丸ごと持ってこれるらしいよ。知らんけど」
「ていうかゴミ漁りって、それいつのあだ名よ? もうあいつ俺らよりつえーじゃん、ゴミ漁りとか呼べねーわ」
「ていうかなんでまだCランクなんだよ、どう考えてもAはいけるだろ」
「勇者はなんであんな凄い奴を追放したんだろうな」
……石化事件が解決してから、何かと人から注目されることが多くなった気がする。
噂では僕の事を、石化事件解決の立役者なんて噂されてるらしい。この間までゴミ漁りや死体漁りだなんて馬鹿にされていたのに、この手の平返し。正直反応に困る。
「……今回の納品物、死体から丸ごと剥ぎ取ったので形や大きさがバラバラですけど、良かったんですか?」
気恥ずかしさを誤魔化すように、ツバキさんに尋ねてみた。
通常魔物の素材をドロップ品として入手する場合、その大きさや形状は統一されている。
スチーム・フォートレスドラゴンの外殻なら、何個ドロップしても全く同じ重さ、大きさ、形状のものがドロップするのだ。
「ああ、今回は問題ありませんよ。元々溶かして使うつもりでしたし、重量はきっちり計算してますので」
「……溶かす?」
「スチーム・フォートレスドラゴンの外殻は、特殊な方法で溶かすと建築素材になるんです。今回の納品物は全部溶かして、アネモス王国に輸出するそうですよ」
「アネモス王国へ?」
確か、迷宮都市の東にある国だ。
馬車で数日程度の距離で、比較的近くにある国だが……
「確か、長年内戦が続いていた国ですよね。何か情勢が変わったんですか?」
「なんでも、ようやく内戦が収まったらしいですよ。今回の建築素材の納品は、内戦で荒れたアネモス王国の復興需要を見越しての事らしいです」
「そうだったんですね」
確か内戦が始まったのは、僕がシアと出会ってすぐだったかな。
原因は王位継承権を巡っての、王族同士の争いだったとか。
情報がほとんど流れて来ないので僕もこれ以上の情報は持っていなかったけれど、内戦が落ち着いたということは、誰が次の王になるのかほぼ決まったという事なんだろう。
まあ、行ったこともない国だし、知り合いがいる訳でもないから、正直あまり興味はないけれど。
「話が逸れちゃいましたね。それでは今回『スチーム・フォートレスドラゴンの外殻』を六十六個納品ということで、追加ボーナスも含めた報酬が、金貨千百枚になります!」
千百枚か。やっぱりドラゴンって実入りが良いなー。
……この短期間で、確実に金銭感覚が壊れつつあるのは自覚している。
「持ちきれないので、口座に預けておいてください」
「畏まりました。残りの素材についてはいかがなさいますか? ギルドで買取もできますよ!」
「いえ、一旦こちらで引き取ります。装備の素材に使うので」
そう、今回スチーム・フォートレスドラゴンをわざわざ狩りに行ったのには、もう一つ理由がある。先日倒したケルベロスの素材を使って、新しい装備を作成するための素材が必要だったのだ。
この後、鍛冶屋さんの所に行って正式に作成を依頼するつもりである。
「それではマジックバッグはこのままお返しいたします。念のため、中身が合っているか、ご確認をお願いいたします」
「……大丈夫です。じゃあ、これでクエスト完了という事で」
「はい、お疲れさまでした」
ギルドでの用事はこれで終わりだ。
周囲の冒険者の視線から逃げるように、足早にギルドを後にする。
まあ、すぐにツバキさんとは再会することになるだろうけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます