第64話 顛末


(三人称視点)


「ご報告いたします」


 迷宮都市ネクリア、冒険者ギルドネクリア西支部。

 支部長アドレークは、配下である元冒険者のギルド受付嬢ツバキから、石化事件に関する一連の報告を受け取っていた。


「Bランク冒険者ジェイコスをリーダーとして結成された石化事件調査隊は、迷宮内部にて連続石化事件の犯人の居所を特定。各々の奮戦の結果、主犯であるアークリッチ、クリオプレケスの撃破に成功。私も含めた応援の冒険者が到着する頃には、既に戦闘は終了していました。調査隊のメンバーにおいては、重軽傷者は多数出ましたが、幸い死亡者はいませんでした」


「Bランクボスのアークリッチを相手にして、犠牲者なしか。上々の結果だな」


「いえ、その場にはAランク指定モンスター、ケルベロスの姿もあったそうです。負傷者の大半はケルベロスとの戦闘によるもので、件のアークリッチはシテンという冒険者が単独で撃破したそうです」


 シテンの名を聞いたアドレークの眉がピクリ、と動いた。

 ツバキはそれを無視して、報告を続ける。


「……調査隊が帰還した後、調査隊が現地に残しておいた『救難信号石サインストーン』をもとに、アークリッチの拠点の階層を特定しました。46階層にある廃都エリア。そこにあるかつて吸血鬼の王が使っていた古城を、自らの拠点に改造していたようです。周辺は高度な影魔術で隠蔽が施されており、救難信号石から発せられる信号がなければ発見は困難でした」


「続けたまえ」


「冒険者シテンから、『古城に被害者が残されている』と報告を受け、私を含め行動可能な者で、再度アークリッチの拠点に突入しました。……被害者は、生きたままフレッシュゴーレムの材料にされていたそうです。命に別状はありませんが、精神的なダメージが深刻であり、しばらくは療養が必要とのことです」


「……続けたまえ」


「また、冒険者シテンの協力により、一連の犯人であるアークリッチを生きたまま迷宮都市に持ち帰ることに成功しました。現在ギルドの特別隊により尋問が行われていますが、事件の動機などの有力な情報は未だ得られていないとのことです」


「…………シテン、シテンか。やけにあの小僧の名前が出てくるな。君の報告には些か主観が混じっているのではないかね?」


「私は客観的な事実を述べたまでです。事実、今回の調査において彼の活躍は目覚ましいものでした。彼が居なければ調査隊は全滅し、石化事件はより深刻化していたと思われます。これは調査隊のリーダー、ジェイコスも同じ意見を――」


「もういい。報告は以上かね?」


「……補足項目が一つ。迷宮内を散歩ちゅ――いえ、探索中だったSランク冒険者『狂犬』が、19階層にて二十匹ものケルベロスの群れと遭遇したそうです」


「何? 初耳だぞ」


「本人が報告を忘れていたそうです。当然ながらケルベロスの群れは全滅。現時点では本件に関する負傷者、犠牲者は報告されていません」


 アドレークは頭を抱えた。


「……Aランクモンスターの群れが上層までやって来たなど、大問題ではないか。それを報告を忘れただと!? あいつの頭のなかはどうなっているんだ!」


 激昂して座っていた椅子を蹴り飛ばすアドレーク。

 ツバキはそれを冷ややかな視線で見つめるのみ。


「Sランク冒険者はギルドが保有する戦略兵器! だのに子供でも出来るような簡単な報告すら出来んとは! そのくせどいつも我が強いから手に負えん、大人しく我々の指示だけを聞いていれば良いものを!」


「……ちなみに、『狂犬』に依頼していたミノタウロス討伐の件ですが、あまり進展していないようです。なんでもやる気が出ないのだとか」


「あのクソ犬ガアアァァァ!!」


 何度も勢いよく蹴り飛ばされたアドレークの椅子は、壁にぶち当たって粉々に砕けた。

 丁度そのタイミングで、支部長室のドアがノックされた。


「……誰だ」


「石化事件調査隊のリーダー、ジェイコスだ。ギルドに呼び出されたから来てみたんだが……取り込み中だったか?」


「いや、構わない。入りたまえ」

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