第59話 クリオプレケスの末路


 僕とソフィアの攻撃が炸裂したあと、凄まじい爆発が辺りを覆い尽くした。

 恐らくケルベロスの口内に溜まっていた、ブレスのエネルギーが暴発したのだろう。


「シテン、無事っ!?」


「問題ないよ!」


 幸い、魔法防御に優れた防具を身に着けていたおかげか、大したダメージはなかった。他のみんなも同様のようだ。


 ……クリオプレケスが居た場所には、爆発でクレーターが生まれていた。

 周辺にはケルベロスの肉片と思わしき物体が飛び散っている。

 【臨死解体ニアデッド】の効果を付与した、防御不可の爆発攻撃だ。ここまでバラバラになれば、いくらアンデッドでも流石にもう動かないだろう。


「シ、シテンさん! あそこ!」


 と、リリスの切羽詰まった声が聞こえてきて、指を差している方へ視線をやる。


「ゼェ、ハァ、ゼェ……こ、こんな筈では、儂の計画が、こうも簡単に崩れ去るなど……」


 そこには、焼死体の様に黒焦げになったクリオプレケスが、上半身だけの身体を這いずるようにして動かしていた。

 傍には、まだ運搬用ゴーレムで避難出来ていなかった冒険者が転がっていて、奴はその冒険者の首元に自身の尖った骨を押し付けた。


「動くなっ、動けばこいつの首を掻っ切るぞ!? 貴様ら全員そこで止まれ!」


「……まだ生きてたのか。ほんとにしぶといやつだな」


 爆発の衝撃で、上半身だけがケルベロスの肉体からすっぽ抜けたのか?

 何にせよ好都合だ。バラバラになった奴を探す手間が省けた。


「……おいっ、聞いているのか!? こっちに近づくんじゃない! 本当に掻っ切るぞ!?」


 奴の脅迫を無視して距離を詰める。

 ……よく見ると、人質に取られている冒険者はジェイコスさんだった。

 意識はあるようだが、かなり消耗している。自力で抜け出すのは無理だろう。

 そこまで考えて、人質のジェイコスさんに聞こえるように言った。




「斬ります」

「やれ!」




 ジェイコスさんの返事を聞いた瞬間には、既に僕は刃を振るっていた。

 クリオプレケスの身体が、ジェイコスさんもろとも真っ二つに解体される。


「き、貴様……人質ごと儂を斬るとは……」


「何言ってるんだ? 斬られるのはお前だけだよ――【臨死解体ニアデッド】、解除」



 真っ二つになった二人の内、クリオプレケスだけ臨死解体を解除する。

 【影法師】のスキルを貫通して、奴だけが切断された。ジェイコスさんの方は切断面からは血も流れていない。痛みもないはずなので、ノーダメージだ。


「どういうカラクリかは知らないけど、一度殺してもまた蘇ってくる可能性があるからね。だから今回は、別の方法を使う事にしたよ」


 そう言って僕は懐からある物を取り出す。それを見たクリオプレケスが顔色を変えた。


「それは、『蛇の眼』!? ま、まさか!!」


「臨死解体でバラバラにしたあと、回収しておいたんだ。この事件の重要な証拠物だからね」


 これから何をされるのか察したのだろう、ガタガタと震えだすクリオプレケス。

 それを無視して、真っ二つになっている、蛇の眼と呼ばれたマジックアイテムを押し合わせて、臨死解体を解除する。

 蛇の眼はまるで磁石に引かれあうように、二つの破片がぴったりと引っ付いた。


「死体をバラバラに解体しても蘇るなら、石像にしちゃえばどうなるんだろうね」


「やめろっ、やめろオォォォォォォォォ!!!!」


 蛇の眼が、まるで宝石のように翆色に輝く。

 一瞬そこから影のようなものが伸びたかと思うと、クリオプレケスの身体を飲み込む。



 そして、白骨死体がそのまま石化した、奴の残骸だけが残された。

 迷宮都市を震撼させた、連続石化事件の犯人。

 最期は自らも石像になるという、奴に相応しい末路だった。

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