第58話 vsアークリッチ・ゾンビケルベロス ③血の応酬
「ゴッ、アァァァアァ!!」
体内で爆弾が炸裂したかのような、凄まじい爆音が鳴り響く。
ソフィアは、奴の体内で爆発物を錬成したのだ。魔術と合わさって発動されたそれは、凄まじい破壊力だった。
クリオプレケスは爆発の衝撃で、血肉と贓物をまき散らしながら吹っ飛ばされる。通常ならば即死するレベルの大ダメージ。しかし不死者とも呼ばれるアンデッドモンスターは、しぶとく偽りの生に縋りつく。
「おのれっ、おのれっ! 絶対に許さんぞ!」
やがて立ち上がったクリオプレケスは激昂して叫ぶが、その肉体の大半を失っていた。肉と皮は剥がれ落ち、露出したケルベロスの頭蓋骨からは焦げた眼球が零れ落ちていた。
【自然回復力向上】のスキルが発動している様子もない。死体となった今、生命が持つ自然回復力を失っているからだろう、死にスキルと化している。ゼロに何を掛けてもゼロだ。
「ッ、今ので二回目の体内攻撃よ!? いくらなんでもしぶとすぎる!」
血反吐を吐きながら舌打ちするソフィア。二回目? ということは、最初にケルベロスを殺した時も体内を攻撃したのだろうか。
それより、確かに今の爆発は相当な威力だったはずだ。いくらケルベロスとはいえ、内側からあれを喰らって原形を留めているのは考えにくい。
まさか、ギリギリで【影法師】スキルが間に合って、ダメージが途中から受け流された?
……だが、限界は近いはずだ。
今度こそ奴に攻撃を当たれば、恐らく決着が着くだろう。次は受け流されないよう、【
そしてしぶとくも生き残ったクリオプレケスは、こちらに再び牙を剥こうとする。
標的は――
「貴様が! 貴様が居なければ! 儂の計画は全て上手くいっていたはずなのじゃ! それを台無しにしおってェェェ!!」
最早正気とは思えない錯乱具合で、リリスに向かって飛び掛かる。
ケルベロスの動かない体を、影魔術の触手で支えながら。
「こ、こっちです! 私はここに居ますよっ!」
リリスは距離を取りながらも、敢えてクリオプレケスの注意を引き付けようとしてくれている。
そしてソフィアと、リリス。二人のお陰で、間に合った。
「【
ソフィアの爆発が追いつく時間を稼ぎ、リリスの誘導が僕への注意を怠らせた。
ケルベロスの身体を支える影の触手をバラバラにし、奴は体勢を崩す。
「ヒャッ!? 来るな、来るなァ!!」
影の触手を次々と生み出しこちらに攻撃してくるが、さっきと比べて明らかに威力が落ちている。
もはや捌くまでもない。タイミングを合わせて発動した解体スキルが、カウンターで奴の触手を消滅させる。
「ヒィィィィッ!!!」
「……大げさだな、そんなに怯えることないじゃないか」
僕が一歩近づく毎に、奴も一歩退く。
こいつは戦闘が始まってからずっと、僕から距離をとるばかりだった。
『触れたら即死する』という事実は、不死の存在であるクリオプレケスには到底受け入れがたいものだったのかもしれない。
だからといって、こいつに情けを掛けるつもりは一切ないけど。
「死ねっ、死ねっ、死ねえええええええッ!!」
最後のあがきだろうか、肉体の大部分を失ったにもかかわらず、無茶な体勢でブレス攻撃を行おうとしてきた。
この状態でブレスを放てば自身も巻き込まれるというのに、お構いなしだ。肉が吹き飛び骨だけになったケルベロスの三つ首から、魔力が溢れ出している。
当然、こちらはブレスを妨害しようとするが、濁流のように溢れ出した影の触手が、本体との直接接触を阻もうとする。
……僕の手に気を取られている奴は、触手を掻い潜るように迫る、足元からの脅威に気が付いていない。
僕の攻撃手段は、何も解体スキルだけに限らないのだ。
「むおっ!?」
ケルベロスの足元に、赤い管のような物が巻き付く。それは血液で作り出した管だ。
『血液操作』。僕の身に着けている、ヴァンパイアの素材から作り出された防具が備えている能力。
僕は解体スキルでの攻撃と並行して血液を操作し、管の様にして奴に近づける機会を窺っていた。
そしてこの血は、ソフィアが流したものだ。
「ソフィア!」
「任された! ――これで三度目よ、いい加減に爆散しなさい!」
奴の足に巻き付いたソフィアの血液を媒介に、
だが奴は動じない。ソフィアの攻撃を防ごうともしていない。
恐らく既に影法師を生み出しているのだろう。体内で起爆させられても、ノーダメージでやり過ごせると思っているのだ。
「ソフィアの血液に、僕の血液も混ぜておいた」
僕の指先から滴る血が、ソフィアの零した血と混じりあって、クリオプレケスの足元に蛇のように絡みついている。
僕の解体スキルが最大の威力を発揮するには、“直接接触”という条件を満たす必要がある。
この場合の直接接触とは、僕の肉体のどこか一部分が触れていれば成立する。
そしてそれは、僕の血液であっても有効だ。僕の血は肉体の一部として認識される。
【
いかなる防御も受け流しも貫通する攻撃。今度こそ確実に仕留める。
「ッ!!!???」
クリオプレケスが今になって、危機的状況に気付いたのか。
影から出てきたケルベロスの影法師が、僕とソフィアを噛み殺そうと飛び掛かろうとする。
だが、もう遅い。
「
リリスの呼びかけに、クリオプレケスは反応した。
飛び掛かろうとしていた影法師の動きが一瞬、止まる。
間に合ったはずの攻撃が、間に合わなくなる。
奴は、気づいていただろうか?
自分が既に、判断能力を狂わされていることに。
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【クリオプレケス】 レベル:70
性別:オス 種族:魔物、不死者 (アークリッチ)、悪魔
【スキル】
○影法師……自身の身代わりになってくれる影人形を生み出す。受けたダメージを代わりに引き受けるが、一度攻撃を受けると消滅する。 影は光のある場所では存在できず、また生成数には限度がある。
〇炎の刻印……任意の攻撃に、火属性の魔力を付与する事が出来る。
〇氷の刻印……任意の攻撃に、氷属性の魔力を付与する事が出来る。
〇雷の刻印……任意の攻撃に、雷属性の魔力を付与する事が出来る。
〇自然回復力向上……自然回復力が向上し、傷がすぐに治る。
〇猛毒ブレス……猛毒を含んだブレスを口から放つことが出来る。
〇吸血……他の生き物の血を飲むと、一定時間身体能力と魔力が向上する。
【備考】
融合状態。ゾンビケルベロスの肉体を借りて、融合している。
魅了状態。
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……この戦いが始まってから、リリスがお前に『
出会った時はサキュバスとしての種族特性も使えなかったリリスだが、修行の成果で魅了能力を会得していたのだ。
アンデッドであれど、異性であれば魅了は効果を発揮する。
だからお前は、無意識の内にリリスを積極的に狙うようになっていた。そして今のリリスの呼びかけに、反応せざるを得なかった。
クリオプレケスは、こちらの攻撃に対し、何ら有効な行動を取れなかった。
「【
「――【
今度こそ、逃れようがない一撃が炸裂する。
三度目の爆発攻撃を受けたケルベロスの肉体は、目の前で粉々に爆散した。
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