第44話 vsハイブリッド・フレッシュゴーレム
(一人称視点)
「お前が元凶だな」
僕は確信を持って、目の前の存在に問いかけていた。
ケルベロスが去った後、僕は単独で影の中に潜り、術者への強襲を行うことにした。
高度な影魔術による、影から影への転移。
だがミュルドさんと同じであれば、これほどの影魔術を使うには術者が集中する必要がある。
ならば好機チャンスは今しかない。影の中に潜り込める僕ならば、術者を襲撃し集中を乱すことができる。
そうすればケルベロスの転移は失敗するか、中断されるかもしれない。仲間の安全のためには、思いつく限りこれが最速で最善の方法だった。
切り落としたケルベロスの足。その影は、未だ術者の下に繋がっていた。
狭い影の中を潜り抜け、出た先は狭い石造りの部屋。
恐らくあの古城の中だろう。そして目の前に、術者である魔物が無防備に突っ立っていた。
人間の骸骨に、皮や衣服の残骸を纏っただけの薄汚い見た目。
だがその身に纏う魔力と、おぞましい死の気配が目の前の存在から伝わってくる。
僕はこの魔物を知っている。
アークリッチ。Bランクボスモンスター相当の、上級アンデッドだ。
……こいつが、石化事件を起こし、ケルベロスを従えている張本人に違いない。
「なっ……!? 貴様どこから!?」
骨をすり合わせたかのような、しわがれた男の声。
僕はその問いには答えず、目の前の存在を抹殺すべく、スキルを発動した。
「【解体】」
素手で直接接触した状態での解体。
その威力は遠隔解体の比ではなく、 物理防御力に乏しいアークリッチの体は、粉々に砕け散るはず、だった。
「ッ!?」
だが僕に首元を掴まれたアークリッチは、粉々になることはなく依然として存在していた。
指先からは、解体スキルが十全に発動した事と、その力の行く先が別の場所に受け流された感触が
……何らかの方法で、攻撃の対象を逸らされた?
ケルベロスを容易く切断するほどの威力を持つ解体スキルだが、当たらなければ意味はない。
奇襲からの一撃必殺というアドバンテージを活かせなかった、が、呆然としている場合ではない。
「ゴォォオレムゥ!! こやつを叩き潰せェ!」
アークリッチが叫び声をあげると、傍の石レンガの壁が崩れ、巨大な腕らしきものがこちらに伸びてきた。
首元を掴んだままでは避けきれない。やむを得ずアークリッチから手を放し、飛びのいて回避する。
壁の向こうから現れたのは、確かにゴーレムと呼べる存在だった。
ただしソフィアが生み出す石造りのゴーレムとは違う。
城壁を取り込んだのだろう、 石レンガの体と、まるで生肉の様に蠢くピンク色の関節部。 別々の素材をつなぎ合わせたかのような、何故か激しく嫌悪感を掻き立たせる出で立ちだった。
双方から距離をとったこの瞬間に、アークリッチのステータスを確認しておく。
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【クリオプレケス】 レベル:65
性別:オス 種族: 魔物、不死者 (アークリッチ)
【スキル】
○影法師……自身の身代わりになってくれる影人形を生み出す。受けたダメージを代わりに引き受けるが、一度攻撃を受けると消滅する。 影は光のある場所では存在できず、また生成数には限度がある。
【備考】
なし
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「ヒャ、ヒャヒャヒャヒャ! 残念じゃったのう! 儂のスキルがなければ、危うくやられていた所じゃったわ! ……だがもう仕舞じゃ! 儂の最高傑作、【ハイブリッド・フレッシュゴーレム】に潰されるが良い! そして貴様もこのゴーレムの材料にしてやろう!」
悪意の籠った耳障りな声で、アークリッチ––クリオプレケスが嘲笑う。
その態度に、ハイブリッド・フレッシュゴーレムから発せられる正体不明の嫌悪感に、嫌な予感がした。
僕は咄嗟にゴーレムを注視する。
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【アレックス・ハワード】 レベル:27
性別:オス 種族:人間
【スキル】
○【疲労回復】……体力が早く回復する。
【備考】
○発狂状態
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【オレスト・カプテム】 レベル:30
性別:オス 種族:人間
【スキル】
○【剣術】……剣術に高い適性を持つ。剣を使った動作全般に身体能力の補正を与える。
○【槍術】……槍術に高い適性を持つ。槍を使った動作全般に身体能力の補正を与える。
【備考】
○発狂状態
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【サディア】 レベル:19
性別:メス 種族:人間
【スキル】
○【変身】……他種族の生物に変身する事ができる。変化するのは肉体構造だけで、対象のスキルは模倣出来ない。また変身対象の肉体構造を詳細に把握する必要がある。
【備考】
○発狂状態
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だが表示されたのはゴーレムのステータスではなく、人間の……それも、複数人のステータスだった。
……まさか、このゴーレムの素材は。
「――――!!」
主人の指示に従って、機械的に僕を叩き潰さんとするゴーレム。
その攻撃を僕は、回避しない。
回避する必要はない。
「【解体】」
僕の身体に触れた瞬間、ほどけるようにゴーレムの腕がバラバラになった。
ボトボトと肉片と得体のしれない液体が床に零れ落ちる。その生々しさを見て、僕の中の疑念が確信に変わる。
「ハァ!? なぜ死なぬ!? なぜ攻撃したゴーレムの方が壊されておる!?」
「魔物の死体じゃ、ない。生きた人間を、素材にしたのか」
クリオブレケスの薄汚い声など、どこか遠くに置いてきたかのように、頭の中に入ってこなかった。
代わりに僕がゴーレムに抱いていた、嫌悪感の正体への納得。そして心の内から、激しい怒りが込み上げてくるのを感じていた。
「どこまで、どこまで命を冒涜すれば気が済むんだ、お前は」
腹の底から、無意識に声が出ていた。
魔物に対してここまで殺意を抱いたのは、初めてかもしれない。
僕の中のユニークスキルが、囁いた気がした。
目の前の存在を許すな。二度と現れないように、バラバラにしてしまえと。
破壊衝動、というべきなのだろうか。
普段ならは理性で抑えるべきなのだろう。 だが今回ばかりは、そんな気分ではなかった。
僕の意思と解体スキルの衝動が、一致した。
まるで歯車が噛み合ったような、途方もない全能感が僕を満たしていく。
体の中から、これまで感じたことのない力の脈動を感じる。
「ええい、何をしておる! さっさとこいつを潰してしまえ!」
僕の周囲には味方は居ない。 巻き添えの可能性を考える必要もない。
荒れ狂う衝動に身を任せ、僕はユニークスキルを発動した。
「【解体――
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