第30話 サキュバスの少女リリス
本日二回目の連続更新です。まだ前話を見ていない方はご注意ください。
◆◆◆
「た、助けてくれてありがとうございますっ!」
サキュバスの少女――リリスが、そう言って僕の目の前で頭を下げた。
既にスライムに襲われた際の消耗からも回復しているようだった。
「うん……どういたしまして?」
僕はそんな煮え切らない返事を返すことしかできなかった。
スライムを倒してからしばらくの時間が過ぎたが、僕は未だ彼女に対する対応を決めあぐねていた。
――彼女は人間ではなく、サキュバスと呼ばれる魔物の一種だ。
魔物はその生態に応じて細分化されている。彼女の様に人間と同程度の知能を持ち、意思疎通が可能な人型の魔物を“魔族”と呼ぶ。
基本的に魔物は全て人類に敵対しているが、中には例外もある。
彼女のような、魔族や悪魔といった意思疎通が可能な魔物の中には、人間に中立、または友好的な者が居るのだ。
彼らは人間に取引を持ち掛ける事があり、場合によってはとてつもない利益をもたらしてくれる事もある。冒険者の中には悪魔と契約して更なる力を手に入れた者も居るし、宝の在りかを教えてもらい一攫千金を手にした者も居る。
そういった例もあって、冒険者ギルドも魔物との取引を特に禁じてはいない。
ならば、目の前の彼女はどちらだろう。
人類に友好的か、敵対的か。
表面上の態度だけ見れば友好的に見える。だが悪魔には狡猾な者が多い。人間に友好的なフリをして近づき、油断した瞬間に襲われたという例も多い。
ひょっとしたら、スライムに襲われていたところも含めて演技かもしれない。
そもそもポイズンスライムもサキュバスも、この第3階層には本来生息していない魔物なのだ。
魔物の大移動という異変があるとしても、下層から上がって来た魔物がたまたま同じ場所で遭遇して、さらに魔物同士で争うなんて事が有り得るのだろうか。
……彼女が何を考えているのかは、ステータスを見ても判断することはできない。
僕が直に観察して、見極めなければならない。
「私、リリスっていいます! あの、お兄さんはなんて名前でしょうか?」
「僕はシテン。冒険者をやってるんだ。……君はどうして此処に? なぜスライムに襲われていたの?」
彼女の出方を窺うべく、こちらから質問を投げかけてみた。
「私も正直、よく分からないんです……私はこの迷宮で
返答は意外なものだった。
なんと彼女自身にも、こうなってしまった事情は分からないのだという。
迷宮の魔物は、主に二通りの方法で出現する。
一つは他の生き物と同じように、生殖によって生まれてくる魔物。
もう一つは、何もない所から突然出現する魔物。
リリスの場合は後者だろう。悪魔などの知恵あるモンスターは、生まれてきた時点である程度の知能を備えていると聞いたことがある。
……彼女は本当の事を言っているのかもしれない。
僕の事を騙そうとしているなら、もっと説得力のある説明を用意するだろうし。
よく見ると、彼女の身体は逃げるときに付いたであろう、細かな擦り傷だらけであった。特に酷いのは足だ。彼女はサキュバス特有の露出度の高い服以外には何も身に着けておらず、裸足でここまで逃げてきたようだ。
「傷だらけだね……回復薬を置いておくから、それを使うと良い。サキュバスに効果があるかは分からないけれど」
警戒を一段階緩めた僕は、傷を癒すための回復薬を分けてあげることにした。
いくら魔物とはいえ、幼い見た目の女の子がボロボロでうずくまっている姿を見て、これ以上何もせずにいることは出来なかった。
だがここで彼女――リリスから、またしても予想外の返答が返ってきた。
「わ、私のことは大丈夫です。それより先に、助けてほしい人達が居るんです! 石像になっちゃった冒険者の人達が、あっちに居るんです!」
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