第31話 疑惑
連続更新の3話目になります、ご注意ください。
◆◆◆
「……大体の事情は把握したわ」
あの後、追い付いてきたソフィアにここまでの事情を大まかに説明した。
ソフィアは訝し気な視線をリリスに向けていた。多分、リリスの救助要請が罠である可能性を疑っているんだろう。悪魔を簡単に信用してはならない――冒険者としては、ごく普通の対応だ。
だが、リリスの救助要請を無視することも出来ない。
石像になった冒険者というのは、恐らく石化事件に巻き込まれてしまった被害者だろう。
彼女の話が本当ならば、石化してしまったであろう冒険者を見殺しにすることになる。
石化事件の被害者を救うために努力して来たソフィアが、そんな真似が出来るはずもない。
「リリスちゃん、だっけ。その石像になった冒険者が居た場所は分かるの? 当時の状況を詳しく説明してくれるかしら」
「えと、ここよりもっと深くの……逃げながらだったので階層はよく分かりませんが、道順は覚えています! 魔物から逃げ隠れしている途中で、たまたま石像になっちゃった人達を見かけたんです。だからその、助けてあげてほしくって……」
「魔物であるあなたが、わざわざ冒険者を助ける理由は? 私は正直、これが魔物の巣に誘い込んで殺すための罠じゃないかって疑ってるんだけど」
「そ、そんな事しません! 私は魔物ですが、人間に敵意なんてありません……! 冒険者の人達も、ただ困っている人を助けてあげたかっただけで……」
……悪魔を簡単に信用してはいけない。とはいえ、ちょっと言いすぎな気もするな。
ここで議論を重ねても仕方がないので、僕から切り出すことにした。ソフィアだって実際は、現地に赴いて真偽を確認したいだろうし。
「ソフィア、とりあえずリリスに道案内をしてもらうのはどうだろう。目的地が浅い階層なら、たとえ魔物の巣だったとしても大して苦戦はしないと思う。僕らの実力で手に負えない魔物がいるエリアなら、大人しく引き返して救援を呼ぼう」
……口には出さなかったけど、万が一リリス本人が危害を加えようとしてきても、僕らに危害を加えられるとは考えにくい。彼女のレベルは1だし、スキルも持っていない。サキュバスの種族特性、
「ま、それが落としどころかしら。こうしてる間にも石化した冒険者が魔物に壊されでもしたら、取り返しがつかないし」
「じゃあ、あの人達を助けてくれるんですか!?」
ぱああっと音が聞こえてくるような、花の咲くような笑みを浮かべるリリス。
……う~ん、この笑顔といい、さっき自分のケガを後回しにして冒険者を助けてほしいと懇願してきたときの表情といい、ちょっと演技とは思えないかも。
「他の冒険者を見殺しにするのも気が引けるしね。悪いけれど、リリスには道案内をしてもらいたいんだ。その傷じゃ歩くのは辛いだろうし、回復薬で傷を癒すといいよ」
手渡しで回復薬をリリスに渡すと、今度は素直に飲んでくれた。ボロボロだった彼女の身体が、みるみる癒えていく。
どうやらサキュバスにもちゃんと回復薬の効果はあったらしい。この調子なら数分程度で完治するだろう。
「わっ、傷が……あっという間に治っていきます!」
無邪気に喜ぶリリスの姿を見ていると、突然胸の中をくすぐられるような感触が僕を襲った。
気配を辿ると、ソフィアがこちらを凝視していた。僕のステータスを覗き見たようだ。
リリスに聞こえない程度の声量で、ソフィアが話しかけてくる。
「……魅了は、されてないみたいね。念のため、定期的にお互いにステータスを確認することにしましょう。シテン、私のステータスも見てもらえる?」
「ああ、分かった」
魅了に掛かっているかどうかは、ステータスの備考欄を見れば判別できる。
お互いにステータスを監視すれば、魅了されていないか判断することが出来るだろう。僕は早速ソフィアのステータスを見ることにした。
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【ソフィア】 レベル:24
性別:メス 種族:魔女
【スキル】
〇錬金術……使用者の望む物質を、製造過程を無視して生みだすことが出来る。ただし使用者がその物質の製法を把握していて、かつ材料を消費する必要がある。
【備考】
なし
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
備考欄に何もなし。ソフィアも魅了には掛かっていないようだ。
「大丈夫だったよ。……にしても、ちょっとリリスの事を警戒しすぎじゃないかな? 本人の前で疑ってるだなんてわざわざ言わなくても」
「ああ、あれね。わざとキツい言い方をしたの。私が悪者になっておけば、逆にシテンには彼女も気を許すと思うの。そうすれば、彼女が人間に悪意を持っているかどうか、より詳しく観察できるでしょ?」
「…………」
なんて言うんだっけ、これ。飴とムチ?
「正直、リリスが僕らを陥れようと企んでいる様には見えないけど」
「実は私も同感。でも完全に信用したわけじゃないから、シテンも一応見張っておいてね? 私は昔話の魔女みたく、わる~い魔女を演じておくから」
陰でそんなやり取りをしながら、僕ら三人は石化してしまった冒険者の居る場所へ向かう事になった。
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