第25話 他の冒険者に絡まれる

「聞いてるぜ? Eランクのお前がBランクのレッサーヴァンパイアを討伐したって。……どうせ何かのマグレだろ? 万年勇者パーティーの荷物持ちをしていたお前が戦えるわけがネェからな!」

「マグレでBランクの魔物を倒すとは、なかなか幸運な奴だな。俺たちにも運を分けてくれよ」


 ソフィアの錬金工房に向かおうとして、近道をするために人通りのない道に入った途端、複数人の男に囲まれた。

 男達の中には、先ほどギルドで野次馬をしていた冒険者が何人か混じっている。

 そうか、ツバキさんとの会話を盗み聞きして、僕がギルドを出た後に襲うつもりだったのか。

 となると、周囲の男は冒険者か、その崩れかな。人数に頼って囲んで襲うだなんて、彼らの考えそうなことだ。


「……あの。僕迷宮から帰ったばかりで疲れてるんです。後にしてくれませんか?」


「おういいぜ! 身ぐるみ全部置いていったら逃がしてやるよ」

「バカ、ついでにボコボコにして見せしめにするって話だったろ?」

「勇者様を裏切ったクズ野郎に遠慮はいらねぇよ」

「報酬は全員で山分けだ。間違っても変な気は起こすなよ?」

「どれ、ちょっとステータスを覗いてやるか……」


 残念ながら逃がしてくれそうにない。それどころか、勝手に僕のステータスを確認しはじめる男までいた。

 どうやら彼らの中では、僕の敗北は既に決定事項のようだ。


「うわぁ……めんどくさいな」


 思わず、そんな呟きが漏れてしまった。


「……あ? お前今なんて言った?」


 男たちは合わせて九人。この中に実力者は居ない。

 ギルドを出た時、僕の後をつけてくる誰かが居る事には気づいていた。だからこそ、あえて人目の付かないこの場所に誘導した。

 僕が気づける程度のお粗末な尾行。それに街中という事もあるが、大した装備を付けていない者が殆ど。

 よって、この中に大した実力者は居ない。


 対して僕は、迷宮から帰ってきたばかり。疲労は溜まっているが、迷宮探索用のしっかりとした装備を身に着けたままだ。

 何より、彼らは僕の事を取るに足らない雑魚だと信じ切っている。

 彼らの中には、目の前で僕のステータスを確認し始める者も居る始末。ステータスを表示するという事は、敵の目の前で目隠しをしているようなものだ。




「そんなにお金が欲しいなら――奪ってみるといい」



 自走する荷台とも言える、ソフィアから借りている運搬用ゴーレム。

 その荷台に積んでいた金貨の革袋を、僕は上空に思いきりぶん投げた。

 革袋の紐が解け、空中に眩い金色の光が散らばる。


「あっ、金貨が――」

「バカッ、よそ見するなッ!」


「――【解体】」


 何人かの冒険者は僕の狙いに気付いたようだが、もう遅い。



 一番近くに居た男の腕を掴み、解体スキルを発動。

 昨日シアに絡んでいた冒険者と同じように、神経だけを直接攻撃する。


「ギャアアアアッ!?」


 男が悲鳴を上げてその場に転がる。後八人。


「なんだっ!?」

「気を付けろ!」


「【解体】」


 真っ先に反応した男が二人居たので、何かされる前に先に潰しておく。

 二人の男をそれぞれの腕で掴み、再びスキルを発動。

 刺激に耐え切れずその場で失神する二人。あと六人。


「テメェ!」


「もう容赦しねぇぞ!」


 流石に事態に気付いたのだろう、空中の金貨に目を奪われていた連中も、僕に視線を戻し武器を構えた。

 けれどまだ遅い。武器を構えた頃には、僕は男の懐に潜り込んでいる。


「こいつ、速っ――」


「【解体】」


 男を突き飛ばしながら、解体スキルを発動。

 予想以上の勢いで男の身体は吹っ飛び、背後に居た別の男に激突した。あと五人。


「うわっ」

「この野郎!」

「囲め!」

「もう逃がさねぇぞ!」

「死ね!」


 衝突して怯んだ男を除いて、残りの四人が一斉に襲い掛かってきた。

 僕は足元で解体スキルを発動。周囲の地面をバラバラに解体し、街中に突然砂漠が出現した。


 足を取られて狙いが逸れた男たちの攻撃を、最小限の動きで躱す。


「【解体】」


 同時に、僕の身体を掠めた男達の武器が、粉々に粉砕されていく。

 得物を突然失い動揺する彼らに足払いを掛け、解体スキルを発動。

 装備と神経を破壊された男達が絶叫して、砂場に転がった。


「――これで、後一人」


「ヒ、ヒイイィィッ!?」


 残ったのは、さっき突き飛ばした奴とぶつかって怯んでいた男だけになった。

 奇しくも彼は、冒険者ギルドでさっきちょっかいを掛けてきた男だった。

 先ほどまでの下卑た笑いはどこへやら。鼻水を垂らしてガクガクと震えている。


「ゆ、許してくれっ! アンタがここまで強いとは思わなかったんだ! ちょっと魔が差しただけなんだ、もう二度とちょっかいは掛けないから!」


「ダメ」


 泣き叫ぶ男の額に指を当てて、容赦なく解体スキルを発動し意識を刈り取った。

 さっき油断してソフィアを怪我させたばかりだからね。やるなら徹底的にしないと。


 後に残ったのは、砂場に転がる九人の男と、散らばった金貨だけだった。


「こっちは迷宮帰りだっていうのに、余計な体力を使わせないでください」


 既に意識のない男達に向けてそう呟くと、地面に落ちた金貨を拾い集める。

 あぁ、金貨が砂の中に埋もれてる……地面を砂にしたのは判断ミスだったか。


 それにしても、まだ体力に余裕があるな。

 いつもならスキルを連続で使用すると、急激に疲労するのだけれど……

 もしかして迷宮探索でレベルが上がったのだろうか? 早速ステータスを確認してみることにする。


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

【シテン】 レベル:28

性別:オス 種族:人間


【スキル】

〇解体……ユニークスキル。対象を望むままの形に解体することが出来る。


【備考】

なし

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲



「レベルが一気に上がってる!」


 最後にステータスを見た時のレベルは確か15だったはずだ。一気に倍近くレベルが上がったことになる。ボスモンスターである狂精霊を大量に倒したのと、レッサーヴァンパイアを倒した影響だろうか。

 道理で体力に余裕があるはずだ。レベルアップすれば身体能力が向上し、スキルの性能も強化される。僕の肉体は解体スキルの連続使用に、ある程度耐えられるようになったのだろう。


 それにしても、短期間でここまでレベルアップしたのは初めてだな……

 勇者パーティーに居た頃はソロで迷宮に潜る時間を捻出するのも難しかったから、レベルアップのペースはとても緩やかだった。

 今となっては、僕のレベルアップを阻む障害はもうない。もう少しレベルを上げれば、スキルを発展させた技術――派生スキルを新たに習得できそうだ。


「と、その前にソフィアの工房に行かなきゃな。石化解除薬がちゃんと売れるといいんだけど」


 金貨を集め終わった僕は、ソフィアの待っている工房に向かって、運搬用ゴーレムを引き連れて歩き出した。

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