第26話 シアと昼下がり

 ――そして、時は再び現在へ。狂精霊の核から作られた石化解除薬が、瞬く間に売り切れた後へと戻る。



「悪いね、シア。装備選びに付き合ってもらっちゃって」


 迷宮都市はただいま昼下がり。僕はシアと一緒に、立ち寄ったカフェでのんびりと休憩していた。


 ソフィアの錬金工房で石化解除薬を売り切った後、シアと一緒に新しい装備を探して、色々なお店を訪れていた。

 シアの鑑定スキルがあれば、店の当たり外れや装備の品質を正確に確認できる。シアの買い物に付き合う事を条件に、昨日のうちに予め約束をしていたのだ。

 お陰で良質な装備を買うことが出来た。シアの買い物も一通り済んだので、こうして一服しているわけだ。


「気にしないでください、むしろ誘ってくれて嬉しかったくらいです。シテンさんも私の買い物に付き合ってくれましたし……」


 そう言って目の前で紅茶を飲むシアの姿はとても様になっていて、細かな所作からも優雅さが感じ取れた。まるで深窓の令嬢みたいだ。

 服装も普段の簡素なものとは違い、白を基調としたワンピースのような衣服をまとっていた。お出かけ用の衣装だろうか? こんなに綺麗に着飾ったシアは初めてだった。


「それにしても、“一緒に服を選んでほしい”って言われた時はちょっと驚いたな。女の子の服選びに付き合うなんて初めてだったから」


「む、昔から憧れだったんです。シテンさんとデー、いえ、一緒に服を選んでもらうこと、です!」


 一瞬何かと言い間違えて恥ずかしかったのか、頬を赤らめて顔を伏せてしまった。

 普段と雰囲気が違うせいか、今日のシアはやけに可愛く見えるな……


「そ、そうだったんだ。でも女の子の着ている服ってよく知らないから、結構時間を掛けちゃったね」


「あれは……シテンさんのせいじゃなくて、その、私の体型のせいというか……丁度良いサイズの服がなかなか見つからなくて」


「えっ。あ、あぁ……」


 そういえば、何着か試着して見せてくれた時もしきりに胸元を気にしていた気がする……女の子の服選びは大変なんだな。


「ゴメン、気が利かなかった。次はもっと時間に余裕を持たせるようにするよ。それまでにファッションとかも少し勉強しておく」


「つ、次? また付き合ってくれるんですか?」


「これくらいで良ければいくらでも付き合うよ、もちろん服以外の買い物でも――」


「や、約束ですよシテンさん! また二人で一緒にお買い物に行きましょう!」


 僕が最後まで言い切る前に、シアが身を乗り出して食い気味に返事をした。

 よほど楽しみなのか、「次のお買い物の時は、今日決めてもらった服を着てきますね!」と言って、もう予定を頭の中で立て始めているようだった。

 多分、そう遠くない日にまた買い物に行くことになるだろう。

 それで彼女がこんなに幸せそうな表情をしてくれるなら、喜んで付き合うとも。



 カフェで一服した後は、二人で孤児院に向かう事にした。

 まとまったお金が手に入ったので、今のうちに仕送りを届けておきたかったのと、勇者絡みの問題が何か起きていないかの確認のためだ。


 その道すがら、シアに今後の予定を軽く話す事となった。


「――それでは、シテンさんは今後も冒険者を続けるんですか?」


「うん。せっかく迷宮都市に居るんだから、稼ぎの良い冒険者は続けておきたいしね。なんとなく、やりたい事も決まったし」


 冒険者を続ける理由は、やはり稼ぎが良いというメリットが大きい。もちろん僕だけに限らず、他の冒険者も多くはそうだろうけど。


 迷宮から産出される資源は地上では手に入らず、代用の利かない様々な用途があるため、世界中に輸出され迷宮都市に莫大な利益をもたらす。

 例えば、先日のレッサーヴァンパイア戦でも使った灯魔石トーチストーンなんかもそうだ。

 魔力を通すと発光するという性質を持つこの石は迷宮でしか採掘できず、松明代わりや街灯として世界中に輸出され使われている。

 それ以外にも様々な特産品が迷宮都市から輸出されていて、誰が言ったか『世界の中心』とまで言われているくらいだ。

 そして迷宮都市を管理する組織、冒険者ギルドは、他国の王族に匹敵、あるいは凌駕する程の資産と権力を持つ。

 全ての冒険者はギルドの管轄下にあり、冒険の成果次第でその莫大な利益を享受することが出来る。これ程稼げる職業は他にほとんどないだろう。命の危険とドロップ運を度外視すれば、だけど。


「しばらくはソフィアの依頼のために、第三層を周回するかな。石化解除薬はすぐに売り切れちゃったし、今度は沢山の在庫を用意しておきたいからね」


「それは……ソフィアさんと一緒にですか?」


「うーん、ソフィアの都合が合えば、かな。運搬用ゴーレムが使えるようになるから、付いてきてくれると助かるのは事実だけど、ソフィアも毎日店を空ける訳にはいかないだろうし」


 ソフィアが【錬金術】スキルで生み出すゴーレムは、術者から離れすぎると動かなくなってしまうらしい。彼女の都合がつかない日は、狂精霊の核を運搬する手段を用意しておく必要がある。

 もう少し資金が溜まったら、異次元に大容量を収納できるマジックアイテム、マジックバッグを購入するつもりだ。


「そうですか……私は戦えないので、探索のお役に立てないのは残念です。でも今回みたいな、装備やアイテムの鑑定だったら、遠慮なく呼んでくださいね」


「うん、そうさせてもらうよ」


「――あれ? 『鑑定ちゃん』?」


 そんな会話をしながら歩いていると、通りすがった二人組の女性が、突然僕たちに声をかけてきた。






◆◆◆

買い物シーンや服選びデート(?)を描写しようとも考えましたが、物語のテンポを優先したかったのでやむを得ず省略しました。。。

ヒロインとイチャつくシーンが見たい! という方はコメント欄から教えて頂ければと思います。後日番外編とかで補完するかもしれません!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る