第15話 ボスモンスターを大量討伐、貴重な素材を大量入手

 狂精霊は、第3階層の特定のエリアでのみ出現する。一度出現した狂精霊は、基本的にそのエリア内に留まっているので、複数ある出現ポイントを順番に巡っていくと、効率的に遭遇することが出来る。

 全ての出現ポイントを通った頃には、最初の場所に再び狂精霊が出現しているはずなので、またそこから周回を始める。この繰り返しだ。まるでマラソンみたいだな。


「――五十体目。そろそろ荷台がいっぱいになってきたな」


 解体スキルで手に入れた狂精霊の核を、ゴーレムの荷台に放り込む。サイズが元々控えめなのもあるが、既に荷台は狂精霊の核で一杯になっていた。


「ソフィア、そろそろ切り上げないか? これ以上荷物を増やすと帰りで苦労しそうだし、薬を作る時間も必要でしょ? それにちょっと、疲れてるように見える」


「そ、そうね……地上に戻りましょうか。正直、疲れてきたところだったの。まさか初日からこんなハイペースで狂精霊を狩るなんて、想像以上だった……」


 僕の提案に、ソフィアはどこか力のない声で賛成した。

 最初はソフィアも狂精霊の討伐を手伝おうとしてくれたけど、僕のような一撃で倒す手段がなかったらしい。結局僕が瞬殺する方が効率的だったので、途中から彼女の役割は、ゴーレムを制御するだけになっていた。

 それでもかなりの時間を移動に費やしたので、流石に疲労しているようだった。ペース配分を間違えたかな……パーティープレイって難しい。


 そういう訳で、今日のところは地上に帰還することになった。手に入れた狂精霊の核は合計五十個。初日の成果としては上出来だろう。



「ねえシテン、貴方本当にEランクの冒険者なの?」


 地上へ戻る帰り道、ソフィアが唐突に尋ねてきた。


「実際に目にして分かった。貴方の冒険者としての実力は本物よ。事前に目的地への最短ルートを割り出す計画性もあるし、コボルトの時も、私より先に気づく索敵能力もあった。何より、ボスモンスターですらも一撃で解体してしまう超攻撃力。総合的に見て、Eランクの冒険者の実力とはとても思えない」


「そ、そうかな……? 僕は正真正銘、ただのEランク冒険者だよ」


 僕がEランクだというのは本当だ。

 冒険者のランクというのは、ギルドからの依頼を達成したり、貢献をすることで昇格していく。

 パーティーで依頼を達成した場合はメンバー全員が評価されるのが普通だが、しかし僕の場合は評価されていなかった。

 だから勇者パーティーのメンバーが皆Aランクに昇格した時も、僕だけEランクのままだった。

 まあ実際戦闘に参加したわけではないし、自分の意思ではないとはいえ、仕方のないことかもしれない。


「シテン、貴方が勇者パーティーを追放されたって噂は、私も耳にしてた」


「…………」


「ごめんなさい、私が探索についてきたもう一つの理由は、噂の真偽を確かめるためだったの。世間じゃ貴方が勇者達の足を引っ張って、そのせいで敗走したって言われてるけど……あなたの実力なら、少なくともパーティーの足を引っ張るとは、とても思えない。噂なんて宛にならないわね……試すような真似をして、ごめんなさい」


「気にしなくていいよ、大切な取引が関わってるんだから、相手のことを調べるのは当然のことでしょ。……冒険者としての実力を誰かに認めてもらったのは初めてなんだ。正直とても嬉しいよ」


 紛れもない本心から出た言葉だった。彼女は僕に悪意を持って接してきたわけではない。自分自身の眼で、石化解除薬の大量生産という一大事業にふさわしい相手か見極めようとしただけだ。その行動力は彼女の長所の一つなのだろう。


「そう言ってもらえると助かるわ……ありがとう、シテン」


 ソフィアは、そう言って柔らかく微笑んだ。今まで僕に見せていた笑みとは少し違う雰囲気で、思わずドキッとするほど魅力的だった。なんとなく、彼女との距離が縮まった気がした。


「さて、湿っぽい話はこれくらいにして! 明日には薬を売りに出したいから、そのためにも早く工房に戻るとしましょう!」


 そう言ってソフィアは足を速めた。

 このペースだと、アクシデントが起きなければ、夕方には地上に戻れそうだな。工房に着くころには、シアとも合流できるだろう。





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