第13話 勇者パーティー、シテンを追放した記念に酒盛りを始める(勇者視点)

(三人称視点)


「ハハハッ、ようやくゴミ漁りのシテンを追放してやったぜ!」


 勇者パーティー【暁の翼】の拠点。そこでは勇者イカロスが、上機嫌でワインを口に流し込んでいた。

 他のパーティーメンバーも同様だ。魔法使いのヴィルダ、斥候のチタも、真昼間だというのに酒盛りを始めていた。

 唯一【聖女】であるルチアは姿が見えなかったが、彼女が一人別行動をとるのは今に始まったことではないので、室内の三人は誰もルチアの行方を気にしていなかった。


「何度思い出しても笑えるぜ! 追い出されると知った時の、シテンのあの間抜けな顔!」


「ニャハハ、まるで鳩が豆鉄砲を食ったようだったニャ。その後の必死にイカロスに縋りつく姿も、情けなさ過ぎて笑えてきちゃうニャ!」


「わたしがちょっと魔法で脅してやったら、尻尾巻いて逃げていったからね、アイツ。フン、薄汚い孤児が栄えある私達のパーティーから出て行ってくれて、ようやくスッキリしたわ!」


 そう、イカロス、ヴィルダ、チタの三人は、シテンを追放した後、『シテン追放お祝いパーティー』と称して酒盛りを始めていたのだ。

 アルコールの勢いに任せて、三人は思い思いにシテンへの愚痴を吐き出していた。


「あいつ、いつも魔物の死体を漁って、『お金になるから』って言って素材を剥ぎ取って……正直気持ち悪かったわね。わざわざ死体を解体しなくても、ドロップアイテムを売ればいいだけの話じゃない」


「ニャハ、しかも最近のあいつは特に気持ち悪かったニャ。アタシ達が戦ってる時に、ジロジロと体の動きを観察してるような気がしてたニャ。アタシ達の戦闘に水を差すつもりなら、メチャクチャに痛めつけてやろうと思ってたニャ。ま、その前に居なくニャっちゃったけど! ニャハハ」


「……あいつは俺たちの戦いの邪魔をしてきたばかりか、普段から色々と口出ししてきてうるさかったからな。俺たち暁の翼が更なる飛躍を目指すためには、あいつの存在はもはや不要だった」


 イカロスはどこか自分に言い聞かせるようにして、そう呟いた。


(……そうだ、この間の敗北は、あいつが戦闘の邪魔をしたからだ。そうに決まってる。俺が判断ミスを犯したわけじゃない)


 内心の不安を洗い流すように、ワインを次々と体に流し込んでいく。

 普段よりも飲酒のペースがかなり早かったが、イカロスはそれを自覚していなかった。


(認めない。あいつのお陰で俺たちが助かっただなんて、そんな屈辱的なことは断じて認められない)


 イカロスはもちろん、他のパーティーメンバーも、ミノタウロスに敗走したあの日の出来事は、鮮明に覚えていた。

 なにせ勇者パーティー始まって以来の、初めての敗北だ。衝撃的過ぎて忘れようがない。

 あの日、瀕死のパーティーメンバーをシテンが救ってくれたことも、はっきりと覚えている。


 だがこの場に居る全員、その事実を口に出さなかった。

 あまりに屈辱的過ぎたのだ。普段から孤児と蔑んでいる相手から、命を救ってもらったという事実。そして彼が他の冒険者に救助を求めた結果、自分たちの敗走の事実がまたたく間に迷宮都市に広まってしまった事実。


 敗北を経験したことのない彼らは、その事実を受け止められなかった。彼らは自分たちの名誉を守るために、シテンに敗走の責任を押し付けて追放したのだ。


 暁の翼のメンバーは、その事を分かっていて、誰も口に出さなかった。皆が屈辱的な過去を、酒の力で忘れようとしていたし、敗北したのはシテンのせいだと、頭の中で無理やり正当化しようとしていた。


(チッ、思いだす度にムシャクシャする。こんな事なら、シテンの奴をもっと徹底的に貶めてから追い出しても良かったな)


 苛立ちを誤魔化すように、また酒を飲むイカロス。

 イカロスはシテンを暁の翼に勧誘した日の事を思い出していた。

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