第12話 魔女と解体師の迷宮探索

 この世界で唯一の迷宮、『魔王の墳墓』。

 僕たちの住む世界とは異なる別空間に存在しており、迷宮都市にある転移門を使わなければ内部に入ることは出来ない。

 その転移門を問題なく潜り抜けた僕とソフィアは、今回の目的地である狂精霊の出現するスポットに向かっていた。


「迷宮に潜るのは久しぶり……ちょっと腕慣らしをしておきたいわね。ついでに、お互いの戦い方を確認しておくっていうのはどう?」


「いいね、丁度そこにコボルトが居るみたいだ」


 迷宮に入ってからしばらく歩いたころ、岩陰に潜むコボルトの気配を感じたので、僕はそんな提案をした。


「あ、本当に居た。……それじゃあ早速。『燃えよ』!」


 ソフィアがそう叫んだ瞬間、コボルトに向けた杖の先から火の玉が飛び出した!


「ギャ、ギャアアア!!」


 コボルトの身体はあっというまに炎に包まれ、もがいていたがすぐに動かなくなった。


「今のは魔術? たった一節の詠唱で発動するなんて、流石だ」


「ふふん、魔女を名乗るからには、これくらいの魔術は扱えて当然よ」


 そう言ってソフィアは、少し自慢げに胸を反らした。

 衣服の上からでも隠し切れない、胸の豊かな膨らみが強調されてしまい、僕は慌てて視線を逸らした。


「じゃ、じゃあ次は僕の番ですね。ちょうどコボルトの増援が来たみたいです」


 昨日と同じように、コボルトの応援がやって来るのが見えた。

 今度は一匹。だが普通のコボルトじゃない。体格も大きいし、こん棒のような武器に防具まで装備している。コボルトの上位種、コボルトウォーリアだ。


「ウオオォォォン!!」


 僕はソフィアを庇うように前に飛び出すと、コボルトウォーリアの攻撃を短剣で弾く。

 さっき買ったばかりの新品の短剣だ。流石にこれくらいでは刃こぼれしない。

 相手が怯んだ一瞬の隙を突いて、コボルトウォーリアの胴を防具の上から浅く切りつける。


「【解体】」


 この程度の防具では、僕のスキルは防げない。

 直接接触による解体スキルを発動した瞬間、まるで積み木が崩れたかのようにコボルトウォーリアの身体はバラバラに解体された。生死など確認するまでもない。


「と、こんな感じで、対象を解体することが出来る。基本的に短剣で斬りつけてスキルを使うのが、僕の戦い方」


「……………………えっ、何いまの。なんか短剣が掠っただけでバラバラになったんだけど。こわい」


 なんかドン引きされていた。

 しまった、ちょっと派手すぎたか。首を落とすくらいで良かったかも。


「と、とりあえず先に進もう。道中で魔物に出会ったら、その時また実演するから」


 そして狂精霊の居る第3階層に到着するまでの間、僕たちはお互いの戦法を確認していった。情報の共有は、パーティーを組むにあたって必須だからだ。

 僕の解体スキルを見て、最初はちょっと引いていたソフィアだったが、次第に慣れてくれたらしい。魔物を斬首しても何も反応を示さなくなった。良かった。


 ……そして、第3階層の奥まった場所、冒険者も殆ど立ち寄らない場所で、今回の標的を見つけた。


「……居た! 狂精霊よ」


 視線の先では昨日死闘を演じた相手、狂精霊がふわふわと漂っていた。

 しかし今回は死闘を繰り広げることは無いだろう。昨日と比べて装備もちゃんと用意しているし、何かあってもソフィアがサポートしてくれる。

 うん、仲間が居るとやっぱり頼もしいな。パーティーでの探索も悪くない。


「じゃあ、僕から仕掛けるね。一人で倒せるか念のため確認しておきたいんだ。ソフィアは僕がしくじった時にサポートをお願い」


「任せて」


 そして僕は狂精霊目掛けて一直線に駆け出した。


 相手が僕の存在に気付いたようだ。魔法攻撃が飛んでくるが、難なく回避する。

 昨日の戦いで、攻撃の速度も種類もパターンも、全て把握している。そして、弱点である精霊核の場所も。


「【遠隔解体カットアウト】」


 もはや昨日の様に、至近距離まで接近する必要もない。射程範囲に収まった瞬間、僕は遠隔解体を発動した。

 一直線に精霊核目掛けて飛んでいく不可視の斬撃を、理性を持たない狂精霊が回避できるはずもなく。精霊核を真っ二つに切り裂かれて、あっという間に消滅した。

 呆気ない幕切れであった。


「うん、やっぱり一回戦えば余裕だな」


「……ボスモンスターも一撃で? 精霊核ってミスリルに匹敵するくらいの硬さよ? 一撃で壊すなんて私でも無理。まさかここまでとは思わなかった……」


 ……勇者パーティーに居た時は、色々な魔物を解体してきた。ドラゴンの死体を解体したこともある。それに比べれば狂精霊の核なんて、大した硬さじゃない。


「ソフィア、運搬用のゴーレムをお願い」


「……あっ、うん。【錬金術:ゴーレム生成】」


 ソフィアがスキルを発動すると、迷宮の地面からゴーレムが生えてきた。

 馬車の荷台のような姿で、これが自走して素材を運んでくれるらしい。


「とりあえず一個だ。この調子でサクっと狂精霊を狩っていこう」


 そう言って僕は、回収した精霊核を元通りにひっつけて・・・・・、ゴーレムの荷台の中に放り込んだ。

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