49 根源龍
「……遅かったか」
遠くに見えている龍は、明らかに今までのものとは違う雰囲気を纏っていた。
「ショータ殿、急にどうしたのかね……何だあれは……!」
「奴は執拗にプライムドラゴンの力を求めていました。そして先程までに既に四つの力をその手中に収めているのです。であれば次は極氷龍様が危ないという所まではたどり着いたのですが……どうやら遅かったようです」
「……まさか奴は根源龍を呼び出すつもりか……!?」
「根源龍……?」
国王さんからまた新たな言葉が出て来た。状況からして絶対にヤバイ奴だこれは。
「属性を司るプライムドラゴンの力を五つ結集させたときに現れると言う、世界の根源を司る龍だ。伝承でしか聞いたことは無かったが、今この状況に置いてはただの作り話と切り捨てることも出来まい」
おいおい、仮にそうだとしたらマジでヤバイ奴じゃねえか。根源を司るとか伝承に語られる存在だとか、まるでRPGとかのラスボスみたいじゃねえか……。そんな奴に勝ち目なんてあんのか……? いや、勝てる勝てないじゃねえ。勝つしかねえ。世界の根源を司るとか、どこに逃げても意味が無さそうな相手だ。もう逃げることは許されない状況になっちまった。
「ショータ様!!」
「リーシャ!?」
遠くからリーシャが駆け寄って来た。足元は汚れているし服もボロボロだ。こうなってからずっと俺の事を探し続けていたんだろう。
「リーシャ、無事だったか!?」
「は、はい……でも私たちの家が……」
リーシャを強く抱きしめ、頭を撫でた。今にも泣きそうな声だったが、少しずつ落ち着いていくのがわかった。
「大丈夫だ。生きてさえいりゃあまた建て直せばいい。それよりノアは無事か? 今はどこにいる?」
「ノアさんは前線での警備を行っています。少しでも皆の役に立ちたいと……」
「そうか。……心配かけたな。だがもう少しだけ我慢してくれ。俺はアイツを、あの根源龍を倒してくる」
「あっ……」
もう一度リーシャの頭を撫で、根源龍の方へと向き直った。
「うん? ……リーシャ?」
「いえ、その……必ず帰ってきてください! 約束です!」
「……ああ、約束だ」
リーシャはまだ何か言いたそうだったが、すぐに反対方向へと駆けて行った。避難誘導も始まっているし、ここに留まる必要も無いのだから問題は無いが……何か胸がモヤモヤする。
よし、これも全部終わってから聞いてみよう。それで全部問題無い。
「ふぅ……獣宿し『天雷』」
避難場所から影響の出ないくらいまで離れ、天雷を発動させる。今の俺が使える最大の力である天雷でどこまで通用するか。未知数だがやるしかない。
「おやおや、さっきぶりだねえ。でもこっちは初めましてかな?」
「根源龍……だろ?」
「何だ、わかっていたのか。ちょっと残念だよ。もっと驚くと思っていたからね。でも驚くのはこれからさ」
「これ以上妙なことはさせねえ」
先手必勝。隙だらけの根源龍に一撃を食らわせた。……だが。
「……」
「おいおい、嘘だろ……?」
根源龍は何のリアクションも起こさない。痛くもかゆくもないと言った印象だ。
「話している途中に攻撃するなんて、ちょっとどうなのかねえ? まあどうせその程度の攻撃、全く通らないんだけどさ」
「くっ……」
不味いな。流石にこんなに効かないのは予想外だ。もう少し可能性が見えるもんだと思っていたが、どうやらかなり分の悪い戦いを強いられているみたいだな。
「おい、そんな者と話していないでさっさとそいつを動かせ」
「あー、こっちにもロマンがわからないのがいるんだったよ」
学者にそう言ったのは隣に立っていた獣人の男だ。纏っているものはかなりボロくみすぼらしいが、放っている雰囲気には確かな圧を感じる。
「ロマンだと? そんなものはどうだっていい。何のために君を組織に招き入れたと思っているのかね」
「組織? まさかアンタは……!」
「む? そうか、君が噂のショータか。我らの計画は何度も君に邪魔されてきたが、それも今日までだ。この根源龍の力があれば我らの野望は叶う。世界を作り直し、獣人のための世界を作るという野望がね」
やはりそうだ。この男こそが龍を洗脳していた組織の親玉本人だ。他の組織の奴らと比べて明らかに覚悟が違う。目が、見据えているもんがまるで違う。
「もー、せっかくここまで来たんだからさ。少しくらい良いじゃない」
「今まで場所も機材も、実験用の材料だって用意してやったんだ。君は私の言う事だけを聞いていれば良い」
「はぁー。ま、もう良いか。どうせ私の計画は既に達成されているんだし。それにここに連れてきたのこれが目的だったしね」
「何を言っている? ま、待て何をする気だ!?」
根源龍は親玉を摘まみ上げ、口元へと持って行った。
「君は私を利用していると思っていたみたいだけど、逆さ。私が、組織を利用していたんだ」
「貴様! ふざけぐぎゃッッ」
根源龍はそのまま親玉を嚙み砕き、少し咀嚼した後に飲み込んだ。
「良かったのか。アンタの組織の親玉なんだろ?」
「別にどうでも良いさ。今までは計画のために従順なフリをしていたけど、もう根源龍を呼び出せたんだ。目的は達成されたんだよ」
やはりこの学者の目的は根源龍を呼び出すことだったのか。だが組織のためじゃ無いとしたら何のために呼び出したんだ。世界を滅ぼす気か? それともあの親玉が言っていたのと同じように世界を作り替えるためか?
「それじゃあそろそろ私も本当の姿を見せようかねえ」
「……は?」
正体を見せる? 待て、こいつは何を言っているんだ?
「驚いているみたいだねえ。もしかして私の事をただの人間と思っていたのかな? それなら嬉しいねえ。君にさらなる絶望を与えられるんだから」
「嘘……だろ?」
学者はその姿を変え始めた。根源龍と同じような禍々しい雰囲気を持つ龍の姿へと。
「はぁ……とうとうこの姿で出会えたねえ。愛しい対よ……」
対……確かにアイツは根源龍の事を対と呼んだ。
「対とはどういうことだ……!」
「ふふっ、教えてあげよう。私は深淵龍。この姿こそが私の本当の姿なのさ。どうかな? 絶望したかな?」
何が何だかわからねえ。ただでさえ根源龍だけで手に負えそうにないってのに、その対となる存在まで現れたってのか?
流石に勝てる訳が……。
「……いや」
一瞬すべてを諦めかけちまった。だが、それと同時に頭ん中にいろんな顔が浮かび上がった。国王にギルド長。極水龍に極雷龍に極氷龍。アンバーにノアに……リーシャ。
「まだ諦められねえ。世界を作り替えるなんて絶対にさせねえ……!」
「世界を作り替える? 何を言っているんだい?」
「何?」
「私は根源龍と一つになりたかっただけさ。世界を作り替える気は無いよ」
こいつは何を言っている? 世界を作り替える気は無いだって?
「……それなら戦う必要は無いってことか?」
「いいや? 私と根源龍が一つになれば世界は崩壊する。世界を守りたいのならどちらにしろ君は戦わないといけないよ。まあ、勝てるわけ無いだろうけどね」
「そうか……わかった。アンタを倒して世界を守ってやるさ……!」
勝てるかはわからない。だがそれでも俺は戦うしか無いんだ。
先程の攻撃では全くダメージにならなかった。だから一撃の重さをもっと上げないといけない。……こうなりゃ込める魔力量を上げてどうにかするしかねえ。
「フンッッ!!」
「おっと、思ったより速いねえ。それに切れ味も十分。もしかして君、久々に楽しそうな戦いが出来そうだね?」
一時的に膨大な魔力を込めて速さも攻撃力も上昇させた。どうやらこの状態ならダメージは入るようだ。だが速さの方はまだわからねえ。アイツが手を抜いているだけかもしれねえからな。何よりこれの厄介なところは……。
「あぐぁっ……」
「おやおや? もしかして既に限界を超えているのかなあ」
くっ……やはり体への負担が大きすぎる。このまま攻撃し続けたらそう遠くない内に体が駄目になっちまいそうだ。
「うーん、このまま戦っても良いんだけど……やっぱりもっと面白いことにしたいよねえ」
「はっ、これ以上何をするってんだ」
「なあに、君に出来る限りの絶望を与えようと思ってねえ。根源龍、あっちに良い餌があるよ」
「ッ!!」
深淵龍の指さした先は王国の皆が避難している場所だった。
「さあて、守りながら戦えるかなあ?」
「てめえ……!」
最悪の光景が脳をよぎる。
「思い通りには絶対にさせねえ!」
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