48 状況は悪くなる一方だ
「来い、こっちだ!」
「ウギャォォォ!!」
一度に出してくる炎の数こそ増えちゃあいるが、根本的な能力自体は変わっていないようだ。蝕命で打ち消しながらなら距離を詰められる……!
「またその不思議な力か。けど、フレイムオリジンはさらに成長をしているんだ。今までと同じように行くとは思わないことだねえ」
「うるせえ、姿も見せねえ奴がよ!」
「はっはっは! 私は意味も無く前線に出たりはしないんだよ」
学者の声はどこからともなく聞こえて来やがる。どういう方法を使っているのかはわからねえが、向きも距離も認識できないのが厄介極まりねえぜ。直接脳内に響いているって言えば良いのか……。
「ふむ、それにしても……このままだとこっちに打点が無いのもまた事実のようだねえ」
「ならどうする? 俺の前に出てきたら一騎討ちをしてやるが? 一斉に襲い掛かれば流石の俺でもキツイかもしれねえな」
「ふふっ、そんなことをしたら今まで裏で動いてきたのが無駄になってしまうじゃないか」
チッ、安い挑発には乗らねえか。
「まったく、何のために君を誘い出したと思っているんだか。せっかく天空都市で手に入れた技術も利用したんだからさあ」
「やっぱりアンタらの仕業だったか」
「何だ、もう気付いていたんだ。まあ気付いていようが無かろうが、あまり関係は無いんだけどね」
声の調子は変わらない。どうやら俺が罠に気付いていたのも既に想定済みのようだな。とは言え今こいつら以外にあんなことをしてくる輩はいないだろうからな。想定も何も最初から分かり切っていたようなもんではあるか。
それより重要なのは天空都市で手に入れた技術ってのだ。あの通信機に同じ技術が使われているのなら偽の情報を掴ませることも不可能では無いか。
「フレイムオリジンを倒したら次はアンタの番だからな。その時に色々と聞かせて貰うぜ」
「おお怖い。でもそんな簡単に勝てるとは思わないことだね」
「対処法はわかっているんだ。すぐに倒して見せるさ」
「本当にそうかな。フレイムオリジン、力の解放を許可しよう。さらなる成長を起こすんだ」
学者がそう言うと、フレイムオリジンはまたも変化し始めた。
「……どういうことだ」
姿が徐々に極雷龍のようなものへと変わっていく。美しい羽に鱗。だが極雷龍のような透き通るようなものとは違う。禍々しくも美しい……そんな印象を受ける姿へと奴は変異した。
「驚いているみたいだねえ。確かに私が培養した極雷龍は天空都市の一件で爆発し消滅した。それは君も良く知っているはずだ。だけど、極雷龍の体はまだ他にもあったんだよ。天空都市の奥底にね」
「……つまりアンタらが天空都市を襲ったのはそれが目的だと?」
「それだけじゃないんだけどね。他にも天空都市の技術力もちょこちょこっと拝借しちゃったりね」
確かに極雷龍は最初の戦いで体の大部分を失っていた。そして失った体を機械で補うための改造を行った。しかしそれだとおかしい部分が残る。極雷龍の体が必要なら培養した個体で事足りるはずだ。なのに何故天空都市に残されていた体が必要だったんだ。
「それだと培養体で良いじゃ無いかって思ってそうだから教えてあげるよ」
くっ……全部向こうの思うままって感じで癪に障るな。しかし情報は欲しい。ここは大人しく奴の説明したい欲を利用させてもらおう。
「フレイムオリジンの力にするためには相応の魔力ゲノムが必要でね。おっと、魔力ゲノムと言うのはその存在が持つ情報が刻まれている魔力のことさ。つまりは培養して薄まってしまった魔力ゲノムではフレイムオリジンの力には出来なかったのさ。正直これは想定外だったよ。だから多少強引にでも極雷龍の肉片を貰う必要があったんだ」
「なるほどな。だから極龍の魔石を飲み込んだ時はすぐに変化したってことか」
「おお、その通り。理解が速くて助かるよお」
魔力をほぼ無限に生み出せる魔石……魔力ゲノムの存在から考えればその魔石だけでも十分に力を手に入れられるだろう。ただ、奴の説明が全て事実である確証は無いのが気になるところだな。嘘を混ぜ込まれていたとしても今の俺には判断する術が無い。ただ今現在の状況と辻褄は合うんだよな。
「後はそうだね。通信機についても種明かししちゃおうか」
「随分太っ腹じゃないか」
「教えるだけならタダだしねえ。それに前にも言っただろうけど、私は色々と喋っちゃう癖があるからさあ。それで通信機のことだったね。あれは初めて見た時びっくりしたよ。何しろ魔力パスを世界の裏側に通しているんだから」
「世界の裏側だって?」
何だこいつ、今まではまだ納得出来たがここに来て急にオカルトか? いや、それを言ったら魔力とか魔法も十分オカルトか。少なくとも地球じゃ獣宿し以外のそういったもんは見たことも聞いたことも無かった。
「いやあ考えたよね。世界の裏側を通すことで邪魔されず干渉もされず安全に通信できるんだから。でも、それはあくまで天空都市だけがその技術を持っているから出来ること。根源へと触れた私たちはそれよりもさらに高い魔力操作が出来るんだ。あとは天空都市の技術と私たちの導き出した世界の裏側での魔力操作を使えば内容を書き換えることだって出来ちゃう」
「良くはわからねえが、アンタらに渡っちゃいけないもんだったってのはわかるぜ。そのせいでこの大惨事が起こっちまったってこともな」
世界の裏側を通した通信。確かにその技術を天空都市だけが持っているのならハチャメチャに便利だろう。ただ、世界の裏側と奴らの言っている世界の根源ってのが互いにそう遠くない概念だってのが今回問題になったってことだ。そのせいで奴らに虚偽の情報をつかまされちまった。
「チッ、俺たちは最初からアンタらの手平の上だったってことかよ」
「だいたいはその通りだねえ。もちろん想定外なことはあったけどさ。それでも私の計画は滞りなく進んでいる。……そしてそろそろ私の計画も終盤になる」
「はっ、生憎だがこれ以上好きにさせる気はねえ」
極雷龍の力を手に入れようが俺だって極雷龍の力を持っているんだ。速さで負ける訳には行かねえ。
「確かにそうだろうね。だから今の目標は君じゃないんだ」
「何だと?」
「ぅっぐぁぁっぁ!?」
「ッ! しまった、目的はそっちか!」
フレイムオリジンは瞬く間に姿を消し、次の瞬間には極水龍を咥えていた。
「極水龍殿!!」
「ショータ殿……すまない」
極水龍を助け出そうとフレイムオリジンの元へ飛んだが間に合わなかった。彼を飲み込んだフレイムオリジンはまたも体を変質させていく。極水龍の特徴的な流線形のフォルムがフレイムオリジンにも表れ始めた。
「戻ってこい、フレイムオリジン」
「ま、待ちやがれ……くっ」
学者の合図と共にフレイムオリジンは姿を消した。天雷の力を持ってしても、奴が動き始めた瞬間に微かにしか見えなかった。……それもそうか。最上位種の力を四つも取り込んだんだ。能力が今までとは段違いになっていてもおかしくは無い。
それより何故この状況でアイツは撤退したんだ。それだけの力があれば俺を倒して避難民を全滅させるくらい容易く出来るはず。また罠か……だが魔力探知をしても完全に反応が消えている。奴らはもうこの近くにはいない。
……嫌な予感は消えないが、ひとまず皆が避難しているところに行こう。
魔力探知を頼りに避難した人たちを探していると、簡易的な建物が複数建っているのが見て取れた。恐らくあれだろう。
リーシャに早く会いたいが……今は国王さんのとこに行った方が良いか。奴らが撤退したとはいえ、またいつ仕掛けてくるのかはわからねえ。最低限の情報共有はしておきたい。
「ショータ殿……!」
「すみません、遅くなってしまいました」
「謝るのはこちらの方だ。ショータ殿のいない間、国を守ると約束したのにこのザマだ。それより極水龍様のお姿が……そう言う事か」
国王さんは俺の表情から極水龍についてのことは察したようだ。とは言え一応言葉でも説明しておいた。俺の説明を聞いてもそれほど動揺はしていなかった辺り、流石は健康の英雄の一人と言ったところか。経験の積み重ねもあるし、何度も修羅場を潜り抜けていたりするんだろう。
「これは、考えられる中でも最悪の状況になってしまったのかもしれないな。水龍様までもが向こう側に持っていかれてしまったとなると、いよいよこちらの戦力に限界が……。しかし、これほどの好機に何故奴らは撤退をしたのか」
「それは俺も気になっています。こちらの戦力はもうまともに残っていないのは奴らもわかっているはずです」
わざわざこのタイミングで撤退した理由……駄目だ考えてもわからねえ。圧倒的に有利な状況を捨ててでもやりたいことがあるってことだよな。最上位種の力を四つも手に入れて今更何を……待て、既に奴は極炎龍、極水龍、極雷龍、そして極龍の力を手に入れている。それにあの学者は多少無理をしてでも極雷龍の力を手に入れようとしていた。もし奴の目的が四属性全てのプライムドラゴンの力を吸収することだとしたら……!
「不味い、次は彼女が狙われている!」
無我夢中で建物を出た時だった。
「何だ……あれは……」
遙か遠くに禍々しいオーラを纏った龍がそびえ立っていた。
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