23 騎士団の実状
「ん……あれ、私……」
「起きたか?」
気絶していたアンバーの目が覚めたようだ。
「ここは……」
「俺が泊っている部屋だ。そのまま寮に運び込むのは流石に不味いと思ってな」
アンバーは俺が魔力で編んだ上着一枚の状態だ。部屋に運び込むときに宿屋のおかみさんに変な目で見られちまったが、ここまで極力人気の少ない道を通って来たから他の人には見られてないはず。きっと大丈夫なはずだ。……いや、ある意味一番大丈夫じゃない人に見られたのかもしれねえが。
「もしかして……私、女性の方と初めてを……?」
「……うん?」
不味いな。何か致命的な勘違いを起こしている気がするぞ。
「男の方とも関係を持ったことが無いのに……お、女の方と一夜を明かしてしまうなんて……!」
「ま、待て! 勘違いだ! 俺は何もしていないし、そう言う関係でも無いだろう!?」
「だが、このような格好で二人が同じ部屋に居たら……うぅ、騎士ともあろうものがこのような……」
不味い不味い、本気で泣き出しそうな雰囲気だ。このまま彼女の泣き声が外に漏れだしたら変な噂が立ちかねない。
「頼むから落ち着いてくれ。アンバーには何もしていない。ここまで運んで寝かせただけだ」
「……そ、そうなのか?」
「ああ」
俺の言葉を聞き、ひとまずは落ち着きを取り戻してくれたようだ。危なかった。強敵と戦うよりも心臓が興奮状態になっていやがるぜ。
「勝手に勘違いをしてすまなかった。それと、助けてくれてありがとう。ぜひお礼をさせて欲しい」
「いやそこまでしなくても……」
「いいや、騎士としてこれは譲れないんだ」
アンバーの目は覚悟がガン決まっていた。騎士というものに、そして騎士である自分に誇りを持っている。そんな目だ。
「……わかった」
「そうか! それなら早速」
「でもその前に、まずは服を着てくれ」
「服……っ!」
アンバーは言葉を詰まらせた。上着一枚と言う今の自分の姿を改めて意識したんだろう。正直俺も目のやりどころに困るからさっさと服を着て欲しい。とは言え魔力で編んだ服をベッドの近くに置いていただけだからな。それについて言っていなかった俺にも問題があったか。
「見苦しいものを見せてしまったな……本当に何から何まですまない」
「うぉっ」
彼女が着替え始めたため、部屋の外に出た。アンバーは俺の事を女性だと思っているようだが、中身はバチバチの男性だからな。流石に着替えている姿を見るわけにも行かない。
「どうしたんだ?」
「いや、裸を見られるのは嫌かと思ってな」
「別に女性同士なら問題は無いだろう。それに私の恥ずかしい姿を君は既に見ているだろう?」
「それは……」
恥ずかしい姿……脳内に昨日の彼女の姿が浮かび上がる。一糸まとわぬ裸体。まじまじと見たわけでは無かったが、それでも俺にはインパクトが強かった。
「あれほど一方的にやられてしまっては騎士としてあまりにも恥ずかしすぎる……。せめて一矢報いてやりたかった」
そっちの話なのか。裸を見られたとか慰み者にされたとかそう言う話では無いと。そうか。そうだよな。騎士として生きてきたアンバーは騎士としての自分を誇りに思っていたんだ。それはさっきの彼女の目からもわかる。だからこそ、騎士として一方的に蹂躙されたのが許せなかったんだな。
それはそれとして、俺に女性の裸に対する免疫が無いのは変わらねえから結局外に出るしか道は無い訳だが。
「着替え終わったぞ」
「そうか。じゃあ入るぞ」
部屋の中に入ってまず一番に目に入って来たのが、アンバーのピチピチに張ったシャツだった。
……サイズの差か。
魔力で編んだ服はその全てが今の俺の体形に合わせて生み出される。となると少し問題があった。俺と彼女の体形に致命的な差が存在するという事だ。自分で言うのもあれだが、女になっている俺の体は正直それなりのものを持っている。正確にはわからないがD……いやEくらいあるか?
しかし、アンバーはそれどころでは無い。俺よりもさらに一回り程大きい。きっとああいうのをダイナマイトボディと言うのだろう。良く見れば太ももも尻も肉付きが凄まじい。それでいてくびれがしっかりあるというのも恐ろしい話だ。鎧を身に付けている時は隠れていて気にならなかったが、纏っているものが布一枚となるとその破壊力が半端じゃないことになる。
「貰っておいてこういうのもあれだが、サイズが……」
「見ればわかる」
クソッ……男である俺にはどうだっていいはずなのに、この圧倒的な格差がどうにも腹立たしく思えてくるぞ。やはり精神が体に引っ張られているのか……?
感覚で言えばゴリゴリバッキバキのマッチョマンと自分の体を見比べた時みたいな落胆と同じようなものを感じる……。これは俺が俺の体を女性のものとして認識しているということに他ならない。さっさと元の体に戻らないと取り返しのつかないことになるかもしれねえ……。
「……ひとまずアンバーの寮に行こうか。そのままだと色々と不味い」
「そ、そうだな……」
こうして微妙な空気のまま俺たちはアンバーの寮まで向かった。このピッチピチのままのアンバーを連れて歩くのは流石にこう色々と良くない気がするんだ。とにかく彼女には着替えてもらって、それから考えよう。
数分後、アンバーはかなりボロい鎧を着て出てきた。とは言えインナーは適したサイズの様でもう大丈夫そうだ。しかしそうなると気になるのはボロい鎧の方だ。今まで使っていたのを失ったのは彼女の過失ではあるが、そこは騎士団の方でスペアとか用意してあるもんじゃないのかね。あのボロさだとしばらく使ってないだろうし強度面にもかなり問題があるんじゃねえかな。
「その鎧、随分とボロいが大丈夫なのか?」
「大丈夫かと言われるとかなり怪しいが、これしか無いのでな」
「それしか無い?」
いやいやそんなわけないだろ。今使っている装備が使えなくなったらスペアはこのボロって……戦う気あるのか?
「この街の騎士団には金が無いんだ。天空都市への船が訪れなくなりこの街に訪れる人も少なくなってしまった。そしてその影響で街全体の金の周りがおかしくなってしまったんだ。少しでも節約をするためなのか、ある時街のお偉いさんが騎士団を民営化してしまってな。今では護衛や魔物退治などの冒険者のような依頼を受けて活動資金を集めている。幸い能力の高い者が多く所属しているからそれでも何とかなっていたんだ。しかしそれでも街の治安はどんどん酷くなるばかりだった。外から人を集めたい街の有力者は治安維持のために騎士団に無理難題を押し付けている。だが物資も人員も限界が近い。今回のようなことが増えれば、間違いなくこの街は最悪の道を辿ることになるのだろう」
なるほど。だからアンバーは図書館が無料であることをあそこまで強調していたのか。というか防衛費を削るとかこの街とんでもない所だな。別の国や魔物の群れにでも攻め込まれたらどうするつもりなんだ。
「それでお礼の事なのだが、あまり金は無いがそれでも精一杯のものを……」
「いややっぱりいいって。というかその恰好で出てこられて今の話されたらもう受け取れないんだが!?」
「でも私の騎士道精神が……」
「頼む! もうこっちから頼むから!」
こんな話の後に何をどういう気持ちで受け取れと言うんだ……!
「そ、そうか……なら……か、体で……」
「待ってくれ」
「私のような女では満足できないかもしれないが……いや、そもそも女性同士だから駄目か?」
「待ってくれ頼む。とにかく一旦待って。本当に」
騎士団寮の目の前で話していい内容では無い。気のせいかもしれないが寮内からの視線と言うか殺気と言うかそういったものを感じる。下手なことはしない方が良いだろう。いや、俺がしなくても彼女が勝手に暴走する可能性がある。とにかくこの場を離れた方が良さそうだ。
結局その後もアンバーのごり押しは凄く、最終的にカフェで奢ってもらうことで落ち着いた。昨日のこともあり、何だかんだで良い落としどころだったと思う。
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