22 恨みの矛先
「はっ……!」
ここはどこだ……? 確か男に拘束されて……。
「ようやくお目覚めの様だな」
「貴様、何者だ」
目の前には全身をローブで覆った怪しさ全開の何者かが立っていた。声からして男だろうか。その近くには私を拘束してここまで連れて来たであろう男も立っていた。
「何者……ねえ。しいて言うなら、君の嫌っている悪者ってやつかな」
「……私を攫った目的はなんだ。生憎とこの街の騎士団には身代金を払えるだけの財力は無いぞ」
「金はいらねえさ。俺たちの目的は君自身だよ。正義感の強い君は俺たちにとって邪魔でしか無いんだ。恨みも凄い溜まってるんだよね。だから……」
「な、何をするつもりだ!」
男は私の前にしゃがむと、私の顎を持ち上げた。正体を確かめようとそのままローブの中を見るが、その中は真っ暗で気を抜くと奥まで吸い込まれてしまいそうだった。
「俺たちの気が済むまで肉人形になってもらおうかね」
「なんだと……? そ、そんな事させるか……!」
「抵抗しても良いけど、その状態じゃ何もできないと思うよ」
「何? ……な、なんだこれはっ!?」
男が下を指差したため、その先を確認する。すると私の裸体が視界に入って来た。どうやら気を失っている間に下着姿にされてしまったようだ。
「このようなことをして、ただで済むと思うな……!」
「武器も防具も無い丸腰の女に俺たちが負けるとは思えないけどね」
「ぐっ……」
「さて、それじゃあそろそろ始めようかね」
そう言うと男は私のお腹に触れた。
「流石は騎士だ。腹筋が見事に鍛え上げられているな。けど……オラァッ!!」
「ぐぁっ!?」
一切の躊躇いのない腹パンが私の下腹部を襲う。
「生身なんて所詮こんなもんだよな……おらもっと鳴けよ! こんなもんじゃ済まさねえぞコラ!」
「ぐっ……あぐぁっ……」
男の腹パンの威力は凄まじく、間違いなく今まで受けた中で一番強い。それに執拗に下腹部を狙って来るせいで、一点に衝撃が集約されてしまっている。このまま受け続ければ間違いなく後遺症が残ってしまうだろう。
「このままじゃ子も産めなくなっちまうな。まあここで死ぬんだから関係無いか」
「ふぅ……ふぅ……」
「もう限界か? だが俺たちの恨みはこんなもんじゃねえからな。こんなのまだまだ序の口だぜ?」
あまりに強すぎる衝撃でまた意識が飛びそうだ。……いっそのこと飛んでくれた方が楽になれるかもしれない。
「それじゃあここからは痛みじゃなくて、別方面で発散させてもらおうか」
「……」
「もはや抵抗する気力も無いか。それなら好きにさせてもらおう」
「後で俺たちにもヤらせてくださいよ~」
「わかってるさ。俺は独り占めはしないからな」
痛みで体が痺れて上手く動かない。抵抗することも出来ずに下着すらも外されてしまった。もはや私の体を守る物は何一つない。
「結構良い体してるじゃないか。殺してしまうにはもったいないが、生かしておいても厄介極まりないからね。恨むなら自分の性格を恨んでくれ」
お願い……誰か、助け……。
「うぉぁっ!?」
私の願いが届いたのか、何者かが天井を破壊して建物内へと入って来た。
「な、何者だ!!」
「おっと、もしかして取り込み中だったか?」
「ショータ……?」
その者は昨日出会ったばかりの女性、ショータだった。
「アンバーさんですか? そういえば昨日巡回に行ってから帰って無いですね」
「そうなんですか? ……今までにも似たようなことってありましたか?」
「ほとんど無いですね。かなり真面目で夜遊びとかもしないので、巡回や任務以外で寮に戻ってこないことは全くと言って良い程無いです。それに夜間任務でも翌朝には必ず寮に戻っているので他の皆も不思議に思っているんですよ」
「そうですか。ありがとうございました」
図書館以外の施設でおすすめとかあったら聞きたかったんだけど、今はいないみたいだな。ただ彼の話を聞く限り、かなり引っかかるものがあるな。もしかしたらなんか厄介ごとに巻きこまれているんじゃ……。
とりあえず魔力探知してみっか。……お、あったあった。でもなんでこんな街の外れに……一応向かってみよう。なんも無ければそれはそれで良いしな。
アンバーの反応があったのは街はずれの古びた建物の中だった。古びたって言っても中に人がいるのは探知でわかってたから強度も十分あると思うじゃん。無かったんだよ。
「うぉぁっ!?」
建物の上に飛び乗った瞬間、天井が崩れて中へと落ちちまった。完全に想定外だ。
「な、何者だ!!」
「おっと、もしかして取り込み中だったか?」
よくわからない男がそう叫ぶ。もしかしたらなんか重要なことをやっていたのかもしれない。
「ショータ……?」
そう考えていた時、後ろからアンバーの声が聞こえた。こうなっちまった以上、聞きたいこと聞いてさっさと退室するに限る。
「ちょっと聞きたいことがあってな……ってなんだその恰好!?」
しかしこれまた想定外のことが起きた。彼女は何故か裸だった。そういうプレイかもしれないと思ったが、あれだけ真面目であることが周りに知られているのにそういうことをするもんかね……。でも裏ではエグイ性癖を持っているってのは何もおかしい話じゃない。ここは見なかったフリをするしかないな。決して俺の動揺を隠すためじゃない。彼女のためだ。
「色々とあってな……だが、君は逃げた方が良い。私なら大丈夫だ……ぅぐっ」
「大丈夫じゃ無さそうだが……? それにその傷……ちょいと良くねえことに巻き込まれた臭いが」
アンバーの様子がおかしいため、反らしていた目線を再び彼女に寄せた。よく見れば彼女の腹には青あざが出来ている。明らかにただの怪我では無い。人為的に作られたものだ。それに彼女は逃げた方が良いと言った。つまり今ここにいる存在は彼女と敵対するということに他ならない。
「なるほどな。厄介ごとに巻き込まれていたってことか。なら話は早いな。とりあえずこれでも着ていてくれ」
このままでいられても目のやりどころに困るからとりあえず魔力で上着を編み込んで彼女に被せた。
「駄目だ……ヤツらの目的は私なんだ……私のために君を危険な目に遭わせるわけには……」
「気にしないで良いって。こんなヤツらには負けないからよ」
「おーう、いきなり現れて随分な物言いじゃねえかよぉ。でもよく見たら君も中々良い女じゃん? 殺しちゃう騎士ちゃんの代わりにこれから君を使わせてもらおうかね」
「待て! その者に近づいてはいけない!」
ローブの男がそう言うよりも速く、俺は飛び掛かって来た男を斬り裂いた。
「……遅かったか」
「アンタは俺のヤバさに気付いていたのか」
「まあね。君から放出されている魔力は明らかに異常だ。かなり腕の立つ魔術師でさえ辿り着くことは出来ない……それほどの量が君の内側からは感じられる」
なるほど。こいつからは良い情報が聞き出せそうだ。
「でも今ここで戦うわけには行かない。俺はまだ死んではならないんだ」
「そうか、まあ逃がさないけどな。……いや逃がしちまったわ」
一瞬、何が起こったかわからなかった。確かにヤツの首元に一撃入れたと思ったが、気付いたら通り過ぎていた。図書館で見た本の通りならこれは幻術の類っぽいな。あのクソ学者と言い、こうも連続で重要そうな人物を取り逃すのはこう……ストレスがとんでもないことになる。禿げるかもしれない。
「ショータ……今のはいったい……」
っとそうだった。今は彼女を保護しないと。
「とりあえず敵の親玉は逃げたみたいだ。恐らくここにいる取り巻きも霧散するだろうよ」
「そうか……君が無事で何より……だ……」
安心したのか眠ってしまった。この状況でも俺の心配をしてくれるとは根っからの善人だよアンタは。しかしどうすっかな。このまま寮に連れ帰ったら絶対良くない噂が流れるだろう。裸のアンバーとそれを抱えて戻った俺。どう考えても彼女の今後に影響が出る。
……仕方が無い、とりあえず宿に連れて帰るとするか。
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