21 乗船都市
「天空都市か? そうだな。話すと長くなるんだが……」
騎士さんは俺の質問に嫌な顔することなく答えてくれた。本当に根っからのお人好しと言うか良い人なんだと思う。
聞いたところ、天空都市に行くには定期的にこの辺りに訪れる飛行船に乗らないといけないようだ。それ以外の方法で近づこうとしてもバリアによって弾かれてしまうらしい。俺は結構な火力を出せる自信があるが、それを持ってしても無理だったしな。それだけ守りたいもんがあるってのかねえ。
またその飛行船も今までに比べて訪れる頻度が減っているらしい。前に来たのは数か月前だったとか。それまでは週に一回は来ていたらしいから、正直かなり怪しいところだ。極雷龍の件と何かしら関係がありそうではある。
とは言えその飛行船とやらが来ないんじゃどうしようもねえしな……。
「おい、久しぶりに天空都市行きの飛行船が来たってよ!」
「マジかよ! こうしちゃいられねえ準備しねえと!!」
カフェに突然人が入って来たかと思えば、そいつは偶然にも今の俺にとって滅茶苦茶に嬉しい情報を叫んだ。ちなみにここはオシャレなカフェだ。騎士さんが酒場は良くねえって言うからな。とりあえず話が出来そうなここに入った。つまりは仕方なくだ。決して体がスイーツを求めたからとかじゃねえ。
にしてもグッドタイミングと言うか何と言うか。ここまで都合よく進むと逆に怖くなってくるな。だが都市に行けるんならこの機会を逃すつもりはねえ。
二人分のコーヒーと菓子代を置き、さっさと席を立った。
「なんだか多くは無いか?」
「時間を取らせてしまったしな。色々と情報ももらったし、ここは俺に出させてくれ」
「だが……いやわかった。その厚意、受け取らせてもらおう」
騎士さんと別れた後、街の中心にある広場へ向かった。そこには謎の技術としか言いようのない、不思議な雰囲気を纏った飛行船と思われるものが浮いていた。
機械っぽくはあるが俺の知っている機械……いわゆる現代の技術とは何かが違う。そんな異質なそれの下で一人の女性が手続きらしきものを行っている。恐らく飛行船の乗船券を売っているんだろうな。券がいくらなのかはわからないが、買っている人を見る限りそこまで馬鹿高い訳では無さそうだぜ。
列に並んでから数分が経ち、俺の番になった。どうやら片道と往復があるらしい。行ったっきりで向こうに住む予定の人もいるのだろう。まあとりあえず往復で良いな。ちゃっちゃと解決して帰りたいし。
値段はそれなりだったが、ドラゴンロード討伐時の報酬も残っているし特に痛手では無い。この分なら向こうでしばらく滞在することになっても事足りるだろう。
「出発は二日後の昼になりますので、それまでにこの広場にいらしてください」
二日後か。そうだよな。飛行船が訪れたっていう情報を聞いてから準備をし始める人もいるだろうし、来てすぐに出発って訳にも行かないんだろうな。だがそうなるとこの街に滞在しないといけないのか。その間何をしよう。そう考えると極水龍との闘いの日々は割と暇つぶしには適していたんだな。必要になってから初めて気づく大切さってやつか。
よし、ひとまず宿を取ろう。他の事はそれから考えよう。
とりあえず広場からそう遠くない所にある宿に泊まることにした。食事付きなのも嬉しい所だ。こちとら最近携帯食料とか保存食ばかりだったからな。まともな食事が食べられるってだけで嬉しいもんだぜまったく。
にしてもやることが無いってのは退屈だ。下手に冒険者として依頼を受けて出発に間に合わなくなっても嫌だしな。退屈が一番厄介だ。スマホが恋しい。……そうだ。図書館とか無いか探してみるか。まだまだ知らないことだらけだし、色々と情報が欲しい。
そうして図書館探しのついでに街の中を探索したんだが、するとまあ色々とわかったぜ。まずこの街についてだ。天空都市へ行くための飛行船が訪れるというだけあって、外から訪れる人が金を落としていくこの街はそれなりに栄えている。図書館が無料開放されていたり、そこかしこに噴水のある広場的なものがあるのもそれによる恩恵なんだろう。
だがそれが逆に働いてしまっている側面もある。この街に来て最初に入った酒場での一件のように、外から来る人は善人だけでは無いようだ。力のある冒険者がこの街に訪れて好き放題やっているみたいだな。それに人を多く入れようという意識が先行し過ぎていて、街に入る時の門の警備や検査がザルだ。とにかく人を招きたい余り、とりあえず入る人は拒まずというスタイルになってしまったのだろう。そのせいで一部のエリアでは治安の悪化が激しくなっている。
まあそんなの俺には関係ないけどな。長居するつもりは無いし、この街とは飛行船が出発するまでの一日とちょっとだけの関係だ。とりあえず目当てだった図書館へ向かうとするか。
図書館に入ると、あの騎士さんがいた。
「君はさっきの……飛行船の乗船券は買えたかい?」
「ええ。二日後に出発のようなんで、それまでこの街で過ごそうかなと」
「そうか。それならこの図書館は良いぞ。多種多様な本が揃っている上に利用は無料だからな」
本をこれだけ用意したうえに利用は無料って、周りの文明力からすると結構な太っ腹だよな。まあその分悪い面も多いみたいだが。
「ところで、あなたは何故図書館に?」
「私か。今は昼休憩中なのでな。いつも通り図書館でゆっくりと本を読んでいたんだ。そう言う君も図書館に来たってことは何かの本を読みに来たのかな?」
「特に決まってはいないけど、暇つぶしもかねて色々と情報収集をしようと思ってね」
「なるほど。教養を深めるには良いことだからな。好きなだけ読むと良い。何せ無料だからね。さて、私はそろそろ行くけど、また何か聞きたいことが有ったら私のところに来てくれ」
そういって紙を手渡して来た。アンバーってのは彼女の名前だろうか。あ、そう言えば名乗って無かったわ。
「色々あって名乗って無かったな。俺は翔太だ」
「そう言えばそうだったか。私はそこにも書かれている通り、騎士団所属のアンバーと言う。私に用があればそこに書かれている騎士団寮にまで来てくれ。では」
彼女は隣に積んでいた本を棚に戻し、図書館から出て行った。……結構な量があった気がしたがあれを昼休憩中に読み切ったのか。すげえな。
その後、俺は時間の許す限り本を読み漁った。主に地理や魔物、生物に関しての本だ。獣王国の時みたいに魔族化によって別の魔物の特徴が出てきた時に何もわからないってのは避けたいしな。そんでわかったこともある。やっぱりと言うかもうほぼ確信はしていたが、ここは俺の居た世界とは別世界っぽいな。淵源の理を倒した時のあのワームホールに飲み込まれて転移しちまったってわけだ。いやまあ……これだけ変な生物とか魔法とか出てきたらもう異世界としか考えられないけども。
それとこの街が乗船都市と呼ばれていることもわかった。言わずもがな、天空都市への飛行船が訪れるのが理由だろう。
また少し気になる情報も得られた。その本には獣人の迫害の歴史が書かれていた。昔から獣人の扱いは酷く、一方的に労働力や性奴隷にされていたようだ。されていたって言っても、最初に訪れた街の感じだと今も一部では続いているっぽいが。だがタシーユ王国や獣王国のように獣人の権利を保護する国家も増え始め、今では差別こそ残れど公の場での一方的な権利の剥奪は無くなったようだ。
ただ、あくまで公の場でというだけだ。裏では誘拐なども横行し、まだまだ完全に獣人の権利が保障されたとは言えない。それにそこら辺の情報はリーシャからも聞いていたから知っている。ただ、それに関する獣人の過激派組織が存在するというのが気になるところだ。一時期、権利を主張し世界への憎悪をまき散らす武力集団が現れたらしい。思い返せば村に現れた奴も獣人だった。野望とかなんとか言っていたし、もしかしたらその武力集団の一部がまだ残っていて今も活動しているのかもしれない。
とは言えまだ憶測の域を出ないし、今はとりあえず天空都市に行って情報を集めるのが先決だろうな。
「確かこの辺りのはずだが……」
不審な者が度々目撃されたということで、私はこの裏路地の巡回を任されていた。
それにしても最近は特に治安が悪くなった気がする。これも飛行船が訪れなくなって街に訪れる人が少なくなったせいだろうか。とは言え、騎士である私たちにはどうしようもない。今はひたすらに街の安全のために活動するのみだ。
「おーう、アンタが噂の騎士ちゃんってのか」
「何者だ!」
「正義感の強い騎士ちゃんが現れて、俺たち最近困っちゃってるのよ」
くっ、闇に紛れていて姿が見えない……!
「俺たちみたいなもんはこの街に不要だって、そう言いたいんだろう?」
「そ、その通りだ! 街の治安維持を維持するため、悪事を働く輩は誰一人逃すつもりは無い!」
「おーう怖い怖い。でも、そうやって言ってられんのも今の内だよ」
「んなっ!?」
いつの間に後ろに!?
それにこの男、的確に私の関節を……!
「くっ放せ!」
「あんまり暴れると骨折れちゃうかもしれないからさ。もっと大人しくしてくれないかな? 出来るだけ傷つけずにつれて来いって言う命令なのよ」
「何だと?」
「おっとこれ以上は言っちゃうとまずいんだった。ま、とりあえず言う事聞いて頂戴ね?」
「あぐぁっ」
だ、駄目だ……意識が……。
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