24 いざ天空都市へ
天空都市への飛行船の出発時刻になった。あれから何事も無かったし、無事に時間通り出発するようで何よりだ。
アンバーを襲っていた奴らが何かやらかすかもしれないと思っていたが、杞憂だったみたいだな。一応何かしらの情報を得られないかと昨日アンバーと別れた後探ってみたが、残念ながら特に目立った情報は得られなかった。既にこの街からは出ていったんだろう。動きの速い奴らだ。
あとはまあ……騎士団や街の財政については俺にはどうしょうもないからな。せめて天空都市からの飛行船が訪れなくなった理由くらいは探ってみよう。
とにかく優先するべきは龍種洗脳の件だ。これを解決しない限りはどこで何が起こるかわからない。どうも奴らはそれなりに大きい規模の組織みたいだからな。
「揺れますのでお気を付けください」
飛行船は時間通りに出発し、空へと飛び立った。言葉の通り船内は少し揺れている。とは言えこれくらいなら俺の体幹の前にはなんの問題もない。
しばらくすると船は雲の中に入っていった。ここら辺りは確かバリアがあった辺りのはずだ。どういう原理でバリアを通り抜けているのかが気になるところだが、飛行船の見た目がそもそもとんでもテクノロジーだったからな。説明されても理解できる気がしねえ。
それからまたしばらくして、遠くに何やら構造物が見えてきた。金属のような材質の建物が数多く建っている。明らかに地上に比べて文明レベルが高い。いやそれもそうか。こんな飛行船を作るような奴らだ。そもそも天空に浮いている都市だ。文明レベル高えに決まってるだろ。
そんなこんなで天空都市へとやってきたわけだが、とりあえずは中心地にでも行けばいいか。獣王国の時みたいに変なことが起こらなきゃ良いが。
ということで都市の中心にある宮殿のようなとにかくクソでかい建物にやってきた。見た目は金属で出来た宮殿といった印象だ。だがとにかくでけえ。でかすぎる。これ作ったやつ頭おかしいよ多分。
「此処から先、民間人の立ち入りは出来ません」
「やっぱそっすよね。その通りだと思います」
まあそうだよな。いきなり部外者が重要施設に入ろうとしたらそうなるわ。
さてどうするか。とりあえず極水龍の知り合いってことで行けるだろうか。とその前に極雷龍がここにいるのかを聞いておくか。
「プライムサンダードラゴンがこの国にいるって聞いたんですが本当ですかね?」
「申し訳ありませんが、それについて私から答えることは出来ません」
うーむ、駄目か。部外者に機密情報は話せないよな。さーてどうすっか。
「プライムアクアドラゴンがここにいるって言っていたんですが」
「なに?」
極水龍のことを仄めかしたらちょっと動揺が見えたな。最上位種の関係者であることを仄めかすなんて、とんでもねえヤベー奴かガチの重要人物かの二択だもんな。動揺もするさ。
「少しお待ち下さい」
衛兵は建物の中へ入っていった。上の立場の者に確認を取りに行ったんだろうか。出来れば重要人物として扱って欲しいが、確率で言ったらヤベー奴の方が高いだろうなぁ……。
数分後、衛兵は一切の表情を変えずに戻ってきた。
「付いてきてください」
中に入れてくれるみたいだ。あれで信用してくれたのかね。それはそれで警備がヘボクソというか警戒が薄いというか。
そうしてしばらく歩いた後に、小さめの部屋の中に案内された。
「担当の者を呼んでまいります。ここでお待ち下さい」
またもや衛兵はこの場を離れた。とりあえずは進展したということで喜んで良さそうだ。
喜びもつかの間、今度は衛兵がいなくなってすぐ別の人がやってきた。
「水龍様と関わりを持っているというのは貴方ですね?」
「はい。事情があって本人に変わって俺が来ました」
「ふむ。しかし最上位種であるプライムドラゴンと獣人である貴方がどのようにして知り合ったのでしょうか」
まあそう思うのも無理はない。俺だって逆の立場だったら疑うし信じないだろうしな。
「タシーユ王国で色々とありましてね。その時に知り合ったんです」
「そうですか。確かにあの王国は水龍様と密接な関係がありますが……」
何やら考え込んでいる。こうなるんだったら極水龍からなんかしら証明できるようなもんでも貰っておけば良かったぜ。
「それだけでは信用するには不十分ですね」
ですよねー。
「詳しくは言えませんが、この国は今大事な使命を果たさねばならない状態なのです。ですので貴方のような存在は野放しには出来ません」
おっと雲行きが怪しくなってきたぞ?
「ただのお遊びでこのようなことをしたのであれば、これは少し高い勉強代だと思いなさい」
目の前の男は魔法陣を展開し詠唱を始めた。込められている魔力量的に俺を殺す気は無いようだ。何より殺意が無い。恐らく動けないくらいに怪我をさせて国外追放とかかね。
だがここで引くわけには行かねえんだこれが。
「悪く思わないでください。……ライトニングボルト!」
魔法陣を中心に稲妻が走り、数秒の後に俺に目掛けて放たれた。だがそれは俺の身を焼くこと無く霧散した。
「一体何が……」
獣宿し『蝕命』はやっぱり便利だ。これがありゃ魔法は完全に無効化出来る。
魔法が消えたことに困惑していた男は、落ち着きを取り戻してから再び詠唱を開始した。どうやら俺がやったとは思っていないようだ。だが何度やっても結果は変わらない。放たれた魔法は蝕命によって俺に届くことなく消し去られていく。
「やはりおかしい……何故魔法が消えてしまうのだ」
「その現象を俺が起こしてるって言ったら少しは信用してくれます?」
「……何だと? だとしても貴方を信じることは出来ません。いえむしろ厄介な存在として、より危険な存在として扱わなければなら無くなります」
おっと軽率だったか。だがまだ……!
「この能力を使って冒険者として実績を積んでいるんです。タシーユ王国付近に現れたドラゴンロードを倒した冒険者として、王国のギルドでは結構信頼を置かれていましてね」
嘘は言っていない。ドラゴンロードを倒したときにこの力は使ってないし冒険者ランクもBだけど、王国で信頼を置かれていたり実績があるのは間違っちゃいねえからな。
「タシーユ王国で信頼を……。ですがそれ自体が真実だと証明は出来ません」
「そうだ、ギルドで確認って出来ませんか? 倒した魔物が記録されているはずですし」
よし、迷っている。あとはそれっぽく誘導してやれば良さそうだ。
「そうですね。そこまで言うのであれば確認しましょう。偽装は簡単ではありませんから、確認すれば全てわかることです」
よし来た。実績を見せればそれなりに発言に信憑性が出るだろ。ただのお遊びで極水龍の知り合いを騙るなんていう暴挙、きちんと経歴のあるやつはしない。それが伝わってくれれば少しはマシな状況になるはず。
「ではギルドへ向かいましょう」
この国の道は全然わからんから妙なことはせずに大人しく男に付いていく。宮殿を出て大通りに出ると、すぐそばにギルドはあった。
これはどっちだ。やばい輩が大量だから監視しやすい所に置いておきたいってことなのか、宮殿を守るための武力を近くに置いておきたいだけってことなのか。正直どちらでも良いが、すんなり事を進めるんなら圧倒的に後者の方が良いな。
俺のささやかな願いは叶ったようだ。そこそこ治安の良いタシーユ王国でさえあんな事になった冒険者ギルドだが、ここはそれとは確実に違う。何というか全体的にしっかりしている。
今まで訪れたギルドは、実力さえあればどうにかなるだろっていう雰囲気の冒険者が多かった。だがここにいる冒険者は何というか知性を感じるぞ。むしろ何故冒険者をしているって感じだ。
「その様子だとここに来るのは初めてなのですね。ここ天空都市の冒険者ギルドはランクがC以上でないと依頼が受けられないのです。また少しでも問題行動があれば即座に衛兵が駆け付けます。私が知る限り、間違いなく世界で一番治安の良いギルドですよここは」
なるほど。つまりは一定以下の問題児は最初からお断りってことね。まあここに来るための飛行船も決して安いわけじゃないし、それだけ治安が良くなるのも当然といえば当然か。
「依頼内容は天空都市の奥地にある物資確保用の人工狩り場でのものがほとんどなので、ルールを守れる者でないと困るのです」
人工狩り場とかいう知らないもんが出てきたが、とりあえずそれは後回しだ。とにかく俺の目的は信用を得ること。だからさっさと実績の確認を行わないとな。
「大変だ!! 隔離エリアから魔物が逃げ出した! このままじゃいずれ居住エリアにやって来るぞ!!」
「なんだって!?」
「おいおいまたか。今週で何度目だよ」
……どうやらそれどころではなくなったようだ。
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