7 ドラゴン来訪

 家を出たところでギルドの職員に声をかけられギルドへとやってきた。なんでもギルド長から俺に話があるらしい。 


「サクライ殿、急に呼び出してすまない」

「俺に用があるということは、また強力な魔物でも現れたんですか?」

「そういうわけではないのだ。ただ……」

 

 やけに神妙な面持ちだな。初めて会った時みたいな凄みが感じられねえ。


「今までドラゴンロードが現れることなど無かったのでな。気になるのだ。もしかしたら今後もこの国に危機が訪れるのではないか……とな」

「そうですか。……一つお聞きしたいことがあります」

「なんだ?」

「この国からそう遠くないところにある獣人の村。そこが先日ワイバーンに襲われました。もしかしたらこの件と何か関係があるのかと思いまして」


 冒険者登録の時のことやドラゴンロードのことから察するに、アイツらはそうぽんぽんと出てくる魔物では無いってことだ。となるとリーシャの故郷の村がワイバーンに襲われていたのも何か関係があるかもしれねえ。


「何と……まさかそんなことになっていたとは。あそこにはワイバーンどころか他の危険な魔物もほとんど姿を表さないはずだ。にも関わらず村を襲ったということは……」


 ギルド長は少しの間黙り込んだ。色々と引っかかるところがあるんだろうな。


「ワイバーンとドラゴンロードは共に龍種……何か関係があってもおかしくはない。であれば……。サクライ殿、どうか今後も私達の力になっては貰えないだろうか」

「それは構いませんが……何か思い当たることでも?」

「ああ。以前同じように龍種が暴走したことがあってな……」


 ……どこか遠い目をしている。その龍種の暴走ってのはギルド長の過去に関わることなのか?


 どちらにせよ本来現れない龍種が現れたという点では暴走と言っても差し支えはねえか。


「もしかしたら同じことが……うぅっ」

「大丈夫ですか!?」

「すまない……過去のトラウマが蘇ってな。ギルドの長たるものがこの体たらくで申し訳ない」


 ……ただならぬことが起こったってのは明らかだな。もしギルド長が過去に経験したことと同じことがこの国を巻き込んで発生したら……リーシャはまたしても住むところを失うことになる。


 いや、それどころか俺の力でリーシャを守りきれるかもわからねえ。


「ギルド長! ド、ドラゴンが向かって来ています!!」

「何だとっ!?」


 マジかよ。まさか『その日』が今日とか言わねえよな……?


「私は外へ向かう! お主は他の者と王城へ向かい避難指示を求めよ! 度々すまないなサクライ殿。またもお主の力を借りることになりそうだ」

「いえ、俺にとってもこの国に無くなられると困りますから」


 そうだ。せっかく安定した生活の目処がたったんだ。ここで失うわけには行くかよ!




「あれが……ドラゴン?」


 王国へと飛んできていたそれは、先日倒したドラゴンロードよりもさらに大きな体を持っていた。しかし気になったのはそこじゃあない。……そのドラゴンは恐ろしいまでに美しかった。


 青い外皮は陽の光を反射して、まるで宝石のようにキラキラと輝いている。そして体と同じくらいある一対の大きな翼は、まるで芸術品かのように美しい曲線を描いていた。


 勇ましくもあり、それでいて繊細な形状。どこか触れてはならない雰囲気を醸し出している。今まで出会ってきた魔物とは明らかに存在自体が違うと本能が叫んでやがる。


「あ……あぁ……」

「ギルド長?」

「貴方様は……」


 初対面のときはあれだけ威圧感と凄みを感じたギルド長が、涙を浮かべて跪いている……だと!?


「おう、久しいな」

「あれから姿も表さないためにもう亡くなっていたのかと思っておりました……。ですがこうして再びお目にかかることが出来るだなんて……」

「そんな固いのはやめてくれ。俺、そういう雰囲気にあまり強くねえからよ」


 ……喋った! いや、それよりも……見た目とは裏腹に口調が軽い!


「それにしてもそこのアンタ……結構な実力者と見た」

「お、俺……?」

「ああ。アンタみたいな膨大な魔力を持つ存在は久々に見た。どうか手合わせ願いたいものだ」


 なんかとんでもないものに目をつけられちまった気がするぞ。


 とは言えここで断ったら何が起こるかわからねえ。こちらには守るべき王国がある。つまり下手なことは出来ねえってことだな……。


「……わかった」

「良いのか? よっしゃ! 久々に面白い戦いが出来そうだ!」


 なんというか戦闘狂だな。まるでどこかのサ○ヤ人みたいだぜ。


「アンタ、名は何と言う?」

「俺は翔太。佐倉井翔太だ」

「うむ、ショータ殿か。俺の名はプライムアクアドラゴン……人々は水龍様だとか極水龍ごくすいりゅうだとか呼んでいるな。それでは、共に悔いなき戦いをしようぞ!」


 プライムアクアドラゴン……長いな。極水龍でいいか。


「こちらこそ。では極水龍殿……いざ!」


 ひとまず国から離れよう。流れ弾でも飛んだら終わりだ。


「……そうか! いや失礼、俺としたことが周りを気にしておらんかったな。安心してくれ。王国には被害が出ないようにする」


 一瞬で俺のしたいことを理解したのか。流石は喋れるドラゴン。知能も相当高いということか。って。


「ッ!? っぶねぇ!!」


 水……か? 細い水がとんでもない速度で掠めて行きやがった……。


「やはり避けるか。並のドラゴンではすぐ真っ二つになってしまって楽しむどころではないのでな。ショータ殿は楽しませてくれそうだ」


 ……おいおいマジか。ドラゴンが真っ二つになる攻撃が通常攻撃ってことかよ。恐ろしすぎるぜ。だが……。


「俺だってそう簡単には負けられない……獣宿し『肆牙』!!」

「む!?」


 攻撃される前に懐に潜り込む! そうすればあの水には当たらねえ!


「速いっ!?」

「ウォォォッ!!」


 芸術品みてえな体に傷を付けるのはちょいと罪悪感があるが、今はそんなことも言ってられねえ! その外皮、俺の牙で噛み砕いてやる!!


「ぐっ……中々やるな。だが!」

「ウガッ!?」

「懐に潜り込めば水ブレスは当たらない。その考えに瞬時にたどり着き即座に実行してみせたのは素晴らしい。だが懐に潜り込めばその後は当然、肉弾戦であるな!」


 ちっ……流石にキツイか。あいつの爪、見た目よりも範囲がでけえな。いや、あれは……細かい水か? なるほどな。水ブレスと同じような鋭利な水を纏わせて切れ味と範囲を補強してやがるのか。肆牙の体は堅い外皮で覆われてはいるが、あの攻撃はそう何発も受けられるもんじゃなさそうだ。


 しかし、だからといって遠距離にいればあの水ブレスの良い的だ。


 ならやっぱり正面から突っ込むしか無いみてえだな!


「両者そこまでぃ!!」

「ッ!?」

「何だ!?」


 体の奥底に響くような声……全身を獣宿ししているにも関わらず、一瞬体が硬直しやがった。


「誰かと思えば国王さんじゃねえか! 久しいな!」

「うむ。貴方様もご壮健のようで何よりである」


 極水龍と普通に会話を……というか今国王って言ったのか?


「こ、国王様! どうしてこのような場所に……」

「なに、懐かしき姿が見えてな。それよりも、何故サクライ殿と水龍様が戦っておるのだ?」

「久々に強き者を発見してな。つい」

「そうであったか。水龍様も昔と変わらないのですな」


 国王様……ってマジで? こんな危険な場所に来ていい存在じゃねえだろそれ。まあおかげで大怪我しなくて済んだ訳だけども。あのまま続けていたら俺も極水龍もただじゃ済まなかっただろうしな……。


「さて、ここで話すのもアレだろう。王城の方へ移動しようではないか。それに水龍様が参られたということは、何か異常事態が起こっておるのだろうからな。会話はできる限り機密性のある場で行いたい」

「それについては私も賛成です」


 俺たちの会話が何者かに聞かれてるかもしれねえのか。……というか王城って極水龍はどうすんだ?

 

「……王城に向かうと言っても、水龍様はどうするのですか?」

「そんなことか。心配するな。えっと……こうだったか? おおそうだこれだ!」

「うおっ!?」


 少しの間奇妙な動きを繰り返していたと思ったら、あっという間に人間の男になっただと!? それにすげえ高身長の美形じゃねえかよチクショー! いや今の俺はアイツと比べられることはねえのか。良かった。良くねえけど。


「久々に人の形態になったからな。どうやるのか忘れておったわはっはっは」


 ……水龍様とか言われてるけど、こいつ本当に様付けされるような存在なのだろうか……。なんかどこか抜けてる感が拭えないんだが。


 まあ国王とギルド長が認めるのならそうなんだろう。そういうもんだと思い込むことにしよう。

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