8 極水龍
「さて、それでは本題といこう。俺が来たのは他でもない。龍種の暴走について対策を練るためだ」
「やはりそうでしたか」
「うむ。どうやら洗脳魔法を使って龍種を各地で暴れさせている者がいるようなのだ。幸い洗脳にかかるのはドラゴンロード程の龍種までであり、それよりも強大なものには通用しない。と言っても……」
極水龍の言いたいことはわかる。ドラゴンロードまでって言っても、そのドラゴンロード自体かなり危険度が高い魔物だ。対抗出来る冒険者はそう多くはないだろうな。
「我が国の冒険者の中でドラゴンロードと戦えるのは、恐らくサクライ殿のみ。とてもじゃないが龍種の暴走に対応しきることは……」
「だからこそ、大元を叩かねばならんのだ。洗脳された龍種を倒すだけではいつまで経っても根本的な解決には至らない。そこで諸国に協力して貰いたい。龍種を洗脳している者どもを探し出し、その大元を消すために」
確かに末端をいくら倒しても新たに龍種を洗脳されてしまえば根本的解決にはならないな。大元を叩くってのは俺も賛成だ。ただ、その大元を探し出すってのは果たして可能なんだろうか。
いや、可能か不可能かじゃなくてやらなきゃこっちが滅ぶだけか。なんとも理不尽で世知辛い話だ。とは言え俺だって今まで妖魔の理不尽な搾取と戦ってきた。今更文句は言わねえ。
「今頃俺の仲間たちが他の国にも向かっているはずだ。そちらとも連携しつつ、今はひとまず情報を集めたいところだな」
「ならば冒険者ギルドからも信用の出来る冒険者に話を通しておきましょう。何かしらの情報が得られるかもしれませんから」
「それは助かるが……良いのか? 場合によってはこの国の防衛が手薄になりかねんのだぞ」
「かつて助けて頂いた恩を少しでもお返ししたいのです。それにこの国にはサクライ殿がおりますから」
「お、おう任せといてください……?」
急に任せられた。まあこの国を守るという事に不満はないし、今後も力を貸すって今朝言ったしな。
「それは心強い。俺とショータ殿であれば何も問題は無いでしょうな」
「では当面の流れは決まった。我々は近隣諸国と協力し少しでも情報を集め、洗脳を行っている大元を突き止める。その間の防衛は水龍様とサクライ殿にお任せして良いのであるな」
「おう、任せといてくれ」
「任せてください」
この国を守ることは俺自身のためにも……そしてリーシャのためにもなる。絶対に守り切ってやるさ。
「では一旦解散としよう。水龍様は王国内に滞在する間は我が王城の客室を利用して頂いて構わない」
「そうか。感謝するぞ国王よ」
俺も一旦帰るとするか。これから忙しくなりそうだしな。
「ショータ様! 朝からどこへ行っていたのですか?」
「ちょっとギルド長のところにな」
「ええっ!? だ、大丈夫だったのですか……? ドラゴンが現れたって街は大変だったんですよ?」
そういえば避難がどうとか言っていたな。結局ドラゴンは味方だってことで避難は取りやめになったのか。
「ああ。ドラゴンは味方だった。それにこの国に危険が迫っているかもしれないってのもわかったんだ」
「そんな……」
「心配はいらない。俺がこの国を……リーシャの大事な場所を守ってやるさ」
「わ、私は……」
もう二度とリーシャから大事なものは奪わせない。そう決めたんだ。
「……例えこの場所を失っても、私はショータ様さえいれば……」
「うん? 何か言ったか?」
「い、いえっなんでも無いです!」
なんか様子が変だが……いや、ドラゴンが現れて避難だなんだって時に一人で留守番してたんだ。怖かったに決まってるよな。そりゃ様子もおかしくなるか。
「おお、ここがショータ殿の住む家か」
「なっ!」
極水龍のやつ、俺をつけてやがったのか!
……全く気付けなかった。ほんの少しの魔力も感じ無かったぜ。中々やるじゃねえか。
「後をつけていたのか?」
「すまんな。だがいざと言う時に行方がわからないのでは困るだろう」
「それなら言ってくれれば良かったものを……」
言ってくれれば案内したんだが……いや、こいつの性格だ。どうせ面白がってるだけだろう。
「ショータ様、この方は……」
「ああ。水龍様……だったか?」
「す、水龍様!?」
何だ何だ凄い驚いているな。やっぱり凄いやつなのか?
「かつてタシーユ王国を建国した英雄……その中に水を司る龍がいたというのは聞いていましたが、まさか……」
「ああ。俺がその龍、プライムアクアドラゴンだ。水龍様の方がわかりやすいか?」
建国……どうりで国王と仲が良いわけだ。この国を作った時に一緒にいたってわけか。となるとギルド長も何かしらの関係があんのかね。
「こんな可愛い妹がいるんじゃなあ。ショータ殿も全力でこの国を守ろうとするわけだ」
「っ! えっと……それは……」
リーシャ……。そうか、俺は……俺はリーシャの何なんだ……?
「私は……私はショータ様の……」
「極水龍殿。彼女については俺から説明します」
「お、おお。どうした急に」
「彼女は……リーシャは誘拐されて奴隷として売られそうになっていたところを助けたんです。その後彼女の故郷に向かいましたが……ワイバーンに襲われ壊滅していました」
「なんと……。すまぬリーシャ殿。先程の軽率な発言を許して欲しい」
「いえ、気になさらないでください……私は大丈夫ですから」
直感でしかねえが、極水龍になら話しても大丈夫な気がした。それに多種族国家を建国したメンバーっていうのも安心材料ではあるしな。
「だから、俺はリーシャと一緒にいることにしたんです」
「なるほど。それはわかったのだが、何故急に話し方を……」
「建国の英雄とは知らなかったもので。今までのご無礼をお詫びします」
「そうか。いや、良い。この国を訪れた時も言ったが、俺は固っ苦しいのはあまり好きでは無い。どうか今まで通り話してくれ。それに建国の英雄と言っても俺は協力しただけで、ほとんど国王さんの功績みたいなもんだぜ」
「そうなのですか。ではお言葉に甘えて」
過去の偉業に奢らないその姿勢、俺の目は間違っちゃいなかったな。信用しても大丈夫そうだ。
「俺は今後もリーシャを守るために戦うつもりだ。そしてリーシャからもう何も奪わせない。そして、それはこの国も同じだ」
「うむ、頼もしい限りだな。ところでショータ殿、この後時間が有ったらで良いのだが……先ほどの続きをさせてはもらえないだろうか」
「……これから戦いが起こるかもしれないってのに」
「頼む! ショータ殿は久々に出会った強者なのだ! このままでは消化不良で夜も眠れない!」
おおう、建国の英雄とは思えない姿……。仕方ねえ。これだけされたら断るのも悪いしな。それに、たぶん生半可な言葉じゃ退いてくれないだろうし。
「わかった。だが全力は駄目だ。今俺たちが怪我でもしたら何もかも終わりだからな」
「おお! 感謝するぞショータ殿!」
……この分だと今後も定期的に戦わされそうだ。
「はい。どうやらプライムアクアドラゴンが動き出したようです」
『そうか。我々の動きに気付いたとみるべきだろうな』
『しかし今更動いたところでもう遅い。我々の作戦は既に最終段階に入っているのだからな』
国民全員が寝静まった夜真っただ中に、王国から出る一つの影。その者は魔法を阻害するローブを纏っているようで、国中に張り巡らされている探知結界を容易く抜け出てきたのだった。
『王国の輩は我々を探そうとしているみたいだな。くっくっく……せいぜい足掻くが良いぞ人間ども』
「計画通り私は別の街へと向かいます」
『了解した。引き続き諜報活動を行いたまえ。期待しておるぞ』
国から出た影はそのまま一切の足跡を残さず走り去って行った。
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