第4話

 テンバ山は低いながらもなかなか見晴らしが良い。ほぼ360°下界を見渡すことができ、天気がよければ遠くに海も見える。

 いくつか売店があって、小さな観覧車もある。地元民にとっては手近な行楽地だ。売店の横にはなぜかヤギがいて、のんびりと草をんでいた。

 青く澄んだ空の下。きゃあきゃあと、子どもの歓声が聞こえてくる。幼児が走り回り、その後ろを親が追いかけている。

「すいへー、りーべ、ぼくのふね」

 5年生くらいか。小学生のグループが語呂合わせを唱えている。

 賑やかで平和な休日。楽しそうなざわめきをBGMに、オレはひとり、ベンチの隅っこで黙々とスマホをタップしていた。

 リストバンドの液晶画面には13:05という数字が映し出され、数字の下で銀猫が心地よさそうに眠っている。


「ああー、経験値がたりない~」

 すぐ近くで甲高かんだかい声がした。思わず声の方を振り返ると、オレの隣に大人と子どもの二人連れが座っていた。ふたりともスマホを手にしている。

「おばあちゃま、いっぱい残ってるでしょ。この土鍋、アップグレードして」

 ひとりは小学校低学年くらいの女の子。おばあちゃまと呼ばれた方は、やや年配の、山ガールといった風情ふぜいの女性だった。

「ずるっこはいけません」

 おばあちゃまが優しくたしなめる。

「自分でやりくりをなさい。その方が絶対に楽しいわよ」

「ええ~?」

 女の子は不満そうに唇をとがらせて、勢いよく両足をぶらぶらさせた。振動がこちらまで伝わってくる。

「トウコちゃん」

 ――おやめなさい、とおばあちゃまがその膝に手を置いた。

「そういえば、サヤちゃんと観覧車に乗るお約束をしているんじゃなかったかしら。行かなくていいの?」

「あ、忘れてた」

 トウコちゃんは黄色いキッズ携帯をリュックのポケットにしまうと、

「行ってきまあす」

 ベンチから飛び降り、元気に駆け出していった。

「騒がしくてごめんなさいね」

 山ガールさんがオレに向かって軽く頭を下げる。そうして、オレのリストバンドにちらっと視線を走らせると、にっこりと微笑んだ。

「あなたも猫を集めていらっしゃるの?」

 オレにとって、これが『元素猫プレイヤー』と交わす初めての会話になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る