第3話

 水素猫6匹。酸素猫7匹、炭素猫7匹、窒素猫4匹、ケイ素猫2匹、鉄猫1匹。

 がらんとした猫ラボの大広間を、ちょろちょろと猫たちが走り回っている。


 H、O、C、N、Si、Fe。


 テンバ山展望台のベンチでサンドイッチをぱくつきながら、オレはほのぼのとした気分でその様子を眺めていた。


 捕まえた元素猫は、『原子』の状態である。複数の原子を組み合わせてさまざまな『分子猫』を合成することができる。たいていの場合、分子猫の生成にはグッズが必要になるが、オレの手元にはまだ何もない。

 基本的なグッズはポイントと引き換えに手に入れることができる。リストバンドには歩数計の機能がついており、歩いた歩数がポイントとなる。

 現在のポイントは、1万8千。カウントを始めたのが昨日の午後からだから、こんなものなのだろうか。もともとインドア派なので、これが多いのか少ないのかよく分からない。


 ピロン、と画面にエーちゃんが顔を出す。

「水素猫を分子(H2)の状態にしますか?」

 気体の場合、原子よりも分子の方が存在として安定するとかなんとかかんとか。画面に説明文が表示される。これにはグッズは必要ないらしい。

「する」

「らじゃー」

 チリンチリンと鈴の音がして、6匹の水素猫が3匹のH2猫になった。続いて7匹の酸素猫のうち6匹がO2猫になり、1匹が残された。

 水素と酸素が揃った。オレの記憶が正しければ、水が作れるはずだ。

 ショップ画面を開くと、ずらりとグッズが並んでいる。

「これかな」


【№1:ちゅうちゅうファイアー】火花を散らし、燃焼反応を促す。


 ネズミのおもちゃだ。引き換えポイントは10。これを5つ購入してラボ画面に戻ると、またエーちゃんが現れた。

「水猫と、二酸化炭素猫を生成することができます」


 H2+2O2→2H2O

 C+O2→CO2


「えーっと……」

 両方作るにはO2が3つ必要になるのか。

 すると、酸素は元素猫が1匹残されるということで。

「ま、いっか」

 レア元素ではないし。使ってしまってもあとで困ることはないだろう。

 

 銀猫エーちゃんのナビに従って、H2猫と2匹のO2猫をラボ内の第一実験室に移動させる。部屋の真ん中に【ちゅうちゅうファイアー】をセット――するやいなや、3匹の猫たちがネズミに向かって躍りかかった。


 パーン!

 

 ちかっと画面中央に小さな光が灯ったかと思うと、大輪の花火が広がる。

 それが消えたあとに、2匹の猫が座っていた。

 同じ水猫でも模様が違う。

 白をベースにして、一匹は淡い水色のハチワレ。もう一匹は背中にハート模様がついている。しっぽはどちらも水色のしましまだ。

 きゅるんとした青い目でこちらをじっと見つめている。

「か、かわいい」

 胸きゅん待ったなし。いそいそとショップでニボシを購入する。

 夢中でニボシを食べる姿も愛しい。水猫だけでどのくらいのバリエーションがあるのだろう。全種類コンプリートしたくなってしまうではないか。

「やばいな」

かなりハマりそうな予感がした。

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