第17話 第三勢力

「くそ! くそくそ! どういうことだっ……!?」


 都立魔地狩学園在籍。魔法少女と共に悪しき災厄『悲骸ひがい』を滅するヒーローを志す者、あるいは普通の高校一年生として生活を営む、黒染くろぞめいざなは、校庭の植木に隠れながら舌打ちをかました。


 体育の授業中、どういうわけだか巷を騒がせる『悪の組織』が学校に殴り込んできた。

 「きっと誘拐だ!」と生徒たちが逃げ惑う中、突如として仲間割れを始め、そうして気が付いたら、磔にされてた奴に「惚れた」とか言って、クラスのマドンナ、セイカちゃんがのこのこついていったのだ。

 そうして、まるで予定調和みたいにクソ泉先輩が鎌をおさめて、皆で仲良くご帰還だ。


「泉先輩のことは許せないけど、万世橋さんは良い人です」


 そう言って腕にひっつくセイカちゃんに、隣の百合獅子――紅乃先輩だったか(?)まで羨ましそうにうずうずしちゃって。

 あの人、あんなキャラだったっけ。

 ああいうメスな顔もするんぁ……てゆーか、紅乃先輩はお嬢様一筋だろう?

 悪の組織でナニがあったんだ?


 もう、わけがわからないよ。

 セイカちゃん、どうしちゃったんだよ?


 くそヤリチンの泉にヤリ捨てされたことがクラスメイトにバレて、いたたまれなくなったとか? 学校に居づらくなった? でも、ミリスちゃんとかはセイカちゃんに「ドンマイドンマイ!」とか言って、優しく声をかけてたじゃないか。


 とはいえ、これは由々しき事態だ。

 なにせ俺は『悪の組織』にを横取りされたのだから。


 端的に言えば、セイカちゃんには俺が先に目を付けていたのに。

 俺が先に好きだったのに……


「あああああっ……! 許すまじ、悪の組織の『亀』。万世橋……!!」


 【盾】だかなんだか知らないが、タンク職はいいよなぁ。

 身体をはって守られて、嬉しくならない女子はいない。


 目の前で身を挺すしなやかな筋肉、「大丈夫か?」の笑顔――

 そうやって、数多の魔法少女をオトしてきたっていうんだろう?


 泉みたいな、顔を使った直接的なオトし方とは違う。

 心で訴えてモノにするから、ああいう輩はタチが悪い。後を引く。

 んなことわかってんだよぉ!!


 俺は、蓋を開ければお芝居に過ぎなかった激戦の爪痕が残る校庭に、拳を叩きつけた。


「万世橋!! お前!! 白雪先輩はどうしたんだよっ!?!?」


 その叫びに、植え込みの影からピンクのツインテールにほしを散りばめたパンクキューティな女の子が顔をだす。

 俺の属する組織の四天王同僚、メンヘラ兼愛欲担当の心見ここみちゃんだ。

 ちなみに俺は、計画立案と実働を担っている。


「よっす~♪ イザナっち、ご立腹だねぇ~?」


「んああ、ここみん! 聞いてくれよ! 今、さっき、俺の目の前で。セイカちゃんが引き抜かれていった! 白雪ちゃんもハーメルンに先に闇堕ち――横取りされたんだ。おっぱい枠紫ちゃん、男装麗人の紅乃ちゃんくんと続いて、悲劇の非処女セイカちゃんまで!? ああもう、ハーメルンは新手の敏腕プロデューサーかなんかかよ!?」


 こちとら、数百年続く老舗のフリーランス『闇堕ち.inc』だぞ。

 無限の『高校生活』を繰り返し、魔法少女らのことを陰ながら見守り、ときにこの手におさめようと十年単位で画策を練っていたっていうのに……

 それっぽい成果もなく! このザマ!


「うぁあああ……提督に怒られるぅ……」


「そんなに頭抱えなくても、提督っちはイザナっちにそこまで期待してないってぇ~」


「それはそれでどうなん!?」


「で。ど~するん? 次のターゲット」


 ぺろぺろとポケットから取り出したアメを舐めるここみんに、俺は端正で邪悪な笑みを浮かべた。


「やられたら、やり返す……! 魔法少女のNTR返しだ!!」


 それ、だだの逆恨みじゃん?


 と、ここみんは思ったけれど言わないでおいた。


「待ってろ、白雪ちゃん! 俺が今、亀なんかよりも役に立つ【深淵】の力を君に与えてあげるから!」 


 もはや横取りじゃん!?


 と、ここみんは思ったけれど、イザナが久しぶりに楽しそうな顔をしているので、言わないでおいた。


(イザナっちが楽しそ〜だと、私もなんか楽しいんだよね……♪)

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マスコットだって魔法少女とイチャイチャしたい!(闇堕ち、ときどきYoutuber) 南川 佐久 @saku-higashinimori

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