第16話 悪の組織、磔ショー

 「こないだの、道玄坂での仕返しじゃないけどさぁ……いい顔してくれるねぇ! ほーら、もう一発!」


 泉が銀髪を揺らして、ぶん! と鎌を振るうと、黒い斬撃が俺と紅乃目がけて飛んでくる。

 本校舎よりも離れの校庭に、突如として現れた悪の組織が、何故か仲間割れを始めた――その事態に、体操着姿の魔法少女たちが一斉に息を飲み、変身して対抗することすら忘れて見入っている。

 泉はそのうちのひとり……セイカに目を付けると、にやりといやらしい笑みを浮かべた。


「……わぁ。懐かしい顔。忘れかけてた」


「……!?」


 悪意にまみれた辛辣な言葉に、俺は思わず盾から顔を出す。


「一回ヤッといてその言い草はないだろ!?」


「ヤッ……////!?」


「混ぜ返さないでくれるかしら、万世橋先輩!?!?」


 背後で庇われている紅乃がヤッた発言に頬を染めるなか、セイカが声を荒げる。

 仲間割れをしているのならこれ幸いと、避難を始める生徒たち。その中で、名前が出たことで足を止めひとり置き去りになっている。


 黒い髪を風に揺らして、体操服が張り裂けんばかりの巨乳……アレを抱いたのかと思うと、泉が羨ましくてしょうがない。


「……おっと、それどころじゃなかった。そんなとこ突っ立ってたら危ないぞ、セイカ! こいつは組織の裏切りモンだ。マジで殺す気で斬撃を放って来やがる。お前も早く教室に引っ込め!」


「あは♪ 他人の心配とかずいぶん余裕じゃん? 逃げ込んだらそれはそれでアリだよねぇ。窓ぶっ壊して、ネズミ狩りの時間といこうか……」


「は!? てめ、狙いは俺じゃなかったのかよ!」


「たしかに、『もはや敵か?』ってくらいに白雪さんの気持ちに気づけない万世橋はウザいよねぇ~。僕を殴ったことも許せないし。紫にちょっかい出すのもマジでありえないんですけど」


「は? いや、俺は菫野さんにちょっかいなんか出してな――」


「嘘つけぇ!! ドクトルに見せてもらったオキシトシングラフが物語ってんだよぉ! 紫のやつ、僕といるときより万世橋といる方がハッピーホルモンが多いだなんて……あああああ! 毎晩隣で我慢してる僕の努力は何だっていうんだぁ!? ふざけんな!!」


 怒りに任せた斬撃が、俺の頬をかすめて校庭の桜を真っ二つに裂く。その光景に、泉は再び天を仰いだ。


「桜の樹……ああ、中学に入学したての頃は、紫とあそこでツーショットを撮ったっけ。まだぶかぶかの制服の袖を余らせて。それが可愛くて……ふふ。うふふ……! その思い出が、今や真っ二つだよ……」


「いや。真っ二つにしたのはおめーだろ」


「泉のやつ、完全に闇堕ちしているな……」


「紅乃。そこツッコむところか?」


 俺達はいわれなくても闇堕ちしてんだよ。セイカ以外は全員な。

 だが、その場で唯一の魔法少女であるセイカが、俺たちの前に躍り出た。


「学校の子たちを攫いに来たの? 好きにはさせないわ」


 その正義に溢れた瞳の輝かしさたるや。

 俺は密かに感動した。


(これこれ、コレだよ。魔法少女ってやつはこうでなくっちゃ!)


 だが。泉はさも忌々しげに。


「あ〜あ〜。コレだから魔法少女は嫌なんだ。その偽善に満ち満ちた目。どれくらい痛めつけたら、黒く荒んでくれるかなぁ?」


 パチン、と泉が指を鳴らす。奴のマジカル能力は【影】。セイカの足元が不意に揺らめき、漆黒の十字架が顕現した。同時に、影から無数の鎖が這い出でる。


「あはははは! 磔ショーの始まりだ! 手始めに爪を一枚ずつ剥がして、美少女の爪をコレクションする変態向けのオークションに……あれ?」


「……残念だったな」


 磔刑になったのが、俺で。

 しょうがねぇだろ。つい庇っちまったんだから。これも【盾】の職業病みたいなものかねぇ。


 その行動に、突き飛ばされたセイカは目を見開いて、泉が舌打ちを鳴らした。そうして、なぜか紅乃は頬を染めた。







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