第15話 悪の組織、仲間割れ

「紅乃さんの初任務は、学園からの魔法少女の強奪ひきぬきにします」


 ある日、指令室に集められた三人は総帥の発言にぽかーん……と言葉を失った。

 しかし総帥は、いつもと変わらぬ笑みを浮かべて、淡々と作戦を説明する。


「今まで私は、感情の暴発により《真の闇堕ち》をしてしまった魔法少女たちを魔法少女粛清砲ラブ・サテライトから守り保護する目的でキミたちを誘拐してきました。万世橋くんと白雪さん、そうして泉くんと菫野さんも最終的に手を下したのは私で、私という脅威に晒されて《真の闇堕ち》をしてしまったわけですが、なんというか、その……放っておいたらいつか闇堕ちしそうな雰囲気を醸し出していた(白雪さんと泉くんは特に)ので、知らないところで闇堕ちされるよりは目の前で闇堕ちてもらってその場で助けようという魂胆ですね」


「え……そうだったんですか?」


「ナニソレ。早く言ってよ。つか、放っておいたら闇堕ちしそうな雰囲気って何?」


「端的に言えばヤンデレです」


「ぶはっ……!」


 思わず吹き出すと、泉はおもむろに俺の足を踏みつけた。


「痛ぇ……! なんだよ、自覚ねーのか!?」


「……ッ。そっちこそ、自覚ないのかよ!? いい加減ちょっとは気づいてもいいんじゃないのぉ!?」


「まぁまぁ、落ち着いてふたりとも。問題はそこじゃありません。今回きみたち三人に言い渡す任務は、我々悪の組織きってのスカウト大作戦なんですから」


「「「???」」」


 作戦のことも不明だが、なによりこの三人メンツで集められたことが謎である。俺、泉、そして紅乃……マスコットだけで遂行する任務ってどういうこと? 俺らマスコットは本来、傍にいるパートナーの魔法少女を補佐して強さを引き出すのが務め。白雪と別行動だなんて、学校でもしたことねーぞ……


「万世橋くんと泉くんは、紅乃さんのおりです。盾でありOJTである万世橋くんはもちろん、泉くんもお得意の機転と変幻自在の【影】で、彼女をサポートしてあげてください」


「あ、はい。ウス」

「はぁ〜!? ヤダぁ!!」


「くっ、こちらこそ願い下げだ! 総帥、いくら私が積極性に欠ける構成員だとしても、その言い草はあんまりです。白金台の百合獅子をナメられては困る!! そのスカウト作戦とやら、要は学園の魔法少女をこちらに引き込む人員補充でしょう? それくらい、私ひとりでも……!」


「ダメです。総帥命令です。魔法少女の強奪――もとい、説得および引き抜きには綿密な作戦が必要だ。マジカルは感情で強化される……だからこそ、この作戦が必要なのです。魔法少女たちが、自ら『この組織に入りたい』『力を振るいたい』と思えるように」


「じゃあ、なんで普段は敵対してるのさ。いまや僕らは魔法少女の憎悪の対象。敵だ。言ってることとやってることが真逆だけど?」


「それはほら、『あとからラブ』ですよ」


「は? ……ああ、普段の作戦は、憎悪や敵意で強くしてから引き抜こうってことか。じゃあ、今回の作戦は『先にラブ』なわけだ」


exactlyイグザクトリー!! さすがは泉くん、賢いですね!」


 いまだ全く理解できない俺を差し置いて、総帥はつらつらと作戦を説明しだした。

 要は学校を襲撃して、どさくさに紛れて魔法少女を拾ってこようという身も蓋もない作戦だ。それを聞いても尚理解できない俺は、結局疑問符を浮かべたまま作戦当日を迎えた。呆れた泉に、「とりあえず僕に任せな。お前はに振る舞えばいい」と言われているので、そうするつもり。俺はとにかく、紅乃の初陣をサポートして守ってやればいいんだ。なぁんだ、簡単……


 と。思っていた俺の目の前に。

 泉が、今。死神の鎌を手にして立ちはだかっている。


  ◇


「あっははは! 味方と思ってた奴に攻撃される気持ちはどーぉ!?」


 学校を急襲して魔法少女を掻っ攫う……そういう作戦だと思ってたのに。なのに……!


(こいつ……!)


 パートナーの白雪がいないのをいいことに、復讐してきやがった!!

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