第12話 悪の組織がYoutuber

 悪の組織の基地には、地上の建物を占拠して利用しているものがある。

 その中でもこのマリーンタワーは、観光名所でありながらいい感じに廃れていて管理者も金に弱かった。少しチラつかせればこうしてときおりジャックすることも可能というわけだ。


 というわけで。俺は今日、泉と総帥と三人でオンエアスタジオに腰掛けカメラに向かってガッチガッチの笑顔を浮かべていた。

 銀髪の美形同僚と長身麗人総帥に挟まれて、パンピーフェイスの俺は場違い感がハンパない。


「は~い! 闇の魔法少女のマスコットのコウモリ、こと泉で~す!」


「総帥でーす!」


「同じくマスコットの亀の、ま、万世橋です……」


「「悪の組織でーす!!」」


 そう。今日は、動画配信に夢を見た総帥が立ち上げたYoutube、『悪の組織チャンネル』のライブ配信日なのだ。

 正真正銘、魔法少女と敵対する悪の組織の俺たちはもとからメディアで騒がれているし、何故か顔面偏差値が(俺以外)くそ高いので、チャンネル登録者数なんてあっという間に1000突破。収益化に成功して広告収入も得ているって寸法だ。


 もとは女幹部にして元・最強魔法少女のラブちゃん先輩がやっていた『魔法少女★ラブ★チャンネル』にお邪魔したらそれが思わぬ高評価で。こうして月に何回かライブ配信なんてするハメに……で。どうして俺まで呼ばれるの? こういうのこそさぁ、元モデルの泉がやればいいじゃん!


 こんな、不特定多数の人に向かって話しするとか、無理だって……

 俺、頭良くないし、話すネタもねーし。

 でも、総帥は「そういうパンピーっぽさ、ウブさがウケるんですよ」だとか。わけのわからないことを抜かしやがる。


 ライブ配信ということもあり、正面のモニターには俺らの映像と、視聴者から送られてくるコメントが映し出されていた。

 それに反応しながらコメントを返していくのが、ライブ配信の主な仕事だ。

 ここで俺らの今後の活動――というか犯行声明を流したり、どーでもいい日常を流したりすることで、魔法少女たちに「あいつらまだ生きてんのか。潰す」と思わせる狙いもある。


 俺は、矢継ぎ早に浴びせられる質問やコメントにあたふたしながら目を通す。


「えっと……『今日は白雪ちゃん来てないの?』『ヤローはいいから魔法少女を映せ』『この三人とか誰得?』『腐女子狙い?ww』『おっぱいはぁ?』……コメント量エグッ!」


「ん~。なにから説明したものでしょうか。三回目になる今日はですねぇ、前回、前々回と思ったよりも女性陣への性的コメントとDM攻撃がウザかったので、我々三人で行うことにしてみたというわけですよ。いいですか? いくら魔法少女がメディアに消費されがちとはいえ、人間であることに変わりはないんですからね? 『おっぱい見せて~』とか言われたら普通に傷つきます。視聴してくれるのは嬉しいですが、そこのところ忘れないでください」


「うわ。総帥がまともだ……」


「でもコレぇ、要は資金調達活動の一環なわけでしょ? 一部の迷惑キモファンのことはいいからさぁ。もーっと動画見たいよ! って人は大人しくスパチャお布施してよねぇ。お金に応じて活動が増える。どんな組織でもこれ鉄則だからぁ。ちなみに、公式TwitterにDMしてくれたら寄付金の振込先教えま~す。返礼品は好きなメンバーの未発表写真とかかな? 

 ……おっ。早速3000円。『泉くんのファンです!』ありがとう~♡♡ 

 こっちは2000円。『白雪ちゃんて何カップ?』……ごめ~ん、女の子へのそういう質問はNGなので。次したらブロックしま~す。

 5000円。『今日の紫ちゃんのパンツの色教えて……』ハァァっ!? コロされたいのか!? ドクトル! こいつ特定して! 鬼DMでパンクするまでぶっ壊してよぉ!! 家に鼠の死骸をバラ撒いてやる!!」


「おい、落ち着け泉……こんなん前にもあっただろ。相手するだけ無駄だって。いくらお金スパチャ積まれても、そういう質問はスルーしますんで。そこんとこよろしくです。って、いい加減わかってくんねーかなー……自分がされたらイヤでしょう? 俺らも同じってことっす」


「案外冷静ですよねぇ、万世橋くん。まぁ。だから呼んだわけですけれども。だって泉くんとふたりじゃあ、さすがの私も疲れます」


「ハァァ? それどーいう意味ぃ!?」


「おや……5万円? 私に? 『いつも侵略お疲れ様です。ウィンクしてください!』はい! パチコン!(キメ顔ウィンク)『おかげで会社が潰れました!お詫びに全社員就職斡旋してくれてありがとう!』3万円。うっふふ。再就職おめでとうございます。こちらがご祝儀をあげたいくらいですよ。あなた方のような熱心な信者のおかげで、我々の日々の活動があるわけですから」


「てかさぁ、さっきのパンツはスルーでいいの!? 僕の魔法少女に対するセクハラは僕へのセクハラだ! 怒ってとーぜんでしょ!?」


「う~ん。泉くんも、そういう『僕の』とかいうさりげないマウント発言は控えてもらえますか? 泉くんのファンにも菫野さんのファンにも凶器です。炎上しちゃうでしょう?」


「いや。俺ら元から指名手配犯だし。これ以上炎上しようがないのでは……?」


「おや、ド正論。あ、ほら。万世橋くん宛てにコメント届いてますよ。『悪の組織にマトモな奴おったのか』『亀!がんばれ!』『こいつ苦労性だよなぁ……』『感性が小市民(笑)ww』」


「……『がんばれ』以外褒められてる気がしないっす。あ。応援してくれた人ありがとうございます」


 ぺこり。


「う~ん、いい子! 悪の組織的にはどうなんですかねぇ? でも、おかげで最近は万世橋くんへのスパチャも飛んでくるように……ほら、500円。『もっと泉に寄って!』なぁんだ、ただの腐女子ですか」


「扱いひどくないっすか!? 俺も女の子のファン欲しいー!」


「腐女子も女子だよぉ~……(白目)」


「とまぁ。こんな感じで。今日は我々、悪の組織の日常についてお話していきたいと思います。皆さん、どしどしスパチャしてくださいね~! 我々のQOLクオリティ・オブ・ライフのために。地下基地内部の様子も、一部ですが奔放初公開! 警察の皆さんは特定がんばってください。罠をたくさん仕掛けてお待ちしておりま~す♡ あ。言っておきますけど、今このマリーンタワーに来てもムダですよぉ。万世橋くんの超亀さん結界で誰も入れないようにしてありますから。あしからず」


「結界はまぁ……がんばりました。目的を達成するまでは捕まりたくないんで。マスコットのマジカル能力なんで、バズーカとか徹甲弾とか撃つだけ無駄っすよ。お願いだから国家機関は税金の無駄遣いしないでくださいね。え? 『セ◯ムです。年収750万で皇室警備しませんか?』って。す、スカウト来ちゃった!? どうしよ!?」


「ばぁ〜か。年収750万は足元見過ぎだっつーの」


「ん〜、そうですねぇ。万世橋くんのマスコット能力は守りに特化した珍しいケースです。私の知る中でも亀甲ペンタグラム結界を展開できるのは彼のみ。その額で揺らがれては困ります。給料に不満があるなら今の倍出しますよ? だから行かないで!!」


「なんか給料あがった? わーい。『お小遣い何に使うの?』うーん、マンガ買うとか、そんなんスかね? あとは外出たときにウマイもん食うとか。あ、俺ら電波必要な配信系と襲撃のとき以外は基本地上に出ないんで。市民の皆さんは安心してください」


「あははっ! 市民の安全心配するとか! 今更感~♪」


「泉……もう性根隠す気ねーのな? 俺はお前にいまだファンがいるのが信じられないよ……やっぱ人間、顔なのか?」


「万世橋くん、ファイトぉ!」


「ムダにツラのいい総帥に言われると、イヤミにしか聞こえねーっす……」


 ◇


 そのライブ配信を、相棒の闇堕ち魔法少女たる白雪と紫は、肩をくっつけて談話室のソファに寝そべり視聴していた。お揃いのジェラートピケを羽織って、アイスを片手に脚をぱたぱたとさせる。


「始まったわね……大丈夫かしら、万世橋」


「大丈夫じゃなぁい? 万世橋くん、『一番マトモ』って褒められてるしぃ」


「魔法少女抜きの男だけで配信だなんて、需要あるのかと思ったら案外あるのね……見て、視聴者数すごい」


「おかげで私達は基地でごろごろしててもお金入るねぇ~♪」


「紫……あなたの呑気さがたまに羨ましくなるわ。いいの? 相方の泉くん、『くそヤリチンは引っ込んでろ』『顔見みせんなカス』とか叩かれるけど」


「いつものことだから~。今日は万世橋くんの盾もあるし、刺されないから大丈夫だよぉ」


「あなたたち、揃ってメンタル鬼強なのね……?」


優兎ゆうとちゃんこそ、大丈夫? さっき万世橋くんが『女の子のファン欲しい~!』って言ったとき、グシャって……ほら。シャーペン折れてる」


「あっ。。」


「無意識だったのぉ?」


 紫は、ちょっと思う。


(そんなんだから匂わせがひどくて、万世橋くんとふたりで共演配信NGなんじゃない……?)

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