第5話 悪の組織と人攫い
ド、ォォォン……
轟音と共に大地が揺れる。体感で震度5強。直下型を思わせる大地震に周囲の鉄骨は歪な唸りをあげ、窓ガラスが氷を砕いたように割れていく。喫茶店から出ると、秋葉原は阿鼻叫喚の渦に包まれていた。
魔法少女粛清砲、【ラブ・サテライト】が付近に落ちたんだ。
「きゃあぁあああ! なに!? 弾道ミサイル!?」
「違う、『闇堕ち』だ! 『闇堕ち』が出たぞ!!」
電気街の交差点をふたつほどぶち抜くような巨大なクレーターから煙が上がっている。濛々と立ち込める煙の向こう――その中心にいる人物を、俺たち見た。
長い金髪を下の方でひとつに纏めた、執事服の少女(?)が、蒼い瞳から涙を伝わせている。
「おじょうさま……?」
(……お嬢様? 相方がいたのか?)
ここには、ひとりしかいないけど……
「あ、あああ、あああああ……!」
身を焦がす熱と痛みに少女が悲鳴をあげる。
白雪がすぐさま変身して杖を振るい、【水】で消火を試みるが……
「だめ……! 火の勢いが弱まらない……!」
そうこうしているうちに黒い炎は付近の建物に燃え広がり、屋根が落ちて――
「危ないっ!!」
俺は咄嗟に、少女に覆いかぶさるようにして背に【甲羅】を顕現させる。
黒炎の熱は凄かったが、抱き締めた拍子に驚いたせいだろう、ジュウ、とイヤな音を出して消えていった。
(熱っ……!? けど、よかった。おさまった……)
だが。あまりに急だったものだから【甲羅】は上半分しか出せなくて、すっかすかの下半分――俺の腰あたりに瓦礫の破片が落下する。
「痛ぇっ!!」
「ちょっと、万世橋!? だいじょうぶ――」
「大丈夫かっ……!? えーと……きみ!」
庇うように腕の中に抱いた少女を見ると、揺らいでいた蒼い瞳が大きく見開かれる。
「万世橋……? お前、さては
(あー……魔法少女、ってことは……そっか。学園の生徒か)
執事服――男装をしているようだが、手の綺麗さや肩の細さが女子だ。少女で間違いない。って。それどころじゃなくて。咄嗟に助けたはいいが、俺の顔と名前は魔法少女たちにとっては
俺はパッと手を離した。両手を挙げて降参のポーズをとる。
痴漢冤罪ですよっていう、あのポーズだ。
「待て待て。別にあんたに悪さしようってんじゃない。今のはつい、咄嗟に触っちゃっただけで……」
だが、少女は鬼気迫る表情で俺の胸ぐらを掴んだ。
そして――
「お嬢様をどこへやった!!」
(……!?!?)
「先程のあの光もお前たちのせいなのか!? この……悪の組織め!! 魔法少女を次々と闇堕ちさせる人攫い――! 返せっ! 私のお嬢様を――【白百合の魔法少女・リリエッタ様】を返せっ!!」
「はぁ!?」
急にそんなこと言われても、わけがわからないよぉ……
だが、白雪にはその名に心当たりがあったようだ。
「【白百合の魔法少女・リリエッタ】……中学二年生の、生徒会の後輩よ。じゃあ、あなたはまさかパートナーマスコットの【白獅子】? 【白金台の百合獅子】の、
(……!)
【白金台の百合獅子】なら、在学中に同じパートナーマスコットシステムの同僚として聞いたことがある。その名の通り、白金エリアを中心に活動していた魔法少女とマスコットのコンビだ。つかよく見ると、オリエンテーションやらで何回か顔を合わせたことあるような……?
蒼い炎を吐く白獅子と、可憐な花の使い手だという魔法少女のコンビ。だが、実際に【白百合の魔法少女】が戦っているところを誰も見たことがないとか。
(お嬢様と付き人、ね……)
「で。その肝心のお嬢様はどこだ?」
尋ねると、瑞樹は立ち上がって激昂した。
「それは私が聞いている!!!!」
「??」
「だから……『お嬢様を返せ』なのね?」
よくわかっていない俺に反して、賢い可愛い白雪には全てわかったらしい。
白雪は変身したまま杖を構え、なぜかソレを振りかぶった。
「興奮状態で、このままじゃあ埒が明かない。
「え。でも、どうやって――?」
俺の目の前にいる瑞樹は、ふぅふぅと息を荒げ、剣を構えて完全に戦闘モードですけど?
――「こうやって」。
白雪は、変身後のバニー姿でぴょん、とうさぎのように跳躍すると、一瞬で瑞樹の後ろをとった。バガァン! とマジカル☆アクアステッキが炸裂し、氷塊の固さを誇る杖が瑞樹の頭を殴打する。
(……『殴打の白雪姫』……!!)
最悪のタイミングで、俺は相棒のかつての二つ名を思い出す。
白雪は、意識を失った瑞樹を「ふぅ」と眺めて。
「総帥も、
「えっ。だからって、真似しなくても……」
「だってこの方が早いじゃない」
「えぇ~?」
ボケっと腰をおさえたままの俺に、白雪は不敵な笑みを浮かべる。
「なに驚いてるの? 私たち……一応、悪の組織よ?」
「はい。おぶって。基地に連れて帰るわよ」。相方の魔法少女に指示されて、俺はしぶしぶ瑞樹を背負う。契約してもらってる関係上、魔法少女とマスコットというのは基本、絶対服従なんだよ。かといって白雪は俺を奴隷みたいにこき使う悪い子じゃあないけどさ。
「うわ、軽っ……」
先程までの激昂っぷり、もとい苛烈な強さからは想像もできないほどの華奢さだ。
男装はしているけれど、髪はさらさらで少し甘いいい匂いがして、背から伝わる柔らかさに不覚にも気恥ずかしくなってしまう。
(こんな華奢な体躯に、あれだけの炎と《
こんなことをしておいて不謹慎かもしれないけれど。
お嬢様想いのいい子だな……と、思った。
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