第9話 体育祭 午前の部


 二学期が始まった。



 縦割りのクラス対抗で戦う方式だ。


ヒロインのいる青組は、攻略対象者や生徒会のメンバー、当て馬が揃い踏みの豪華な構成。


 体育祭で優勝するのは既定路線だろう。



 モブしかいない白組はかなり不利だ。なので、勝負を諦めて、体育祭を楽しみたい。



 なのに…。


なんで?教室にシルビオ様の艶やかな声が響く。


 そこには円陣があった。



「白組は長年雪辱に耐えてきた。今年は優勝旗、獲るぞ!」



「「おー!」」



 野太い掛け声が響く。


 なんか、シルビオ様を中心に一年から三年までの白組男子生徒が一致団結して円陣を組んでる。


 なかにはむせび泣いてる猛者もいて暑苦しいことこの上ない。


 ここは華麗な乙女ゲームの世界だったんじゃないですか?


 いつの間にゴリゴリのスポ根に変わったんだ?


 そしてシルビオ様、あんたはいつの間にそんなに馴染んでるんだ。


 しかも、三年生差し置いて仕切るなんて。



 シルビオ様は、私達に朝練を課した。


 早朝起きられない私は、毎朝シルビオ様に起こされ担がれて登校した。


 んー。眠い。


 白組の男子の間に筋トレと称して早朝、意中の女子をお姫様だっこして登校するのが流行ってるらしい。


 マリアちゃんが恥ずかしそうに教えてくれた。


 お姫様だっこいいな…。



 シルビオ様は、各種目ごとに作戦をたてている。


一人一種目にしか出場出来ない。だから、攻略対象者目白押しの最後の目玉の長距離リレーには、一切の戦力を投下しないことにしたようだ。



 運動が苦手な白組女子が最後の目玉のリレーに出場する。私も一番目に入れて貰えた。


 攻略対象者と同じ種目に出れるなんて、嬉しくて練習に熱が入る。他の女子も嬉しそうだ。



 シルビオ様が狙うのは、あまり注目されないが点数の高い競技だ。


 よくわからないが各種目出場者だけを集めて作戦会議を開いていた。





 運動会当日。



 今日こそ、生徒会長のお姿を拝もう!と勢い込んで一番前に陣取った私に直射日光の攻撃がきた。


 ま、まぶしい。まぶしくて、目が開かない。



 生徒会長のあいさつが終わった。終わってしまった。乙女ゲームはモブには生きづらい世界だ。



 シルビオ様の作戦は、当たった。白組は、ぐんぐん点数を伸ばしていった。


 シルビオ様は、障害物リレーに出場する。


私は、最推しの姿を目に焼き付けようと気合いを入れた。シルビオ様がこの種目の間だけ譲ってくれた席は驚く程見晴らしが良かった。



 白組の指揮を執る司令官としては、グランドを見回せる眺めの良い場所に陣取る必要があるのだろう。



 パーン


 競技がスタートした。



 特訓の成果か、能力に勝る青組につかず離れずの距離で白組メンバーが健闘しているが、青組には、攻略対象者以外にも多数の当て馬キャラがいる。


 彼らが惜し気もなく投入された障害物リレーはやはり強く、じりじりと引き離されていった。やはりモブには限界か?



 アンカーのシルビオ様にたすきが渡ったときには、青組のアンカーは、最後の障害に差し掛かっていた。


 しかし、シルビオ様は諦めることなく、障害物を華麗に乗り越えながら差を縮めて行く。


 青組のアンカーが、今、最後の障害を乗り越えた。しかし、アンカーには、最後に試練がある。


 宝箱だ。


ちょうど私の目の前にある宝箱から手紙を取り出した。


 ここから手紙の指定するものを持ってきてゴールする借り物競争の要素が加わるらしい。


 青組アンカーは手紙を読んで考えこんだ。


手紙なんて書いてあるんだろう?見えそうで見えないのがもどかしい。



 シルビオ様が難なく最後の障害まで辿り着いた。素早くこなしていく。


どんどん追い上げられていく事に焦りを見せた青組アンカーは、運動場を見回し借り物を探しはじめた。



 シルビオ様が、宝箱に手を掛け手紙をとる。中を一瞥する。と、シルビオ様と目があった。


獲物を狙うように煌めく瞳に不意に心をもっていかれた。最推しとかゲームとかすべてがどうでも良くなるくらい心をぎゅうっと鷲掴みにされた。



私、この人が好き。



 今まで、気付かないふりをして、必死に蓋をしてかくしつづけていた感情が溢れ出した。


 こぼれ出した感情は、もう元に戻せそうにない。




 私を見つめたまま、走り寄ってきたシルビオ様にガシッと抱き上げられた。いつも怖いと思っていたその鋭い瞳に吸い寄せられそうだ。


 離さないで。


シルビオ様の胸にそうっとしがみついた。


 


ゴールテープを切る。場内が歓声でわーっと沸いた。



 手紙の指定するものは皆おなじで、


『生涯ずっと側にいる人』だった。



 ずっと側にいたいな。


その手紙がたまらなく愛おしくて手の中にそっとやさしく握り込んだ。



 審判に生温かい目で見られながら。OKのフラッグが上がる。


 優勝候補青組を大きく引き離して、午前の種目が終了した。




 


 恋を自覚してしまった私は、シルビオ様をもう手放せない。ヒロイン様どうかシルビオ様に会わないで。





 卑怯だけど、シルビオ様を青組に近付けないようにしよう。そう決意したマーガレットはまだ知らない。ヒロインが赤組にいることを。




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