第8話 花火大会。




学園は、今日から夏休みだ。



 クラスが違う私は見れなかったが、ヒロインはクラスでのお勉強会などを通じて攻略対象者との交流を深めたことだろう。


 だが、しかし。夏休みは、クラス固定イベントではない。ということは、覗けるチャンスがあるということ。



 いつもはランドール家の桟敷席でシルビオ様と見ているが、今年は体調不良を口実に断った。



どうしても花火大会イベントが、見たい。私は街に繰り出した。


地味モブが街に紛れる地味な格好で現れたら、目立つことはない。普通ならば…。


現在、私の隣には周りの空気すら変えてしまう程キラキラの存在がいた。



「なんだ。この私が心配して来てやったというのに、随分不満そうだな。こんなところで会うなんて随分体調が良さそうだな。」


にこやかに微笑みながら、目の奥が不穏だ。



「いえいえ、とんでもない。さっきまで、体調不良だったんですが、シルビオ様の顔を見たら元気になったような。はは。」


乾いた笑みがもれる。



 ええ、不満ですとも。


どうして、花火大会の事バレました?


 私、一切話してませんが。




 でも、ある意味これはラッキーかも。だって、一番見たかったシルビオ様とヒロインが一緒に花火を見るイベントを、間近で見るチャンスだ。



にまにまが止まらない。



「マーガレット、気持ちわるいぞ。」



そうと決まれば、腹ごしらえだ。


「シルビオ様、屋台たべましょ。」



 屋台には前世そっくりの食べ物が多い。


見た目はグロテスクな物が多いが。


 シルビオ様は、蛸足が飛び出した魔物の卵のような物に夢中だ。味はたこ焼きなんだが、緑のソース風物体に紫のマヨネーズ風物体がかかっているのが恐ろしい。



 それをにやりと嗤いながら口に運ぶシルビオ様は、古の魔王のようで絵になる。


「このたこ焼きというものは、素晴らしいな。」



 珍しく興奮しているシルビオ様が可愛くてキュンとなる。 あー。ヤバい。


うちの最推し様はいつもの怖い時でも素敵なのに、そんな表情するなんて…。




 広場のベンチに腰かける。花火はいつもの桟敷席より見にくいが、暗い広場でうち上がった花火に照らされたシルビオ様が尊い。いつもより、くだけた表情のシルビオ様にそうっともたれかかった。


 夜風で冷えた身体にシルビオ様の体温が心地いい。




 最推しの強烈な魅力に負けそうです。


ヒロインちゃん、早く来ないと手遅れになりそうです。






「げ、悪役令嬢。」


「まあ、花火大会を見にいらっしゃったの?ちょうど桟敷席に空きがあるのよ。いらっしゃい。」


「いえ、私は…。」


「遠慮なさらないで。」



ヒロインはドナドナされた。



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