第7話 新入生歓迎イベント



 


 今日は待ちに待った新入生歓迎イベントだ。この行事では新入生がふたり一組になって広い校内をスタンプラリー形式で回る。



 ヒロインは、確か悪役令嬢に意地悪をされて地図もなく、ひとりで回る羽目になる。そして、次々に攻略対象者達と出会い交流を深めていくのだ。



 二年生の攻略対象者の大切にしている植物園に紛れ込んでしまったヒロインが彼と一緒にハーブティを楽しんだり。生徒会室に迷い込んでしまったヒロイン。様子がおかしい事に気付いた生徒会長が地図とスタンプカードをくれて、内緒だよって言いながら抜け道を教えてくれたり。



 抜け道のおかげで、ヒロインは最短でゴール付近まで辿り着くんだけど。転んでケガしてしまうのよ。そこにシルビオ様のグループが通りかかるの。シルビオ様は足を挫いてしまって動かないヒロインをお姫様だっこして一緒に一位でゴールしたのよ。最推し様格好よすぎ。




 幸い私には地図がある。ヒロインの辿るであろう場所に先回りして胸キュンスチルを堪能しようではないか。


 校長の長い挨拶が終わった。ふふ。次は生徒会長ね。いよいよ。現物を拝めるわ。



 ん?


 見えない。さっきまで、校長先生の話の間眠っていた前の人達がびしっと起きてる、視界が悪い。背が低いのと、席が一番後ろなのが恨まれる。


 私も見たい。


 お願いちょっとだけでいい。見せて。



 生徒会長の姿が全く見えないまま、むなしくスタートのホイッスルが鳴る。


 私は植物園に向かうべく地図を広げた。


 北ってどっちだっけ?


 ひょいと地図が取り上げられる。



 ぬぬ…。


 高いところで、ひらひらしてる。


もしや、ここにも悪役令嬢が…?



「マーガレット、方角もわからない君に地図なんて、豚に真珠もいいところだよ。」



 なんと…。


 私の相棒は地味だが、性格が穏やかで優しいマリアちゃんだったはず。くるりと後ろを振り向くと、マリアちゃんは気になるといっていた平凡顔のレオくんと良い雰囲気ではないか。



 キラキラの笑顔のシルビオ君が私にしかわからないように口元をにやりとゆがめる。


「お邪魔虫はダメだよ、マーガレット。ふたりは良い雰囲気だからね。譲ってあげたんだよ。僕らも楽しもう。」



 後ろで、満面の笑顔のふたりが手を振ってくれる。



 こうして、一切の寄り道もなく、道なき道を通り、ぶっちぎりの一位でゴールしたのだった。


 お友達と、キャッキャウフフしながら、ヒロインを観察したかった。


 少し迷子になりながら、先輩方に助けて貰いながら、ゴールを目指したかった。





 学園史上最短記録で、ポイントラリーをクリアしたシルビオ様は伝説となった。






 その頃、ヒロインはまだスタート地点にいた。


悪役令嬢が予定通りいじめてくれない事に焦りを隠せない。



「あの、私。お腹が痛くて。先に行ってくださいませんか?地図もカードもお渡ししますから。」



「あら、そんなことおっしゃらないで。お手洗いの場所もわからないでしょ。私が、連れていって差し上げてよ。」



 シルビオ様の絡まない彼女は、ノンストレスだ。


ただただ、面倒見のいい気の良い姉御だった。


 そしてヒロインも、一切のイベントを起こすことなく悪役令嬢に連れられて恙無くゴールしたのだった。



「こんなはずじゃ。」


 ヒロインは項垂れた。


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