第3話 sideシルビオ





 私がマーガレットと出会ったのは、10才の時。




 私の婚約者を決めるお茶会だった。当時幼いながら私は自分の奥底に眠るモノの存在に苦しめられていた。




 たくさんの令嬢が私に群がる中で、彼女だけが私から離れてこちらを穏やかに見つめながら、優雅にお茶を楽しんでいた。




 そこだけが日だまりのようで、野に咲くタンポポのように飾らない彼女になんとなくひかれてしまった。


 だから、他のご令嬢達を引き連れて室内のホール移動した時、お菓子に夢中になって取り残された彼女を見つけた時は声をかけるチャンスだと思った。


 他の令嬢達に見つからないようにホールを退席し、彼女に近づいた。


 彼女は、あの穏やかな笑みを私にくれるだろうか?




 私を見た時の彼女の怯えに、私の奥底に眠る何者かの気配を勘づかれたと悟った。彼女と穏やかな関係を築きたい。そんな思いはガラガラと砕け散った。


 しかし、同時に私の奥底に眠る何者かが『捕らえろ』と叫んでいた。そうだ、どうせバレているなら、捕らえて逃げられないように囲ってしまえばいい。




 逃がさない。




 彼女を婚約者に据えて、私の屋敷に呼び出した。親切ごかして私室に連れ込んだ。



「マーガレット、君は私の正体に気付いているね。」



 かまをかけてみた。私自身も心の奥底に眠るモノの正体に気付いていないのに。




 怯えきった彼女から聞き出した内容は荒唐無稽な物語だったけど。私の奥底に眠るモノの正体については、核心をついていた。


 まさか我が家の始祖が魔王を己の魂の奥底に封印していて、まれに侯爵家の嫡男に顕れるなんて、彼女の言葉が無ければ怖くて聞けないだろう。


 後で勇気を持って祖父に確認した私は、彼女によって救われた。




 彼女に、前世の食べ物に似たものを見つけたら持ってこさせている。最初は彼女を屋敷に呼びだす口実の一つにすぎなかったのだが、心を掴まれるものが多い。



 最近は彼女が持ってきたスルメという食べ物が好みだ。



 物心付いた頃から、夢で謎の吸盤の付いた青黒くグロテスクなものを喰らうビジョンが流れていて、魘されていた。彼女がある日おずおずと「見た目がものすごくグロテスクで前世のものと違うのですが、何故か味だけは完コピなんです」と差し出してきたそれは、食べてみればなるほど美味しく、普通に買える食べ物だったんだと笑ってしまった。




 それ以来夢で魘されることはなくなった。




 彼女は私の日だまりだ。


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