ぐちゃり
計画を練ってから決行まで有したのは5日。
相談があると言ってピーマンはトマトをグリーンセンターに呼び出した。
子供向けの遊具や野菜の直売所など幅広い用途で愛されていたグリーンセンター。
国民の憩いの場である一方、前々から施設の老朽化が指摘されていた。しかし国が適切な対応を取らないまま放置し続けた結果、ターザンロープの留め具が外れて大根が事故を起こした。
その一件以降、グリーンセンターは立ち入り禁止となっている。
「ピーマン君、僕に相談というのは?」
何一つ疑うことなく付いてきたトマトに、ピーマンは呆れながらも感心した。
「実はゴーヤさんに虐められていて……来週までに10万用意しろって……」
「えぇっ!? ピーマン君とゴーヤ君は仲良しに見えたけど」
「青臭い、種が邪魔、中身がスカスカ、裏では悪口を浴びせられながら殴られてるっす」
「それは看過できないね。分かった、僕からレンコン先生に相談してみるよ」
「ありがとう。それと……ごめん」
トマトが言葉の意味を理解する前に、背後から忍び寄ったゴーヤが首を締め上げる。頸部に圧力が加わったことでトマトの体が脱力した。
「し、し、死んでる!?」
「んなわけあるか。気絶しただけだよ」
ゴーヤはトマトのポケットを探ってスマホの電源をオフにする。
「よしっ、運ぶぞ。お前はそっちを持て」
もう後戻りはできないと腹を括ったピーマンはゴーヤの指示に従う。
「バカっ! トマトの頭は柔らかいんだぞ! 潰れたらどうするんだよ!」
「ひいぃいぃっっ!」
「腕を持つんだよ」
「わ、わかったっすッ!」
半べそ状態のピーマンとゴーヤが向かったのは入口から少し奥に入った場所にある食堂。当然今は稼働していないが、人目につかないので監禁するにはもってこいだ。
トマトを床に下ろそうとしたその時、「誰っ!?」と厨房から女性の声が響いた。
予期せぬ声に驚いたピーマンは持っていた腕を離してしまい、
『グチャ──』
トマトの後頭部から嫌な音がした。
ジュクジュクとした果肉と種が床に広がる。トマトは安らかな顔をしているが死んでいるのは明らかだった。
「頭は柔らかいって忠告しただろ!」
「だ、だっていきなり声がしたから──」
責任転嫁に舵を切ったピーマンは厨房を指差す。
「ゴーヤ君にピーマン君……? どうしてこんな所に」
「お前……セロリか」
唖然とした表情で立ちすくむのは、クラスメイトでありモデルのようなスレンダーな体型が目を引くセロリだった。
「どうしましょうゴーヤさん、見られちゃいましたよ!?」
腕にしがみつくピーマンを振りほどくと、ゴーヤはブツブツと呟きながらセロリに接近する。
「見られた。殺す。殺せ。殺るしかない。一人殺ったら二人も同じだ。口封じだ」
身の危険を感じたセロリだが、逃げ出すことはしなかった。
「あなたたちは囲まれているわ」
ハッタリだとゴーヤは歩みを止めなかったが、ピーマンに背後から抱きつかれた。
「セロリの言っていることは本当っす!」
食堂の影から拳銃を手にした男女が現れる。エメラルドグリーンの髪の男や初老を迎えているであろう女性まで年齢層は様々だ。
後に引けないぶん若さで突っ切ってしまいそうになるが、それをしたら一生後悔すると本能が告げている。
「わかった」
ホールドアップの姿勢を取るとそのまま身体検査が行われる。
「食料、ナイフ、ロープ。お前たちはこの男を監禁するつもりだったのか?」
「そうだ」
間髪入れずに答えると周りがざわめきだす。
「監禁の理由は?」
「トマトの評判を落として、最下層からの眺めを見せてやるつもりだった」
「残念だったな。今頃トマトはお野菜の樹だ」
「それで俺たちをどうするんだ? このまま警察にでも突き出すのか?」
「いいや。俺たちは仲間になるんだ」
そう言って男はトマトの顔面を踏みつけた。
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