13話

「おおぅ!久しぶりだな!!コウ、シロ、ソウにリョウ!あのな!詩音は俺のだから手を出すなよっ!」


遙は生徒会役員の剣幕に戸惑い、口元を引き攣らせながらよッと手を軽く挙げて何時も通りの挨拶をする。

最後にとても大事な事を強調するように生徒会役員達を指差しながら話す遙。


「久しぶりじゃねーよっ!貴様!いったい今迄何してやがった!!」


『コウ』と呼ばれた桐ヶ谷が詰め寄る様に遙に顔を近付け、差された人差し指を握り、あらぬ方向に曲げながら声を荒らげる。


「はぁ、そうですよ……。いきなりいなくなって……、どれだけこちらが面倒事を引き受けたことか……」


悩ましくため息を吐きながら、じとりと涼し気な目元に剣呑な光をギラリと宿しながら遙に向き直る『シロ』こと月館。


「んふっ!じゃあ〜、本物の『緋鬼』が別に居るってことは、詩音きゅんは裏表が無い本物の天使って事だねっ!皆〜、賭けは俺の一人勝ちだね〜!!」


桐ヶ谷の肩に腕を回し、勝ち誇った笑みで謎の『賭け』の勝敗を生徒会役員達にかなりご機嫌に瞳を輝かせながら告げる『ソウ』と呼ばれた鳴滝。

あまりにご機嫌過ぎて、じとりと鳴滝を睨み付ける桐ヶ谷にパチリとウインクをする。


周りのチワワ達から歓声が上がり、「『俺様会長×チャラ男会計』俺得過ぎる!」と何処かで叫ぶ声が聞こえる。かなり激しくカメラのシャター音も聴こえる。

ある属性を持つ方たちから熱烈な支持を受ける二人組だ。


そして何故か「詩音きゅん」と呼び名が変わっている。

忠告するならば会計よ、君はボロ負けだ。人を見る目がなさ過ぎるが、強く生きてくれ。


「悔しい。『緋鬼』、いまさら」


普段表情を変えない『リョウ』と呼ばれた柏木が、遙を見下げつつ眉間にシワを寄せ舌打ちをしながら、たどどしく吐き捨てる。


同窓会よろしく状態で遙を生徒会役員達で囲み、わちゃわちゃ会話をし始める。


詩音はその光景を見ながらチャンスだと閃いた。


横に座る黒瀬は遙や生徒会役員達を訝しく見つめているため、そんな黒瀬を視線に捉えながら、先程からテーブルに置かれっぱなしにしてある黒瀬のスマホをスススっと手に取る。


机の下に隠しながら思いっきりそのスマホを握り潰す。


『しぐれ』の鉄板持ちギャグは『ビッグバン!』と言いながら林檎を片手で粉々に潰すことだ。


しかし、画面は割れたが、まだ不安があった詩音は念の為スマホを足元に落とす。

再び思いっきり踏みつけ、スマホを完全に破壊した。

そのままその足で、生徒会御一行の足元にスマホのシュートを決める。


さらば、黒瀬のスマホ。

『しぐれ』は心の中で黒瀬のスマホにビシッと敬礼した。


幸いなことにスマホを潰す音はチワワの歓声で聞こえておらず、黒瀬はずっと生徒会+遙に視線を向けている。


気分晴れやかな詩音はにこにこと笑みを溢しながら速やかに着席し、食堂のタブレット端末で本日のA定食「鯖の塩焼き定食」を注文した。


まだ後方で揉めている様な生徒会役員+遙の煩い話し声が聞こえるが詩音は無視して、机の下で『キヨ』にLineeを送った。


『今日、特上の刺し身持って部屋集合!!』


『しぐれ』は今日は刺し身を肴に秘蔵の大吟醸酒でやけ酒をしようと決めた。

光の速さで『キヨ』から来た返信を既読無視して、

『しぐれ』は「鯖の塩焼き定食」の到着を心待ちにした。 


翼と詩音は生徒会役員が来てから1言も発していない。



生徒会⁺遙が仲睦まじくワイワイ会話をしている間もチワワ達が騒ぎ立てるために、ついに風紀委員長が駆けつける事態となってしまった。


「おいっ!生徒会!さっさと上の席に移動しろ!そこの赤いのも連れてな!これ以上騒ぎを起こすのなら風紀としても毅然と対応させてもらう!」


風紀委員長の『冷水 和海ひやみず かずみ』が、生徒会役員達の目の前に立ちはだかり、しっしっと手で追い払う仕草をする。

風紀委員長の姿が食堂に現れた途端にチワワ達も口を噤み、ヒソヒソ声だけが聞こえる。


生徒会役員達は全員が冷水を睨み付け、舌打ちをする


ある属性の方は生徒会会長である桐ヶ谷と風紀委員長冷水の睨み合いをシャターを鼻息荒く連続で切っている。

生徒会会長桐ヶ谷の多方面での人気が伊達じゃないことがわかる。掛け算は右、左組み合わせ無限大である。


すると空気を読まない男である遙が、突然堰を切ったように大声で笑い出しながら冷水を指差す。


「ぶははははっ!何でカズは眼鏡なんかかけてんだよっ?!真面目かっ?!」


冷水はシルバーフレームの眼鏡を掛けた黒髪短髪の通称「鬼畜メガネ」と言われる程、風紀委員長として日夜厳しく取締りをしている男だ。

副風紀委員長の黒瀬とは正反対の性格で、冗談など通じない。


眼鏡がキラリと光り、眼光鋭く無言で遙を睨めつける冷水。

ただならぬオーラを纏い始めた冷水に周りにいる生徒会役員達が真顔で冷や汗を浮かべながら、あからさまに視線を遙と風紀委員長から外す。


「おい。『緋鬼』。お前は、コイツラと仲間だろう。さっさとどっかへ行け!そして、俺は元から真面目だっ!」

「ぶっ!クロとカズなんて1番ヤバイことしてただろ!俺は忘れないからな!あの――」

「あ゙ぁあ゙ー!!遙クンやったっけ?お兄さんがご飯奢ってあげるから、あそこにほな行こかー!!」

「おい!いきなりなんだよっ!あっ?!これ何だ?!」


あからさまに慌てて遙の肩を持ちグイグイと、2階席に連れて行こうとする黒瀬。

怪訝そうな顔を黒瀬に向ける遙。すると足元にある何かを黒瀬が身体を押してくるためにバランスを崩した拍子に勢い余って踏んづけてしまう。

バキッとよろしくない音が遙の耳に届く。

遙がついていないな……と思い視線を落とすと、スマホが粉々になっている。


「なあ゙ぁー!!!!」


黒瀬が粉々になったスマホを齧り付くように、目にも留まらぬ速さで拾い上げる。


「俺の詩音ちゃんの写真がぁー!!!アレが唯一の手掛かりだったのにー!!」


そして、涙目でスマホを抱え悔しげに叫んでいる。


黒瀬の絶叫を聞きながら詩音は「鯖の塩焼き」の小骨を無心に取っている。

思わず口の端が引き上がるが、これは鯖の塩焼きの小骨がスルスルと綺麗に取れたからだ。

詩音は小骨は最初に全部取りきるタイプである。


その後、遙と黒瀬の言い争う声が食堂に響き渡り、再び風紀委員長である冷水の怒号が食堂を一瞬の内に静かにさせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る