12話
サラリとした緋色の髪は白い肌に良く映え、女の子と見間違える程のぱっちりした瞳。その周りを長い睫毛が囲む。小さな薄桃色の唇からは耳を疑う様な言動しか出ない。黙っていれば華奢な体躯と相まって美少女と間違えられてもおかしくない。
『しぐれ』は呆然と目の前に現れた『緋鬼』と名乗った遙を見つめる。
「ち、違うんだ!俺から『クロ』って言い出し訳じゃない!周りが勝手に言い出して……、信じて……、詩音ちゃん!」
突然、黒瀬が声を震わせ、顔を蒼白にさせながら詩音に言い訳のように言い募る。
『しぐれ』は何故こいつはいきなり自分にだけ言い訳をしたのだろう?と不思議に思い黒瀬に視線をむける。
すると黒瀬はビクッと身体を揺らし顔面蒼白で顔を強張らせながら何かに怯えている。
彼の恐怖に満ちて強張った顔を見つめながら『しぐれ』は、こいつやっぱり似非関西弁だったんだなと思いつつ、あからさまに怯えている姿に心が痛む。
「副風紀委員長様は『トラ』さんですよね?」
ふわりと微笑みながら子供をあやすように穏やかな声で黒瀬に声をかける詩音。
「!!、詩音ちゃん……、ありがとう」
はっと目を大きく見開いた黒瀬は泣き出しそうな顔で微笑みながら詩音にお礼を口にする。
遙はそんなやり取りをし始めた2人の間をあからさまに視線を右往左往させ、困惑している様子だ。
じっとそんな遙を見つめ、詩音は緋色の髪の毛にそっと手を伸ばす。
「遙?助けてくれてありがとう!とっても綺麗な赤い髪……。遥に似合ってるね!」
頭を撫でながら、遙が助けてくれたことが嬉しくてゆるゆると頬を緩ませながら口を開く詩音。
「詩音……」
ポーッと熱の篭った瞳と声を詩音に向ける遙。
そんな遙を見てにっこり笑みを深める詩音。
「お腹空いたよね?皆で仲良く一緒にご飯食べよ?」
頭を撫でていた手を止め、遙の手を取りコテッと小首を傾げた詩音が自分の席の左隣の席に座らせる。
そしてくるりと向きをかえて黒瀬に向き直り、笑顔で黒瀬も食事に誘おうとした詩音。
次の瞬間、食堂全体が揺れる程のざわめきが起こる。
多分に嫌な予感しかしない『しぐれ』は直ぐ様食堂の入り口に顔ごと向ける。
徐々に騒がしくなる食堂。チワワ達の黄色い歓声や野太い声で雄叫びのような低い声の歓声。
その歓声の中心にいるであろう、この学園における絶対的権力者集団である生徒会御一行。
隣に腰掛ける黒瀬があからさまに不機嫌になり舌打ちをする。空気の様に全く存在感が皆無だった翼も同様に険しい表情で舌打ちをする。
遙は何が起きているのかわからないため、詩音に大声で聞いてくる。
「はぁ!何なんだよ?!この煩いのは?!おい、詩音?!」
そんな遙の大きな質問の声をどこか遠くに聞きながら、『しぐれ』はこの学園で1番初めに詩音に『緋鬼』の話をしてきたある男を思い浮かべた。
そして、これから起こるだろう地獄絵図のような混沌とした展開にこのまま気を失ってしまいたいと再び神に祈った。
都合の良い神はいない。
『しぐれ』はそれを理解し今日、1つ賢く大人になった。
迫りくる様に段々と大きくなるチワワ達の甲高い歓声。
モーゼの如く人々が両脇に避け道を開けるために、彼等がこのテーブルに向かって進んで来ている事実が嫌でも視界に入る。
逃げ場は無い。
しかも隣には『緋鬼』と『クロ』がお行儀良く座り、彼等がこのテーブルに近付いて来ているのに回避する動きすらみせない。
只々呆然となすすべ無く近付いて来ている脅威を見続けることしかできない詩音。
ついに脅威が詩音の元へ辿り着く。
詩音にこの学園で初めて『緋鬼』の話をした男。
そう生徒会会長『
圧倒的な王者のオーラを放ちながら詩音から黒瀬に視線を移しながら口を開いた。
「詩音?何でソイツといる?風紀の奴等といると穢れるぞ?」
ざわめいた食堂が桐ヶ谷が不機嫌な低い声を発した途端にシーンと波が一気に引くように凪いだ。
「あんなぁ?ば会長?詩音ちゃんは俺と仲良くしたいんやって〜!」
にやりと笑みを浮かべた黒瀬が弾んだ声で詩音の代わりに答える。そして見せつけるかの如くポンっと詩音の肩に手を乗せる。
「何言っているんですかっ?!私の詩音はお前なんかと仲良くなりませんよっ?!」
副会長である『
そして黒瀬に触れた手をハンカチでフキフキしている。
普段は笑顔を絶やさない大和撫子なのだが、詩音の事になるとヒステリックに声を荒らげるのは何故だろうか。
黒瀬もそれを知っているので揶揄いがいがあるとばかりにニヤニヤした笑みで月館に視線を送る。
「そうだよ〜!あんな似非関西弁野郎なんかといたら、詩音ちゃんの可愛いお耳が腐っちゃうよ〜?
あれっ?!詩音ちゃん泣いたっ?!お目々が真っ赤だよっ?!」
流れるように自然と詩音の頬に手を添え、至近距離に顔を近付けて覗き込むのは緩い話し方通りの下半身も緩めな生徒会会計の『
親衛隊のチワワを毎日ローテーションを組んで性生活を送っていたが最近はローテーション制は廃止されたと噂がある。真偽は不明。
「近い。ダメ」
鳴滝の顔を詩音から引き剥がすように、鳴滝を後ろから羽交い締めしつつ詩音から距離を取らせる、書記の『
柏木の身長が高く体格差があるため、鳴滝はされるがままにズルズルと詩音から引き離される。
「その隙に」「じゃあ、僕達が!」
「「詩音ちゃん。ぎゅーっしよ?」」
庶務の一卵性双生児のそっくりな2人『
そっくりな2人なために考えている事が同じなのか交互に喋る事が多い。
『しぐれ』はどっちが海瑠か藍瑠の見分ける事はできないし見分ける気も無い。只々、交互に話し掛けるのを鬱陶しいと思っているだけだ。その為基本的に愛想笑いしか返さない。
詩音が愛想笑いを浮かべて1言も話さないまま、事態が進んで行く。
「おいっ!俺の詩音に触るなよっ?!カイとアイだろお前ら?!」
この集団に見つかったらヤバイと思っていたのか、机のシミでも数えていた如く大人しく俯いていた遙だったが、詩音が抱き締められている状況に耐えられず声を上げる。
因みに黒瀬は月館、桐ヶ谷と睨み合いながらボソボソと何事かを言い合っている。
突然怒鳴られ、引き剥がされた双子の2人。可愛らしい童顔な顔を見事に歪ませながら舌打ちをし、引き剥がした犯人を睨み付ける。
「「あっ!『緋鬼』だー!!」」
「「「「はぁっ?!『緋鬼』?!」」」」
双子が叫びだすと、他の生徒会役員全員が遙に鋭い視線を集め驚嘆の声を上げた。
『しぐれ』はまだ1言も発していない。
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