7、救助活動、ちょっと待て
おれたちはおしゃぶりちゃんの体の下に手をさしいれて合羽の前をぷちぷち開けると、Tシャツの上から右の胸と左の胸を同時にむんずと掴んだ。そして、目を閉じ、厳かにひと揉み、ふた揉みした。合羽を着ていたとはいえ、服はそれなりに濡れていて、その湿り気具合がまた背徳感を誘った。生地の上からでも、他では知りえないやわらかいふくらみが十分すぎるほど感じ取れた。
生肌に触れたいと思ったが、彼女が死んでいるかもしれない可能性を思って、それ以上することはためらわれた。おれたちは互いの顔を見合わせてゆっくり手を離し、今起きたことをなかったことにした。おしゃぶりちゃんはおっぱいはそれほど大きくはなかった。心臓の鼓動についてはよくわからなかった。
「た、たち、け、て。ちんちん、いたい」
スネ夫がめそめそ泣きながら助けを求めた。おれたちは救急車を呼ぼうとしたが、この状況をどう説明したらいいかわからなかった。それに何か責任を問われるような気がして怖かった。だからといって、119番だけして姿をくらますのもまた、スネ夫やおしゃぶりちゃんに後々責められる気がしたし、一命をとりとめたスネ夫に訴えられるということも十分考えられた。
携帯を持ってるのは村上だけだったが、やつは119番にかける決心がつかないようだった。おれたちはどうするどうすると無駄におたおたした挙げ句、閉鎖された建物の裏手にあったリヤカーのことを思い出した。スネ夫とおしゃぶりちゃんをそれに乗せて病院まで運んでいくのだ。駅の方へ少し戻ったところに大きい病院があることは知っていたし、救急車を呼ぶよりその方が早いようにも思えた。
おれたちは慌てて奥からリヤカーを引っ張り出してきた。かなりぼろかったが、サイズはそれなりに大きく、人ふたりを乗せるにはちょうどよかった。荷台はびしょ濡れで底板が一部欠けたり割れたりしていたが、タイヤがパンクしてないだけましだった。
なるべく衝撃を与えないように二人を動かすのは至難の技だった。うっかり引き離してしまうと、ぽこちんが完全に千切れてしまうからだ。そうなったら元も子もない。そうならないためには、高校生二人を一度に持ち上げ、かつ密着させたまま移動させなければならなかったが、おれと村上は力を合わせてそれを可能にした。それでも少しも衝撃を与えないなんてことはできなくて、スネ夫はひゃっ、ひゃっと何度か短い悲鳴をあげたりした。おしゃぶりちゃんは運動部の部室の床に何年も敷いてあるマットレスみたいに何をされても何の反応も示さなかった。おれはどさくさに紛れておしゃぶりちゃんのおっぱいをもう一度揉み、お尻にも触ったが、口でしてもらえなくなったのだからこれくらいは許されるはずだった。三千円はもう払ってしまっていたのだ。
おれと村上は協力してリヤカーで移動をはじめた。おれが前で引き、村上が後ろから押した。雨風はまさにピークにさしかかっていて、雨粒が体に当たってばつばつ音を立て、痛みを感じるほどだった。叩きつけるような風に木々はみしみしと軋り、いつまた折れた枝や何かが飛んでくるともしれない恐怖があった。雨具なしのおれは服を着たままプールに飛び込んだみたいに全身ずぶ濡れになっていた。
閉鎖された施設の前を通る道は簡易舗装されてはいるものの、木の根が露出しているところがあったりしてかなり歪んだ路面になっていた。タイヤが凹みに取られて揺れるたびにスネ夫が荷台でひんひんいうので、おれは苛立ち、いっそ殴って気絶させてやろうかと思ったくらいだった。
「おい、待て!」
もっときちんと舗装された平らな道路まであと少しという辺りで、村上が後ろから声をかけてきた。
「待てって!」
なんだよとリヤカーを止めて振り返る。村上はどこか怯えた様子でそこそこ、そこを見てみろと顎で荷台を指した。
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