第五十八話 サプライズ

「わかりましたか?」


 翌朝、Xに呼び出された。

 すでに答えが出ていた僕は、答える。


「はい。まず僕は、嗅覚があまりよくないんです。だからこそ、どこかが強化されていると考えました」


「……」


 Xは静かに目をつぶって聞いている。


「強化されている感覚はおそらく……触覚です」


「どうしてそう思うの?」


 当然の疑問が飛んでくる。


「相手の動きを読めたからです」


「それと触覚がどう関係しているの?」


「空気です。僕は肌に触れる空気の流れを読んでいるんです」


「空気……ね」


「途中、服がボロボロになっていくにつれて、相手の動きがよくわかるようになりました。それはきっと、空気を感じやすくなったからです」


 ここまでが、僕が導き出した答え。

 だが、能力については推測だ。

 間違っている可能性もある。

 どこをツッコまれるかわからない。

 僕は、そっとXの顔色を窺う。


 すると、彼女は目を開き、拍手をした。


「素晴らしいわ! さすが私が見込んだだけあるわね!」


「……どうですか? あってます?」


 褒められたってことは……。


「知らないわよ」


「へ?」


 真顔でそう言われ、戸惑う。


「あなたの能力なんだから、あなたにしかわからないの。いくら私が天才だからって、こればっかりはお手上げよ」


「……」


 そりゃ……そうなんだけど。

 なんか、モヤモヤするな。


「大事なのは、自覚することよ。知らないものはわからない。知っていれば、さらに理解を深めることだってできるの」


「……」


 やっぱり、Xは一見めちゃくちゃだが……核心をついている。


「これから、いつか来る決戦のときに備えて力を磨きなさい」


「……はい」


 もっと修行して、力をうまく使えるようにするんだ。

 頑張ろう。


 と、僕が意気込んでいると彼女はこんなことを言い出した。


「見事私の出した仕事をこなしたあなたには、特別なご褒美を用意したわ。ついてきなさい」


「ええ?」


――――――――――


「ここは……」


 お城の一室。

 舞踏会でもやっていそうなほど、広くてきらきらしている大広間……なのだが、今は薄暗い。

 カーテンは締め切られ、仄かな明かりだけが部屋全体をぼんやりと照らしている。

 こんなところに何の用だろうか。

 それに、ご褒美って?


「さあ、ここに座って?」


「あ、はい……」


 な、なんだ?

 導かれたのは大きなテーブル。

 豪華な玉座まである。

 そこに、座るように促される。


「それでは、今から鈴木様を祝うパーティーを始めさせていただきます」


 執事の人が、司会を始めた。


「……???」


 なになになに。

 マジで意味わかんないぞ?

 あー……昇進祝いみたいな?


「まず初めに、特別ゲストのご入場です」


 特別ゲスト???

 芸能人でも来るのか?


 スポットライトが、ドアを照らす。

 そこから誰が来るのかをじっと見ていると、突然開いた。


「鈴木さん、おめでとうございます!!!」


「あ……え!?」


 現れたのは、懐かしい五人だった。

 みんな花束を持っている。


「な……んで、君達が!?」


 僕が困惑していると、五人は僕に近寄ってきて、順番に花束を渡していく。


「そんなことは後でクスちゃんにでも聞いてくださいませ」


「それより、ごちそう食べようぜ!」


「そうそう、あたしらはそのために来たからな!」


「あう~!!」


「あ、はは……!」


 ごちそうにつられて来たのか。

 なんだ、僕のためじゃないのか。

 いや、もうそれでも嬉しいや。

 また会えたんだから。


「あっ、おい! 鈴木泣くなって!」


「冗談ですよ、ごちそうのためってのは!」


「俺のごちそう分けてあげるから、泣くなよ!」


「ほら、このハンカチで涙を拭いてくださいませ!」


「うぅ〜!」


 みんな優しいなぁ。

 オーくんも、頭を撫でてくれる。

 でも、これは嬉し泣きだから心配しないで。


「みんな、ありがとう!」

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