INTER MISSION01:新ボディ選定(2)
赤茶けた荒野に、影すら落とさず。2機の航空機が空を切り裂いていく。
全長は10m、平均して13~15m前後のAMを単機では格納出来ない。
しかし、
何より、仮想敵であるオークタイプから逃げ切れる速度があるのが頼もしい。
「しかし、本当に見えないなぁ……」
コンツェルト・ヘッド、レイブ・ボディ。そしてオーク・レッグ。貧弱すぎる上半身に見合わない、がっしりとした下半身のAMを駆りながらディサイドは小さな声で呟いた。
『はい、輸送力を犠牲に。速度とステルス性に特化してますから!』
モニターの向こうで、ブロッサムストームが胸を張る。光学ステルスで青空に溶け込んだ2機の輸送機とは対照的に、彼女の駆る桃色の愛機は青い空にその姿をくっきりと刻んでいる。
『この輸送機、ユニティで正式に登録されたものですか?』
ブロッサムストームのちょうど隣に、いつもより無表情なアイリスの姿が現れる。
桃色の印象が強いツインテールのブロッサムストーム、青色の印象が強いポニーテールのアイリスは対照的に。赤い荒野と無機質なインターフェイスが広がる画面は華やかだ。
もっとも、見て分かるレベルで不機嫌なアイリスの態度に。ディサイドのテンションは削られて、それを愛でるどころではないのだけれど。
『レイリーの小型輸送機と、ライテックの光学ステルスを組み込んだものですよ?』
確かに、ライテックが光学ステルス系の技術を持っていることは調べればわかる。ただし位相ヴァルター機関と組み合わせると。その効果は格段に落ちることもあり実戦で使われることは稀だ。
無論、位相ヴァルター機関を搭載しない
出力面で位相ヴァルター機関搭載兵器が、通常兵器を圧倒的に凌駕する以上。ステルスを搭載した兵器の効果はどうしても限定的になってしまう。
『まぁ、1機辺り1万CASH。その上で正面戦闘では役に立たないのは難点ですが』
実際緊急時にしか使いどころがない。高速ステルス輸送機なんて代物に1万CASHという価格は割高感がある。偵察等の用途に用いるなら、もっと安いドローンを使い捨てにした方がコスパは良い。
だからといってステルス性能のない通常の輸送機の場合。襲撃を受けた時のリスクが無視できない。高価な財産でもあるAMのボディやレッグを輸送する以上、それなりの備えは必要だ。
『だからといって、無いと困る。その上で維持コストを考えると……』
画面の中でアイリスの顔が、少しだけ緩む。破天荒な言動を行っているブロッサムストームの目的がようやく理解できたのだろう。ディサイドとしてはステルス輸送機を用意された時点で薄々気づいていたが。
ブロッサムストームを警戒していたアイリスは、少し思考の迷路に迷い込んでしまっていたらしい。まぁディサイドだってアイリスにモーションをかけてくるイケメンがいたら、今の同じくらいには警戒するだろう。
「ああ、成程…… 俺にも使わせてくれる代わりにって」
『はい、それより一歩踏み込んで共同保有者になって欲しいと思ってます!』
確かに、共同保有という形にして。互いに必要な時に使えるようにしておけば。安いランニングコストでいざという時のリカバリー手段を得られる。無論敵対した場合を含め条件を詰める必要はあるが一考に値する提案だと思えた。
『……ああ、だから体の関係を持とうと?』
『はい、一度寝てしまえば案外情というものは深くなるものですから』
「それだけで、体を安売りするのはどうかと思うんだがなぁ」
もしブロッサムストーむとそういう関係になっていれば、確かに彼女に有利な方向でなぁなぁの契約を結んでしまったかもしれない。無論アイリスがいる以上、そういう事にはならないのだが。
まだディサイドは、アイリスに恩を返す返さないの以前に。彼女の過去を何も知らないのだから。肉体を持たないAIでありながら、
他人と深い関係になるより先にまず、ずっと隣にいた
『まぁ、ディサイド君を味見したかった方が動機としては大きい位ですね』
随分と好意を向けられているとは思う。特に子孫を望むわけでもなく。ただ互いの関係を深めるために互いの熱を紡ぐ営みに興味が無いと言えばウソになるが。それはそれとして、アイリスのことを放って飛びつくほどにはのぼせていない。
『……
『失礼な、ここ1年異性同性含め同じ床で過ごしてはいませんよ?』
想像よりも対象範囲が広くて、少し驚く。その上で男女問わずそういう関係になるような事をしていれば。腫物のように扱われているのも納得だ。いやむしろ仕事を選ばない所と合わせて、村八分になっていない辺り世渡りが上手いのかもしれない。
『そもそも、そういう関係を持つときは1対1が基本……』
『どうしました、ブロッサムストーム? 二股をしていた経験が?』
目を細めたアイリスからの、冷ややかなツッコミに対し。ブロッサムストームは暫くウンウンとモニターの向こうで唸ってから。
『……同意の上での複数人での
なんてことを申し訳なさそうに口にされ、流石に数秒ほど答えに困ってしまう。
「……まぁ、全員が納得しているなら?」
『
『そこに関しては反論します! 気持ちよくなりたいという1点で純粋でした!』
あまりにも明け透けで、下世話を煮詰めたような発言であったとしても。ここまで爽やかに言い切ると、一周半回って変な色気を感じてしまう。
『ええ、訂正しましょう。純度100%の脳内ピンクです!』
『なんとぉ! そもそも人間の脳味噌なんてものは、大体桃色なんです!』
モニターの向こうで、アイリスとブロッサムストームが姦しいキャットトークファイトを開始する。倫理的に攻めていくアイリスを、ブロッサムストームが奔放な感性から繰り出されるトンチキワードで押し返すという状況がしばらく続いて――
「二人とも、なんか変な気分になって来たから止めてくれないか?」
流石に知り合いの女性2人が、猥談を含めた口喧嘩を10分以上も続けられると。絶妙になんとも言えない気持ちになる。たぶん、双方ともに本気でヒートアップしていないのは分かる、じゃれ合いの範疇だ。
それはそれとして疎開感と、むらむらには届かない居た堪れなさが募ってしまう。
『変な気分とは何ですか、
『あー、成程ちょっと興奮しちゃったとかそういう?』
「70%居心地が悪いって話だ。ブロッサムストーム」
いや、そういう気持ちが無いと言えばウソになるが。それを口にするとさらに面倒な事態に陥ってしまう事は男女経験が少ない、というか物理的に皆無なディサイドでも理解出来る。
『まぁ
『じゃあ、健全な方法で発散すれば良いのです。私と2人で』
『黙りなさい、飛んで戦う
再びキャットトークファイトが始まるのかとため息を付きそうになるが、ナビゲーションシステムが目的地の10km圏内に入ったことを通知してくる。
「二人とも、あと少しで到着なんだから…… なんだ、落ち着いてくれ」
『……まぁ、
『確かに、ゲッカおじさんに聞かれると眉を―― いやひそめる眉はありませんが』
目的地はユニティ自治区のゲッカ・シュラーク。ディサイド自身、それなりに世話になっているし、大破したコンツェルト・ボディの修理もやれるだけの技術力はありそうな気がする。
勿論、ディサイドにはハード系の知識はなく。ブロッサムストームも運が良ければと言っていたが。
それはそれとしてこれまで一緒に戦って来たコンツェルトのボディに対し。修理できるのなら、そうしたいと思える程度の愛着はディサイドにもあるのだった。
◇◇◇Are you on good terms enough to quarrel?◇◇◇
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