MISSION10:モカ・マーフ捜索任務(9)
あれからのことは、あまりにも目まぐるしく状況が流れていった。
ニアド・ラックを気絶させた直後、数秒程度の沈黙。レーダー上に現れたライテック社の広域戦略機動部隊の登場。襲撃部隊の撤退。
雨の中で、少年に抱きつかれ、そのまま街に戻ってアイリスと共に酒場で騒いで、歌って、飲みはしなかったが、踊って気づけば朝日が昇り。
そのまま徹夜でガンガンと響く頭痛を、酒場の机に突っ伏し眠って誤魔化して。
どうにか動けるようになったのは昼を過ぎてから。雨上がりのジャンクみたいな町中を、ナンデーナから受け取った50CASHの貴金属を片手に進んで。
昨日と同じ墓地まで辿り着いたのは、時計が15時を回ってしまっていた。
「はい、こちらが155番さんの遺伝子サンプルになります」
墓地の端に立つ建屋差し込む、雨上がりの爽やかな午後の日の光を反射して。キラキラと輝くアクリル板を、ディサイドは墓守の少女から受け取った。
50CASHと引き換えに受け取った、父親がかつて存在していた証拠は。想像していたよりもずっと小さくて。
片手に収まるアクリル板に、生体組織の一部と遺体の画像が記録されている。その事実がどうにも言えない不思議な気持ちを、胸の中に芽生えさせる。
「一応、中身を確認させてもらっても?」
「あ、はい。けど傭兵さんが探している人と違ったら……」
「それでも、ちゃんとしたデータならその対価は払うよ」
対価の50CASHのインゴットを机において、ディサイドは腕に巻きつけた端末とアイリスが入ったデータストレージをリンクさせて、サンプルにカメラを向ける。
数秒後、いくつかの画像が普段使いのタブレット端末の画面に画面に表示された。
(今のディサイドと同じ服ですね)
「……骨格からの、復元画像もあるのか」
タブレット端末に映し出された画像の中の父親は、記憶より無表情で。まるで別人みたいだなとどうでもいい事を思い浮かべてしまう。
(遺伝子情報の照合も完了しました)
(……そんなに早く、できるものなのか?)
アイリスからの
時間にして1分弱、詳しい時間は知らないが随分と短い。いや、そもそもモカ・マーフの遺伝子を何と照合したのだろうか?
(はい、後で専門機関での解析は必要ですが……)
遺伝子の型やなんやらやローカスとか、アリールなんて聞きなれない単語が画面を流れ、それらが何となくグラフィカルに整理され。最終的にこのサンプルとディサイドの遺伝子情報が近似しているしている旨の内容がタブレット端末に示される。
(
「そう、かぁ……」
モカ・マーフの、いや自分を育ててくれた父親との間に。生物学的なつながりがあるという事実は、ディサイドの心の中に思いのほか大きな感情を生み出した。
血のつながりなんて言葉は、人工子宮が普遍化した時点で意味を失った。生物学的なつながりなんて世代を3つ超えれば有意なものは消えてなくなる。そもそもミームを残すのならばネットワークに自分を刻めばいい。
けれど、それでも。
ディサイドがその本質を理解しきる前に、勝手に荒野であっさりと命を終えた父親との間に。確かなつながりがあったということが、どうしようもなく無視出来ない。
(……けど、なんで俺の遺伝子情報のデータがあるんだ。アイリス?)
(割と、
まぁ、実際に死ぬような真似をしているので何も言えない。いや別に死にたがりなつもりはないのだけれども。ただ思うがままに生きようとすると、どうにも生死のラインの上を走り抜ける羽目になるだけで。
「傭兵さんは……」
おそるおそる、墓守の少女が話しかけてくる。
「ん、あぁ。ちょっと感極まってた。ゃんと料金は支払う。ありがとう」
確かに、アイリスの
「あ、はい。それでは頂きます」
ディサイドは机の上においてあるインゴットを、墓守の少女に差し出す。やっていることの手間を考えれば随分と安い気もするが。この街の経済規模を考えるとこれくらいでも生活に問題はないというのも理解出来る。
しかしそれはそれとして、墓守の少女の視線が胸元に。正確にはアイリスの入ったデータストレージに注がれているのが少し気になった。
「なにか、気になることが?」
「あの、その…… 大したことじゃないんですけど」
少しだけ申し訳なさそうに、けれどどこか懐かしそうに――
「……やっぱり、傭兵さんは。首飾りのお兄さんだったんだなぁって」
そんな言葉を口にした。
「ああ、確かに。昔、この街でそんな風に呼ばれていたこともあったなぁ」
首飾り、たぶんそれは。生まれて初めて他人から与えられた呼び名だった。まぁ未登録市民なんてものには番号も、名前もないのが普通であって。他人と違う部分が、そのまま呼び名になっていく。
「私のことは、おぼえてる?」
「ピンク色の髪をした子は、何人か記憶にあるけどなぁ……」
名前もない、番号もない、呼び名もあやふや。そもそもあの頃の自分にとってはアイリス以外に信頼できる他人なんていなかった。ギリギリ信用出来る相手は居なくもなかったけれど――
「なぁ、墓守さん。その子の父親は――」
「ジャンク漁りの最中に、事故にあっちゃって。今は向こうの方」
あっけらかんと、墓守の少女は窓の外に広がる墓地に目を向ける。言われなくても、予想は出来ていた。幼い母親と子供が、墓守として生きているのならその父親がどこにいるのかなんて考えるまでもない。
「何か、遺品は残ってないか?」
別に、この世界に運命じみたものがあるとは思っていない。アグラインがディサイドに目を付けたのも。そしてディサイドが彼の探していたモカ・マーフの息子だったのも。偏った選択肢が偶然の確率を上げた結果に過ぎない。
「えぇっと、あんまり重い物は残してないけど……」
墓守の少女は、日用雑貨が詰め込まれた棚の中から。一抱え程の箱を持ってくる。中に入っているものは、どれもこれも価値のないジャンクの類だった。誰も買い取らない、子供がカッコいいものを集めて並べたような代物ばかり。
「ああ、そうか」
顔も思い出せない、声もあやふやだ。ただこのジャンクには見覚えがあって。
「あいつは、もう居ないけど……」
それを誇らしげにカッコいいだろうと、誇っていた隣人の記憶は確かにディサイドの脳裏によみがえり。そのままベビーベッドで、すやすやと寝息を立てる桃色の髪をした赤子に目を向ける。
「子供、なんだよな」
運命なんてものは、たぶんこの世に存在しない。もしそんなものがあるのならアグラインは、モカ・マーフと再会できていただろうし。ディサイドだって、名前も、番号もなく。けれど子供みたいにジャンクを誇った彼と再会出来た筈だ。
「ああ、よかった。首飾りのお兄ちゃんは。あの人のこと、忘れてなかったんだ」
「10%は友達だって言えるような仲だったからな」
だが、それでも。こんな風に繋がることはある。
それがたぶん、生きるという事なのだろう。
(まぁそれはそれとして、コンツェルトのボディは大破しているんですがね)
(……もう少し、もう少しだけ現実逃避に浸らせてくれてもいいだろう!?)
まぁ、当然。世界は綺麗事だけで出来ている訳もなく。ニアド・ラックに叩き潰されたコンツェルトのボディは修復の目途は経っていない。貯金を切り崩すなり、雑なアセンのAMで無理に依頼をこなす必要があるだろう。
けれど、その上で。まだ名前もない故郷。目の前の少女。あるいはレイブを駆った少年。この街をここまで大きくした大人たち。そして目の前ですやすやと眠る子供。ついでに、
そう言い切れる程度には、ディサイドの心と。窓の向こうの空は晴れ渡っていた。
□□□―――RESULT―――□□□
MISSIONRANK:A
MISSIONRANK:S++
整備費:-5000CASH
弾薬費:-1000CASH
諸経費:-1000CASH
依頼報酬:30000CASH
依頼報酬:1CASH
収支合計:23001CASH
□□□―――STATUS―――□□□
ユニティ登録番号:個人情報により非開示
ユニティ登録名称:ディサイド
所属:傭兵組合
傭兵登録番号:0874
性別:男
年齢:18
総資産:140491CASH
・所持スキル
AM操縦免許
傭兵免許
基礎電脳操作技師
読書家
・コネクション
No.7787:ニアド・ラック
No.0666:ブロッサムストーム
No.0278:ジャック
未登録傭兵:ヤンスド・ナンデーナ
ユニティ自治区:ゲッカ・シュラーク
ユニティ自治区:名称未定≪NEW≫
ブルーレイリー社:リリル・レイリー
ライテック社アキダリア支部:アグライン
・実績
オリンポス杯完走
・保有装備
ウェポン:
ウェポン:
ウェポン:
ウェポン:
ウェポン:推定超高出力レーザー砲(未鑑定)×1
ウェポン:
ウェポン:
ウェポン:
ウェポン:対ビームコーティングマント(ノンブランド)×1
ウェポン:シールドユニット(ノンブランド)×2
・メインAMアセンブル
ヘッド:コンツェルト(ライテック社)
ボディ:コンツェルト(ライテック社)(大破、修理不能)
レッグ:コンツェルト(ライテック社)
・予備パーツ
ヘッド:レイヴ(ライテック社)×4《NEW》
ヘッド:オーガ(マグガイン社)×2《NEW》
ボディ:レイヴ(ライテック社)×2《NEW》
レッグ:レイヴ(ライテック社)×3《NEW》
レッグ:オーガ(マグガイン社)
To be continue Next MISSION......
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