MISSION10:モカ・マーフ捜索任務(8)
「――ははっ、これで30%は勝ちの目が出て来たって所か?」
操縦席の中、ディサイドは獰猛に口角を吊り上げる。
勝ちにはまだ遠い、十中八九負けるだろう。30%のうち半分以上が強がりで。けれど無理を通し、意地を張り、どうにか勝ち目があるところまで状況を転がせた。
状況は間違いなく最高を超えていて。
それはそれとして、これまで行ってきた無茶な
(もう一発、
更に
この状態であと4機のオークタイプを撃破出来るかと言われれば厳しい。フォルテイオーのフル・イカロスにはこれ以上の打撃力は期待できない。
そもそも3機まとめてオークタイプを撃破する大金星で天秤を水平まで傾けて、さらに支援を続けてくれるのだから文句をつけるつもりはないが。
『まさか、むしろ有利なのはこちらです。
「正直な話、勝ち目は10%だと思ってるんだけど……」
『勝利条件の話ですよ、
モニターの向こうで、アイリスも口角を吊り上げる。
『相手から見て、これは圧倒的な戦力で敵が介入するリスクを抑えた
「ああ、
アイリスの声に応えながら、後ろ手で
「俺と、フォルテイオーが無視できないリスクになったって事か?」
『はい。違約金を支払ってでも、離脱する
リスクが低いからこそ引き受けた
いや、敵の半数以上が様子を見ているのだろう。この
「って事はだ」
ここで倒すべき相手は、1機に絞られる。
『はい、目標とすべきは
夜に降る雨で、ぬかるみと化した大地をコンツェルトの足で踏みしめ。ニアド・ラックの駆るオーガ・ヘッドにカメラを向ける。分かりやすく、ニアドの僚機が下がったのを見て勝機が手に届きそうなところまで転げ落ちて来たことを確信した。
「――勝率は50%ってギリギリ強がれるな」
『はい、それ位の気持ちで挑む位で丁度いい格上の難敵です』
だが互角とは口が裂けても言えはしない。重装甲のオークタイプを撃破するには最低でも2手。その上でシールドユニット1枚を抜き切り、合計3手の致命傷を叩き込む必要がある。
その上で、あらゆる距離に対応した武装を揃え。堅実な立ち回りで敵を丁寧に削ってくる戦い方は。正面突破の難易度に限ればブロッサムストーム以上、難攻不落の機動要塞と呼んでも過言ではない。
「戦況確認は、ナンデーナを頼る。アイリスが」
『
雨降る夜に、ぬかるむ
◇◇◇ The coin was flipped ◇◇◇
明らかに味方の動きが鈍っている。あるものは夜の空を舞うフォルテイオーをけん制するという名目で、またあるものは敵の増援に備えるという名目で戦場の中心から距離を取り始めて。
もう1つか2つ、不利な事態が重なれば。違約金を支払い戦場から逃げ出す心づもりが見え透けている。
「――信用できる
そもそも、この手の
リスクが報酬を上回った時点で、仕事から降りるという宣言ではあるが、逆を言えばリターンがリスクを上回っている限りは裏切らない事の証明に他ならない。
「悪くない選択肢を、選んだはずだったんだがなぁ」
自分の目の届く範囲で、未登録市民であるとはいえ、ユニティ法上で人間として扱われないとはしても。
それこそ、ニアド・ラックがこの
(だからこそ、ライテック社が不干渉を決め込むだけの戦力を揃えて)
しかし、その結果がこれだ。たった一人の
(ここで、一度生きながらえて。それで――)
しかし依頼という形で、レイリブルー社がこの街を守ると宣言した以上。
最低限の後ろ盾は生まれている、この先行われる大規模な再開発事業による投資の流れ次第ではこの街に複数名の登録市民が生まれ。防衛できるだけの自治体まで成長する可能性は無視できない。
(だが、そもそも)
ニアド・ラックの駆るオーガ・ヘッドのモニターに、赤泥を踏みしめまっすぐ
純粋に戦力を分析する。
(相応に消耗した、コンツェルト1機で――)
他の
「このオーク・ヘッドを正面から、突破できる可能性は」
ニアド・ラックは、その大きな手で操縦桿を握り直し。深く息を吸い込む、あくまでも今の自分は大きなシステムの一部として動いており。その中で己が考える最善を尽くしていることを確認しなおし。
「お前の口癖を真似るなら99.999%不可能だ、
『なら、その0.0001%を通すだけだ。ニアド・ラック!』
位相ヴァルター機関を咆哮させ、青いコンツェルトが闇の中を切り裂いて迫る。相対距離は500m。亜音速で迫られれば、2秒とかからず距離が詰められるが――
「通させんよ!」
オークタイプは決して鈍重な機体ではない。重装甲、重装備を重ねた上で、一般的なレイブと同等に近い水準の巡航速度を維持できている。時速300km弱の速度は、亜音速には及ばずとも、全力で後退を行えば無視できない時間の壁となる。
稼げる時間は1秒か、それとも2秒か。だかそれだけの時間があれば。
(
6発のミサイル、
赤泥を散らして迫るコンツェルトへ、ミサイルが弧を描き、360mmのAPFSDS弾が襲い掛かり。
夜に流れる硝煙の中で、刃が振われシールドが砲弾を弾く甲高い音が響く。
(
普通ならば、この斉射を掻い潜ることなど出来ない。いや潜ろうと思わない。
(その上でミサイルは、半数はマントで防いだようだが――)
状況は接敵寸前、
予想通り、予定通り。確率的にはあり得る範囲。だが違和感が脳裏を過る。
(この程度か?
予想通りに、コンツェルトの右手に
だが、それが振われる前に
これで詰みだ。たとえここから
万が一、装甲にねじ込まれる羽目になったとしても
(こうなることは
その上で、何か策が無ければ。ここまでの無茶をする意味は無い。
「お前の最後の手札は――」
ボロボロになったコンツェルトが左手の
「その程度かと聞いている、
強引に装甲の隙間に捻じ込んで撃たれない限り、
疑念と共に、引き金を押し込み
しかし、倒れる寸前のコンツェルトの胸部から何かが飛び出した。夜の雨を映すモニターの端で動いた影をニアドの瞳は捉える。それは以前ショップで買っていたコートを纏った
「生身――っ!?」
その瞬間、脳裏でコンツェルトが最後に
(ハッキングを――っ!?)
ただハッチを開くだけでも、敵味方識別システムがある。緊急時にハッキングで開くことも不可能ではないが、戦場で悠長に時間をかけてやれる事ではない。
「させる―― もの、かっ!?」
振り払おうと、機体を揺らそうとした瞬間。目の前で倒れかけていた青いコンツェルトの
「再起動、だとっ!」
位相ヴァルター機関は
「あの声の女か!」
ニアド・ラックは改めて
(――落ちた、か?)
闇夜の中で、赤泥に落ちた
「なんだ、と……」
操縦席の上、夜の向こうから。獰猛な笑みを浮かべた
「この手の作業は得意なんだ。拾ったパーツをハックする位は片手間でやれる」
確かに、一般的な端末でコンソールにアクセス出来れば5分程度でハッチを開くことは出来るだろう。だがそれを戦闘中のアームドマキナに飛び乗って、これだけの短時間でやり切れるというのは技術以上に頭のネジが飛んでいるとしか思えない。
「――その貧弱な
ニアド・ラックは息を吸う。最低限ユニティが規定する居住区画に踏み込める範囲ではあるが。それなりの
肌に1発2発なら、意識を失う事はない。
その間に
だが、それよりも―― 握ったままの操縦桿のトリガーを押し込んだ方が早い。
「殺しは、しないさ。
死にはしない、ただネットワークにアップロードされるだけだ。
何よりも、ここまで追い詰められた意趣返しの一つでもやらなければ。ニアド・ラックの気が済まない。
だが右手を振り上げた直後、ハッチの向こう機体の外側で甲高い音と共に
脳の中で可能性を精査する、青いコンツェルトは崩れ落ちたまま。
そこまで考えたところで、レーダーの上に未登録のレイブが存在していたことにニアドは気が付いた。野生の、いやこの街を守ろうとした未登録市民の駆る機体。
未登録市民は法の制約は受けない。
これまで脅威とすら考えていなかった。あるいはいつの間にか撃破されていただろうと無意識に考えていた
「こいつも非殺傷だ、99%死にはしねぇよ。ニアド・ラック!」
気づけば、目の前に
◇◇◇ Mission accomplished, for both...... ◇◇◇
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